第35話 舞奈と絵美里1
あの後俊則が起きて、可哀そうなくらい落ち込んでいた。
私にもすごく謝ってきた。
もう怒ってないよって言ってもずっとごめんねって。
でも私は逆にそんな俊則をもっと好きになった。
だから可愛い顔を作って「今度は頑張ってね。期待しているよ」って煽っておきました。
このくらいは良いよね?
赤い顔の俊則は可愛い。
取り敢えず私は俊則をお母様とお父様に紹介して、お母様はすごく気に入ってくれたけど、お父様は…うん。
私凄く愛されているのが分かったんだよね。
「まさかもう一線を越えたのではあるまいな?」
そう言われてビクッとしたけど、越えていないのは本当だから。
越えようとしたけどね。
まあ未遂だから問題はないと思う。
でも最終的には認めてくれたから、俊則もほっとしていた。
なんか俊則『神の意志を継ぐもの』っていう称号持ちらしいから、追い出すことなんてできないんだけどね。
まあ同室は許してくれなかったから、俊則は今客間にいるけれど。
それからいろいろお話をして、状況を共有することもできた。
俊則また女の子を助けていたし。
まあまだ小さい女の子らしいけど。
家の従業員の娘だった。
助けられて良かった。
そして私は今ミリー嬢がいる貴族牢に来ているところだ。
同席を望んだ俊則だったけど、お父様が死罪にはしないと決めた後だ。
私を信じてほしいって言ったら俊則にっこり笑って、
「俺の後輩をよろしく」
って、送り出してくれた。
だから私は彼女と話をするために来たんだ。
断罪するつもりはもうなかった。
※※※※※
貴族牢は名前の通り、高貴な者を閉じ込める施設なので、出入りの制限がある以外は立派な客間だ。
ちゃんと侍女もついている。
まあ今はお茶だけ用意してもらってから退席してもらったけどね。
ミリー嬢は貴族牢のベッドに座り俯いていた。
私に気づくと土下座をしようと正座したので、私が止めた。
「ミリーさん、いいえ、絵美里。お父様が決めたことを反故にするつもりはありません。お話がしたいの。座ってくださる?」
私は応接スペースへ行きソファーに腰かけた。
絵美里はおずおずと私の正面に座り深々と頭を下げる。
「ロナリア様、申し訳ありませんでした。ご温情、感謝の念に堪えません」
「頭を上げてくださるかしら?言ったでしょ?話し合いに来たの。それから…」
「私は高坂舞奈よ。あなたの1個上だから舞奈さんでも高坂先輩でも呼びやすい方で呼んでね」
「はい。舞奈さん。……ごめんなさい……わたしが本田先輩を……」
私は大きくため息をつく。
「反省しているのよね?」
「はい」
「ふうー、もういいわ。……俊則も怒っていないし」
「…そう…ですか」
俯く絵美里。
私は大きな声で絵美里に言葉を投げかける。
「もう、良いって言ったでしょ?話し合いをしたいの。いい加減にしてよ」
「っ!?……はい。ごめんなさい……わかりました」
「私は正直、あなたを許せそうにはない」
「……はい」
「でも…俊則に聞いた。あなたも大変だったって」
絵美里は目を見開き、驚愕が顔に浮かぶ。
「……どうして…なんで本田先輩…優しすぎるよ」
「あげないわよ」
「っ!?……ごめんなさい……諦められません」
「はあ……そうだと思った」
私は絵美里をじっと見つめた。
「ねえ、私鑑定の能力があるの」
「……はい」
「見ていいかな?あなたの事」
絵美里は覚悟を決めた目をして私を真直ぐに見つめた。
「私以前、子供の頃の記憶がなかったんです」
「……」
「でもこの世界にきて、養父に犯されたときに全部思い出したんです」
この子は!
……この世界の男は…くっ。
「どうして私に伝えたの?」
「きっと鑑定だと分かると思ったから……たぶん、ショックが大きいと思いました」
ああ、きっとひどい目にあったんだ。
今のこの子は理知的だし……とてもいい子に見える。
「……聞かせてくれる?私、なんで貴女があんな事をしたのか知りたいの。話してくれるならその方が良い。……辛いだろうけど貴女のせいで辛い思いをした人がたくさんいる。……いいわね?」
「はい。当然だと思います。…でも泣く事は許してください。冷静にはお話しできないと思うから」
そして強い子だ。
俊則が尊敬するって言ったのが分かってしまう。
「ええ………ごめんなさい。私、いやな女だ」
「…本田先輩が好きになる訳ですね……舞奈さん、優しいです」
気付けば私は涙を流していた。
絵美里も泣いていた。
絵美里はそれから小さい頃の話をぽつぽつと泣きながら話してくれた。
そしてどうして俊則を殺したのかも。
自分が自殺した経緯も。
「この世界がゲームだったことは知りませんでした」
「そうね。そりゃあ止められないわけだ」
沢山泣いて二人の顔は今パンダみたいになっている。
さっき思わず二人で笑っちゃったしね。
「ねえ絵美里」
「はい」
「友達になろっか」
「えっ?」
ものすごく驚いた顔をしている。
あれ?私なんか変なこと言った?
「その、私、悪い人ですよ?たくさん酷い事した極悪人ですけど」
「プッ、あはは、あははははははっ、あははっ」
「???」
私はお腹を抱えて笑う。
絵美里は意味が分からないように困惑している。
「じ、自分で『悪人』とか言う悪人いないからね?もう、絵美里。おかしい」
「えっ、でも……その、私……」
顔を染める。
うん、さすが主人公だわ。
めっちゃ可愛い。
スタイルも改めて見ると凄いな……F?
「あのね、あなた法的には無罪なのよね。今のところ」
「えっ?でも……」
「今って惑わした人ってどうなっているの?」
「えっと、多分もう支配力はないはずです。全部解除しましたから」
お父様も言っていた。
王都はほぼ通常に戻っている。
一部彼女の能力でタガが外れたような輩が暴れているだけだ。
きっとこの子は無自覚だろうけど、破壊行動をするような人は元々その因子がある人だ。
だから能力に囚われなくても、いつか罪を犯す可能性の高い者が今回暴れた。
相当数の人が死んだけど……今からはむしろ治安が良くなる可能性が高い。
だからと言って許される事ではないけれどね。
異性を襲うのは……まあ全員あるよね。
因子くらいは。
だから100%悪いわけではない。
お父様から聞いたよ?
きっとそういう欲望が、少なからずあったって。
私はもう、この子を助ける方向へ思考をシフトしていた。
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