第10話 卒業パーティーの準備

過去を思い出した私は、泣き疲れて知らないうちに寝てしまっていた。

途中でまずいと思い、ベッドへ移動したのはファインプレーだろう。

もちろん色々な物はストレージに収納済みだ。


「ロナリアお嬢様、ロナリアお嬢様」


ルルの声に、わたしの意識が浮上していく。


「ん、んあ……ああ、おはようルル」

「ロナリアお嬢様…って、どうされたのです?お顔が、目が」


私はベッドから起き上がり大きく伸びをして、ルルに向き合った。


「夢を見たの。恐ろしい夢を。ごめんなさいね、手伝っていただけるかしら」

「はい、えっとそれではドレッサーへ移動していただけますか」

「ええ、よろしくね。ルル」


私が目を覚ましたことを伝えられた父が、すぐに会いたいから準備するようにとルルに指示を出したのだ。


「はあ、本当にお美しい。奇麗な御髪です」


化粧を直してもらい、髪を整えられる。

まさに深窓の令嬢のような対応だ。

ちょっとくすぐったく感じるのは、38歳独身女性としては、仕方がないのだろう。


「はい、完成です。はああ、本当にロナリアお嬢様はお美しいです」

「ありがとうルル。あなたのおかげよ」


そんなタイミングで私室のドアがノックされ、見たことのある美丈夫が部屋に入ってきた。

ウッドストック伯爵家当主で父のジェラルドが、目を見開き私に近づいて来た。


「おお、ロナリア、可愛い我が娘よ。良かった、心配したぞ?あまりパパを悲しませないでくれ」


そしてながれるようなハグをする。

女慣れしている様が少し鼻につくが、今の私は可愛い娘ロナリアだ。

それなりの演技は必要だろう。


「お父様、ご心配をおかけしました。わたくしはもう問題ありません。5日後の卒業パーティーも参加したいと考えております」


「それは良かった。是非そうしなさい。エスコートは……ロナリアはまだ婚約していないからな。全くこの国の男どもは見る目がない。ロナリアはこんなにも美しいというのに」


そうだ。

エスコートの事すっかり忘れていた。

婚約者がいる場合は問題ないが……

居ない場合は父か兄。


「お父様、ご予定はおありですか?もしよろしければお父さまにお願いしたいのですけれど」


少しシナを作り上目遣いで見つめる。

くううー、アザトイな、おい。


「ああ、可愛いロナリア、魅力的な提案だが、あいにくその日は予定があってな。仕方ない、レイナルドならその日は空いているはずだ。ルル、伝えてくれるかい」

「はい、承知しました」

「うん、いい子だね」


ん?

なんだ今の顔?

コイツもしかして……


「まあ、レイナルドお兄様にお願いできますの?素敵」


うーん、これであっているのか?

良く判らん。

でも『仲がいい』ってルルが言っていたよね。


「ああ、そうしなさい。レイナルドも喜ぶだろう。そうだ。ルイラにも元気な顔を見せてあげなさい。心配していたよ」

「はい。お父様。この後伺いますね」


それだけ言うと父ジェラルドは部屋を出ていった。


怪しい。

先ほどの父のルルに向ける顔。

あれは欲情の目だ。


「どうしてやろうかしら。とりあえずお母様よね」


この世界の主人公はあくまであの男爵家のミリーだ。

つまり攻略対象は男性。


残念ながら父もそうなのだが。

接点はどこだっけ?


そもそも第2王子のカイザー殿下と卒業パーティーであれだけやらかした後に、15人の攻略対象とやるってどういう神経しているんだ?


ゲームならともかく……

ここは一応現実だ。


私は心を静め、一つのスキルを使用した。


『神様、創造神様、聞こえますか?舞奈です』

『………聞こえるぞよ?どうじゃ新しい暮らしは』

『はい、まだ始まったばかりですが。ありがとうございます。スキル沢山いただけて』

『なーに、かまわんよ。それでどうしたのじゃ』


私はベッドへ移動し腰を下ろす。


『はい。ここはゲームの世界。強制力は働きますか?』

『うむ、難しい質問じゃのう。まあ普通に考えれば、主人公の行動次第じゃが、そこは一応本物の世界じゃ。巻き戻しはできない。ならば答えも見えようぞ』

『つまり同タイミングのイベントは不可能という解釈でよろしいですか』

『うむ。舞奈は本当に賢いのう。うまく立ち回るがよいぞ』

『はい。あっ、あと一つ。……死亡が確定しているキャラはおりますか』

『……行動次第じゃが……同じ理屈じゃよ』

『……承知しました』

『うむ、まあ、楽しんでくれ』


よし。

ならばいくつかは防ぐことができるわね。

正直王子とかどうでも良い。


まずはエリス嬢をどうにかしないと。


「ロナリアお嬢様、レイナルド様が面会を希望されていますが御通ししてよろしいでしょうか」


父の時と対応が違うな。

やっぱり黒っぽいね。


「ええ、お願いできるかしら」

「はい。…お見えになります」


そう言うと扉から金髪イケメンが部屋に入ってきた。

レイナルドお兄様だ。

確か来月結婚するのよね。


「ああ、可愛い妹よ。良かったな無事治って。……心配したぞ!?」


そしてスムーズなハグ。

ん?こいつもやけに慣れている臭いな。


「ご心配をおかけしました。ロナリアはもう平気ですわ」

「エスコートだったね。問題ないよ」

「ありがとうございます。ふふっ楽しみだわ」

「喜んでもらえて良かったよ。あとで衣装合わせをしよう」

「はい。お手数かけます」

「かまわないさ。可愛い妹の卒業パーティーだ。父上も悔しがっていたぞ」

「まあ」


そして颯爽と退室する兄レイナルド。

よし、これで心置きなく母のところへ行ける。


……部屋どこだろ?


「ルル、良いかしら」

「はい、ロナリアお嬢様」

「お母さまの部屋に案内していただける?」

「は、はい、えっと、奥様の部屋ですよね。あの、ああ、まだ混乱されてるのですよね」


んん?やっぱり怪しいな。

まあ、くそ運営の設定だ。

こういう弊害は致し方ないか。


「ええ、もし立て込んでいるようならお母さま付きの侍女を呼んでいただけるかしら」


さあ、どう出る?


「いえ、わたしがご案内いたします」

「ええ、よろしくね」


簡単に尻尾は出さないか。

まあ本人双方承知なら別にいいけどね。

誰と誰がくっつこうが。

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