初恋の人を追い駆けて奈落の底へ

天川裕司

初恋の人を追い駆けて奈落の底へ

タイトル:(仮)初恋の人を追い駆けて奈落の底へ


1行要約:

盲目の恋を味わった男女の末路


▼登場人物

●葉佳南伊子(はかな いこ):女性。40歳。専業主婦。今の家庭に不満を持つ。

●葉佳南雄三(はかな ゆうぞう):男性。45歳。どちらかというと関白天下だが、本当は妻を愛している。

●葉佳南静美(はかな しずみ):女性。17歳。伊子と雄三の一人娘。不良だったが、孝行に目覚める。

●戸津信也(とつしんや):男性。40歳。学生時代に伊子と相思相愛だった。今の家庭に不満を持っている。絵描き。生活力は無い。

●戸津タメ子:女性。41歳。信也の妻。強欲。嫉妬深い上に冷血。信也を金儲けの道具と見ている。絵描きとしての信也を売り込むプロモーターの腕は抜群。

●華矢加奈(はなや かな):女性。30代くらい。伊子の願望から生まれた生霊。キャリアウーマン風でとても美人。

●警察:一般的な警察のイメージで。


▼場所設定

●葉佳南家:一般的な戸建て住宅のイメージで。

●戸津家:豪邸のイメージで。

●個展会場:一般的な会場のイメージで。結構大きな回廊もある。

●バー「炎天下」:オシャレなバーの感じで。

●駅:信也と伊子の自宅から最寄り。一般的な駅のイメージで。


NAは葉佳南伊子とナレーションでよろしくお願いいたします。

※一応、朗読動画用に書いています。



オープニング~


魔女子ちゃん:ねぇぷちデビルくん、ぷちデビルくんって初恋の経験とかあった?

ぷちデビルくん:初恋だって?俺ぁデビルだぜ?人間みたいに恋にうつつを抜かすなんざ有り得ねぇよ♪

魔女子ちゃん:そっか~。やっぱぷちデビルくんは生来女の子とは無縁の生活送ってんだね。

ぷちデビルくん:へっ、別にどーって事ねぇよ!

魔女子ちゃん:今回のお話はね、今の生活に凄く不満を持ってる、主婦と夫の並行した生活から始まるエピソードなんだ。

魔女子ちゃん:初恋同士の男女がいてね、お互いにもう40歳で、家庭も持ってるんだけど、どうしてもその家庭に不満が募って「現実から逃げたい」って思い込んじゃうの。

ぷちデビルくん:ほう。まぁ現代にゃよくある話だな。

魔女子ちゃん:で、その主婦は伊子さんって言うんだけど、伊子さんの前に現れた不思議な人から初恋のその人との駆け落ちを勧められちゃうんだけど、最終的にはかなり悲惨な結末に落ち着いちゃうのよ。

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)



メインシナリオ~

(メインシナリオのみ=4527字)


NA:伊子)

私は葉佳南伊子(はかな いこ)(40歳)。

私は今の家庭に不満を持っている。

私には夫の雄三と一人娘の静美がいる。


ト書き〈葉佳南家の様子〉


NA)

娘は高校頃からグレ始めた。

万引きなんて日常茶飯事。

夫は毎日帰りが遅く、偶に早く帰って来たら来たでもともと関白天下の気質もあるせいか、何でもかんでも私に当たる。


ト書き〈家で1人俯く〉


伊子)「はぁ…。あたしの人生って一体何なのかしら…」


ト書き〈絵画個展のチラシが舞い込む〉


NA)

そんな或る日…


伊子)「これって…あの人…?」


NA)

チラシの片隅に「戸津信也の絵画個展」と紹介されていた。

戸津信也、この名前に聞き覚えがある。

私の学生時代の初恋の人の名前。

彼は学生時代から絵を描いていた。

私の絵を描いてくれた事もある。


伊子)「まさかね…」


NA)

私と信也は同級生。その頃から交際し、婚約までした。

でも親の猛反対により、結局、破局。

そして数年後、私は今の夫と結婚。

信也も別の女性と結婚した。


ト書き〈個展会場に行く〉


NA)

私は結局、絵画展に足を運んだ。

数点絵を見て行く内に、私にそっくりの女性の絵があった。


伊子)「え…!これって…」


NA)

私が暫くその絵を見ていた時、女性が1人近寄って来た。


タメ子)「奥様、お目が高いですわねぇ~。これ、戸津の絵の中でも1番人気なんですよ。今買えばたったの100万円!どーです?」


伊子)「ひ…100万…?!」


NA)

私はすぐ会場を出た。


ト書き〈家庭不和〉


雄三)「おい伊子!仕事中は部屋に入るなって言ったろ!」


伊子)「ごめんなさい!…でも家にまでお仕事持ち込まなくても」


雄三)「うるさい!今は忙しいんだ!」


NA)

夫は最近、自宅でもずっと仕事をしている。

私の相手なんかまるでしてくれない。


ト書き〈電話〉


伊子)「もしもし?」


警察)「葉佳南さんのご自宅ですか?」


NA)

静美がまた万引きで捕まった。


伊子)「もう…イヤ」


ト書き〈数日後〉


雄三)「おーい伊子、今日も遅くなるからなぁ~♪ヒック、晩飯食って帰るから要らねぇぞ~!ほんじゃな」(電話)


伊子)「え、ちょっと!…せっかくお鍋作ったのにィ…!静美もどっか行ったままだし…」


NA)

私はこの日つい堪り兼ね、近くのバーへ初めて1人で飲みに行った。


ト書き〈バー「炎天下」〉


伊子)「う…まっず」


NA)

私はもともとお酒が飲めない。

でもこの日はヤケだった。


加奈)「こんばんは」


NA)

突然、隣りに座ってた1人の女性が声を掛けて来た。

キャリアウーマン風の美人。


加奈)「何か、嫌な事でもありましたか?」


伊子)「え?」


NA)

何となく不思議な感じ。

女性には何とも言えない暖かさがある。

私はつい身の上と、今の悩みをほとんど喋ってしまった。


伊子)「今の主人とは仮面夫婦みたいで…。娘も高校頃から生活が荒れて、いつ大きな事件でも起こさないかとヒヤヒヤもので…」


加奈)「家庭不和ですか」


伊子)「自分の人生についてもよく思うんです。これでいいのかなぁ…なんて」


加奈)「…今の生活から脱出したい、どこか心休まる場所で人生をやり直したい。出来ればその新しい空間で、自分の事を本当に愛してくれる男性と一緒にいたい…そんな理想を持ってらっしゃるんですね」


伊子)「…はい」


加奈)「きっとあなたは、今の旦那さんとその理想の男性を見比べてらっしゃる。でもどちらかと言うと、その別の男性の方に気が引かれていますね?」


伊子)「…」


加奈)「そんなに深刻に考えないで。こういう悩みは主婦の方に多いんです。…どうぞ、ハーブティです。気持ちが落ち着きますよ」


ト書き〈取り敢えず出されたハーブティを飲む伊子〉


伊子)「ところであなたは、どういう…?」


加奈)「これは申し遅れました。私こういう者です」


NA)

女性は名刺を差し出した。


伊子)「『専業主婦の味方―心のトビラを開くのは今!』メンタルコーチ・華矢加奈…」


加奈)「実は私、あなたのような心悩める専業主婦の方の為に、理想的な空間と、第2の生活へのスタートラインをご用意しております」


加奈)「いかがです?1度、お試しになられませんか?」


伊子)「心のトビラ…第2の生活…」


NA)

私は助言を聴いてみる事にした。

どうせダメ元。


伊子)「お、お願いします!私どうすれば?」


加奈)「あなたは本能の赴くまま動くべきです。おそらくあなたを今の生活からさらってくれるその方は、あなたの初恋の方でしょう。1度その人と手に手を取って、今の生活から脱出して見るべきです」


加奈)「でもそうする以上、あなたは運命の歯車を背負わねばなりません。その覚悟がもしおありなら、今すぐ行動なさい。でも今の生活を大事に思うなら、初恋の人の事は一切忘れる事です」


伊子)「…」


ト書き〈翌日〉


NA)

私は遂に、戸津信也に電話を掛けた。


信也)「い…伊子さん…!伊子さんだね!?」


伊子)「信也さん…!」


NA)

彼の携帯番号を知らなかった私は、取り敢えず個展会場に電話した。

繋がる訳ないと思いながら掛けた電話だが、偶然、仕事でまた画廊に来ていた信也が私の電話を取ってくれた。

これも運命だと私は信じた。

そして…


ト書き〈戸津家にて抱き合う2人〉


伊子)「やっぱりあなただったのね!」

信也)「伊子ォ!」


ト書き〈駆け落ちの約束〉


信也)「そうか、君も今、幸せじゃないんだね」


伊子)「本当に、あの時もしあなたと一緒になっていれば…」


信也)「今からでも遅くないよ!もう1度、やり直さないか!」


伊子)「で、でも信也さんには今の生活が…。それに奥様だって」


信也)「…実は僕も君と同じなのさ。今の女房…タメ子ってんだが、あいつは僕を金儲けの道具にしか見ていない!僕もこんな生活は嫌なんだ!」


信也)「貧しくてもいい!愛する妻と支え合える家庭が欲しかったんだ!」


NA)

この日、信也は奥さんと離婚すると言ってくれた。

そしてもう1度2人でどこか新しい場所へ行き、1からやり直そうと。


ト書き〈翌日の夜、家出〉


伊子)「そうよ!私やっぱり信也のような人を愛してたのよ!こんな生活、もうイヤ!私の人生だもの、やりたいようにやって行くわ!誰かに『悪い』って言われても関係無い!私は自分の本当の夢をあの人と掴むのよ!」


NA)

私は夫と娘が寝静まってから、密かに荷造りをした。

そして、信也と待ち合わせした駅へ向かう。


ト書き〈駅〉


伊子)「ハァハァ…!し、信也さん!」


階段を駆け上がると、信也が待っていた。


信也)「伊子ォ!」


私達は抱き合い、手に手を取って、夜行列車で郊外へ引っ越した。

絵を描くのに困らない程度の掘っ立て小屋を、信也は見繕ってくれていた。


ト書き〈朝、葉佳南家〉


雄三)「ふぁ~。お、静美、お前掃除してるのかぁ」


静美)「うん!あたしね、今までの自分を反省したの。これからはパパやママに心配掛けないようにしようって!今までの分、一杯孝行するからね!」


雄三)「そっかぁ。いやぁパパもここん所、課長に昇進するかどうかの瀬戸際だったから、何かと仕事忙しくてな。でももうこれからは大丈夫だぞ♪」


静美)「え、じゃあパパ…?」


雄三)「ああ、今度、課長に昇進したよ!」


静美)「おめでとう~パパぁ!早くママにも報せなくっちゃ!」


静美・雄三)「ママー」


ト書き〈戸津家:信也の置手紙を見て〉


タメ子)「あんの男…!一体何のつもりよォ。離婚ですってぇ!絶対許せないわ!せっかくの金づるを逃して堪るもんですか!」


ト書き〈掘っ立て小屋を探した時のパソコン履歴を調べるタメ子〉


タメ子)「ん…?」


ト書き〈掘っ立て小屋〉


信也)「ダメだ!生活が気になって絵に集中できない!おい伊子ォ!お前も少しは家計の足しになる事しろよ!俺の絵を売って来るくらいしろ!」


信也)「あーあ、これじゃあ前の妻の方が良かったな!中身はああでも、俺の絵、ちゃんと売り込んでくれてたしなぁ!」


伊子)「そんな!こんな山奥に来るから、働きたくても働けないんでしょう!」


信也)「ンだと!てめぇ!」


NA:ナレーション)

信也は勢い余り、つい手近にあったナタを振り翳し、伊子を目掛けて思いきり振り下ろした。

脅すだけのつもりがすっぽ抜け、ナタは伊子の首へモロに直撃。

その瞬間、伊子の生首がゴロンと床に転がった。


信也)「ひ…!ひぃいぃ!」


ト書き〈タメ子登場〉


タメ子)「泥棒猫、殺しちゃったみたいね」


信也)「タ…タメ子…?お前どうして…」


タメ子)「この掘っ立て小屋よ。あんたネットでここ捜したでしょ?パソコン履歴に残ってたわよ。それよりどーすんのこれ?あんた立派な殺人犯よ?」


信也)「ど、どうしよう…。こ、こんなつもりじゃ…」


タメ子)「良い手があるわ。アンタ、この子描きなさいよ。もともとアンタの個展で1番売れてたのは、この女の肖像画だったんだから」


信也)「え…」


タメ子)「あの絵、この女でしょう?初めにあの絵に付けてたタイトル、あたし憶えてるわよ。確か『初恋の人』って題だったわね。それこの子でしょ?」


タメ子)「想像であれだけ描けて売れたんだから。今度は間近で見てリアルに描くのよ。もっと売れるわ。そうねぇ。これまでの『感動系絵画』の傾向から、『怪奇系絵画』の傾向に転向しようかしら。それがいいわ!」


タメ子)「アンタに商才なんかカケラも無いんだから、絵描きとしてやってくにはアタシの言う事聴く以外、無いと思うケド?」


信也)「…」


ト書き〈その掘っ立て小屋を遠くから見守る加奈〉


加奈)「ふぅ。結局こんな悲しい結末になっちゃったか。やりたいようにやった所で、結局もっと悲惨な生活…いや墓場に落ち着いたようね伊子さん」


加奈)「私は伊子の願望から生まれた生霊。ただ伊子の心の赴くまま、その願いを叶えてあげる為だけに伊子の前に現れた。私のアドバイスを聴いてどうするかは全て伊子の自由。その行動の未来まで左右する事は出来ないわ」


加奈)「伊子は自分で自分の人生を選択し、結局この結末に落ち着いた。自業自得よね。それにあの初恋の相手・信也も、結局、伊子と念願の同棲生活を始められたけど、自分の生活力の無さから伊子を殺し、もう後戻りの出来ない窮地に自分を追い込んだ。こればかりはタメ子のせいじゃ無いみたいね…」


ト書き〈数か月後〉


加奈)「あれから暫く信也はタメ子の言い成りで、以前よりキツイ束縛の下、伊子の死体を絵に描き続けてたみたいね。でも結局その悪行は警察にバレて、今じゃアトリエに使ってた小屋は文字通り掘っ立て小屋になってるみたい」


NA)

しかし伊子の死体は小屋から出て来なかった。

既にタメ子と信也が伊子の遺体を焼却処分し、またタメ子と信也が黙秘していた為、伊子が殺害された事実が発覚するのはもう少し先の事になる。

あれから葉佳南家では、伊子の行方に関する情報を連日待っていた。

警察には当然「捜索願」が出され、雄三も静美も身を粉にして伊子の行方を追っていた。


ト書き〈パソコンで伊子の生首の絵を見る〉


雄三)「ああ伊子ォ…どこ行ったんだよぉ…」


雄三は伊子の行方を追う為、ネット情報も連日確認していた。

その時、気になる1枚の絵を見付けた。


雄三)「…なんだか気味悪い絵だなぁ。…でもこの絵、何となく、伊子に似てるなぁ…」


NA)

雄三が見た絵のタイトルは『初恋の人の消失』。

逮捕直前に出版された、戸津の「奇怪画集」第1弾目の単品だった。



エンディング~


魔女子ちゃん:はぁ~あ。結局、初恋の人と一緒になっても、こォんな哀しい結末にしかならないなんて。全く現代人の自意識とか欲望ってどーなってるのかしら。

ぷちデビルくん:まぁこれが伊子と信也の「なるべくして成った結末」ってトコなんだろうな。どう足掻いたってこの終焉を迎えるように出来てたんだよ。

魔女子ちゃん:途中で肩押ししてた加奈さんも、伊子の理想とか欲望から生まれた生霊って言ってた割りにゃ、伊子の運命が決まった時には案外冷たかったわよね。

ぷちデビルくん:だから欲望とか理想通りに動いたって、それが果して結果的に幸せになれるとは限んねぇってこったろ。

魔女子ちゃん:そゆ事よねぇ。でも何となくやり切れないなぁ。

ぷちデビルくん:所詮、人間が本能とか欲望のままに「思い立ったが吉日」の精神で動いた所で、こういう結果がやって来るのは大体決まってるって事さ♪

魔女子ちゃん:アンタ、なんか嬉しそうね。

ぷちデビルくん:まぁ、俺ぁもともと人間の不幸を喜ぶ生きモンだしよ♪今回の話にゃ随分楽しませて貰ったぜぇ♪

魔女子ちゃん:アンタみたいなのがこういう結末辿れば良いんだけどね。

(↑朗読動画の場合は無視して下さい↑)



動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=dnjt9cXG1Uk

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