第36話 舞奈と絵美里2
「ねえ、俊則のどこが好き?」
「えっ?うあ…そ、その…や、優しいところ…あと…可愛い」
顔を赤くして俯く。
はあ、これ俊則もいけないよね。
あの人優しすぎだもん。
きっと無自覚に色々していそうだわ。
「いつから好きなの?きっかけは?」
「えと…中学1年生の時からです…私色々あって……怖い先輩に囲まれて……その、体を…」
「あー、わかった。ごめん、良いよ言わなくても。それで俊則が助けてくれたのね?」
ふーん。
もう、辛い子を颯爽とカッコよく助ければそりゃ惚れちゃうよね。
「俊則カッコよかったの?でも意外だな。彼喧嘩とか全然だって言っていたのに」
「はい。弱かったですよ。ただ3人に殴られたり蹴られても、先輩ただずっと私を守ってくれるだけで……手とか全然出さなかったです。ずっと耐えていて……」
思い出したんだね。
なんだか可愛い顔しているし。
「それで先輩傷だらけなのに、にっこり笑って……『大丈夫?怪我無い?』って……自分は顔から血も出ているしいっぱい怪我しているのに……わたしと関係ないのに…」
そして涙があふれる。
「それで帰り道、色々お話ししたんです。そしたら先輩……ポロポロ泣いて…わたしがずっと誰にも言えないくらい、辛くて、歯を食いしばっていたことを……褒めてくれたんです。…嬉しかった……もう大好きでした」
私は思わず天を見上げる。
あー、俊則のたらしめ。
そりゃ惚れちゃうわ。
そして多分、ううん絶対……彼、下心なかったはずだ。
高校1年の時の絵美里確かにすごく可愛かった。
たぶん中学の時だって相当可愛かったはずなのに……
「それでそのあと声とか掛けなかったの?もう好きになったんでしょ?」
俊則は彼女とか居たことないって言っていた。
あの無自覚優しい男、絶対好きになる女の子居たはずなのに。
「……一度だけ、お話ししました。でも先輩……お医者さんになりたいから、勉強頑張りたいって……そして3年になったら急に暗くなっちゃって、誰も寄せ付けなくなって……」
……お父さんが亡くなったんだ。
そして現実を知って……諦めたんだ。
「私辛くて……ごめんなさい。でも嬉しくて……だって誰も先輩のこと好きにならなくなったから……それまでは多分10人くらいの女の子たちがいつもキャーキャー言っていたから……その、ごめんなさい」
「うん。いいよ。……わたしも好きになったとき、俊則カッコ悪くて安心していたから」
うん。
もういいかな。
たぶんこの子はもう、他人を傷つけるようなことはしないはずだ。
目がそう言っている。
だけど彼女はいつからこの世界にいたのだろう。
神様に会ったのかな?
なんか創造神様『あれはミスじゃ』とか言っていたけど……
「ねえ絵美里、あなた転生したときって神様とお話ししたの?」
「……私狂っていたんです」
「うん?」
「えっと、全部がそうか分からないけど、自殺すると魂が穢れて因果が刻まれるって、死んだとき怖い鬼みたいな人に言われたんです。だからみんな、えっとその時は多分100人くらい私と同じような人がいたのですが……俯いていたのだけど……わたし泥棒したんです。鬼が持っていた光る石みたいなものを」
「……」
「そしたらこの子、ミリーの中にいて……その……3人くらいの男の人に乱暴された後みたいで……わたし怖くてずっと黙っていたら……その、男の人たちぎゃはぎゃは笑いながらいなくなって……必死に逃げたんです。そこで養父に拾われました」
あーこのくそ世界、くそ運営め……
ダメだ。
絶対にどうにかしないと。
「そしてやっぱり養父にも……そのあと泣きながら湯あみしていたら突然光に包まれて、聖魔法と精神魔法が使えるようになったんです。そして本田先輩の事が浮かんできて……分からないけど絶対また会えるって、感じました」
たぶん元のミリー嬢はその時死んだんだ。
男にいたぶられ凌辱され……
絵美里は可哀そうなほど酷い目に遭いすぎていた。
むしろ今正常なのは奇跡だろう。
はあ、愛ってすごいな。
どうしよう。
この子の恋、応援したいかも。
でもそれって………無理無理無理。
でも確かこの世界は……一夫多妻OKだよね。
……うー、どうしよう。
でもこの子をこのまま王都に戻すことは絶対にできない。
養父も死んでいるし、他につながりもないこの子は、多分そういう仕事をするしかない。
「あのさ、絵美里。……家で働かない?私が責任を持ってお父様に許可をもらうから」
「えっ?……良いんですか?私は嬉しいけど……でも…その」
私は大きくため息をつく。
もう分っている。
俊則は絶対に最終的にはこの子の事も愛するはずだ。
近くにいればね。
あーどうしよう。
俊則が他の女抱くとか……
死にたくなる。
でも………
私、今もうこの子の事も大好きだ。
「あのさ、絵美里さ、その……俊則の事今でも好きだよね?」
「はい。心から愛しています」
「私と一緒でも良い?」
「えっ?どういう……」
「この世界はさ、一夫多妻OKなんだよね。……か、勘違いしないでよね、私だっていやなんだから……でも、もうあなたを放っておけないよ」
たぶん今の私凄く変な顔してる。
でも、嘘じゃない。
本心だ。
「舞奈さん………わたし負けませんよ?正妻狙っちゃいます♡」
メチャクチャ色っぽい?!
くっ、まずい、そういう系のスキルは勝てる気がしない!!
「わ、私だって負けないからね!!絶対俊則の童貞は私がもらうんだから!!」
やばい。
私顔真っ赤だ。
そしてとんでもないこと言っちゃった気がする。
絵美里は目をぱちくりさせた。
そして、肩を震わせながら笑う。
「ぷっ、あはははっ、もう、舞奈さん、可愛い。……ありがとう。嬉しいです」
「でも……きっと本田先輩、あなたを選びます。だから私は2番目でいい。それでも天に昇るほど嬉しい。……ありがとうございます。希望をくれて」
そして二人、いつの間にか抱き合って泣いていた。
子供みたいに。
私はわざわざ恋敵を作ってしまっていた。
……違うね。
同志だ。
俊則?
覚悟してね。
主人公は女としてチートなんだから。
私だって負けないからね。
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