第21話 力と責任と
流れ始めた魔力に呼応して、魔法陣に光が灯る。
まるで星の光のような金色のそれが、魔法陣の上に置かれた精霊鳥の風切り羽や風霊水晶などをゆっくり包み込んでいく。
それぞれの中にある魔力の流れ方を辿り、流れ星のように軌跡を描き、魔法陣と繋がった。
その魔力はすべて、中央に置かれた『星降り』に注がれている。
砕かれた欠片を、ひび割れ小さくなってしまった刃を、魔力の光が繋いでいく。
「……あ。剣が、治り始めてる。不思議……」
見守ってくれているロザリーの呟きが聞こえた。
ああ、とディが腕を組んで軽く頷く。
「魔剣に限らず、魔力の宿るモンの大体は、普通の方法じゃ直せねぇ」
「そうなの? やってみた人とかいるの?」
「いるぜ。世の中は何事もチャレンジだからな。まぁその結果、ダメになっちまってな。その道具の見た目に合わせた一般的な方法で修理をすると、ガラクタ以下になっちまうんだよ。それに、そういうモンは手入れもこまめにしねーとだし」
「少し不便」
「そうそう、不便だろ? でもさ、だからこそ、それらは強い力を持つんだよ」
そう言いながらディは、少し空を見上げた。
「そういうものが誰でもいつでも使い放題になっちまったら、世の中ぐちゃぐちゃになるだけだ」
「便利なのに?」
「そうだね。……便利だから、かな」
「そうなの?」
ロザリーの言葉に今度は僕がそう返せば、彼女は少し首を傾げて僕を見た。
「力には責任が伴うからね。それを放棄して力を振るえば、それはただの暴力だ」
「責任……」
僕の言葉にロザリーは少し思案している様子だった。
少しの間の後、彼女は、
「なら、レオが勇者をクビになったのは、責任を放棄しなかったからなんだね」
と言った。
「え?」
思わず聞き返してしまった。
彼女の言葉に、隣で魔力を注いでいるルインも意外そうに目を瞬く。
「いやいや、僕が勇者をクビになったのは、魔物を倒さなかったからで……」
「ううん。レオは魔物を倒さない。倒せないんじゃなくて、倒さなかった。その選択ができるのは、相手を倒せる力を持った人だから。違う?」
そう言ってロザリーはルインを見上げた。
ルインはこくりと頷く。
「うん。レオさんは強かったよ。一緒に活動をしている間も、ピンチになった時は大体、アルフィンさんかアレンさんがドジった時だったし」
「それは買いかぶりすぎだよ。僕も結構、ドジしてたでしょ」
「そういう時は、アルフィンさんとアレンさんに無茶ぶりされていたから」
「あはは……」
まぁ、それは確かに……。
あの2人、猪突猛進というか、直情型というか。挑発されると怒って突撃しちゃうんだよね……。
それを僕とルインが大慌てで止めに行った事があったなぁと思い出す。
「っていうかよ、さりげなく自分だけはドジってねぇって言っていやがる」
「ドジってないもの」
ディのツッコミにルインは堂々とそう返した。確かにルインは色々と上手くこなしていたもんなぁ。
慎重とも言えるかもしれない。
特に魔法関係で彼女が大きな失敗をしているところを、一緒に冒険している間の事を思い出しても、僕は見た事がない。
何か危ない事があった時は、大抵はアルフィンやアレンシードの押しが強くて、渋々従っていた時くらいだろうか。
……あ、そうだ、危ない事と言えば。
そう考えて、僕は新聞記事の事を思い出した。
「そう言えばさルイン、新聞の件なんだけど……あれは何だったの?」
「あ、えっと。ごめんなさい。アルフィンさんに頼まれて撮っていたら、あれが念写されてしまって」
「ああ、いや、たぶんそうかなって思っていたから構わないよ。監視だったんでしょう? まぁ、放り出された後の事まで危険視されていたのは、ちょっとショックだったけど……」
そう言って苦笑いを浮かべていると、
「あー……ええと、それは……えっと……」
何故かルインの歯切れが悪くなった。どうしたと言うのだろうか。
「えっとね、レオさん。アルフィンさんはレオさんの事がすごく……ええと、その……気になっていたんだよね」
「あ、はは……いつも怒らせてたからなぁ……」
「ううん! ええと、そうじゃなくてね……」
ルインはすごく言い辛そうにしている。
勇者らしくないから、そういう部分が気になっていたんじゃないかと思ったんだけど、何か違うんだろうか。
僕がよく分からずにいると、
「なるほど、俺、分かっちまったわ。レオは本当に鈍いな。そりゃ怒るわ」
「うん。でも鈍くて良かった。分からないままでいて欲しい」
「お前、なかなか言うよな~」
ロザリーとディがそんな事を言っていた。
どうやら2人にはルインの言葉の意味が分かったらしい。
ええー、何だろう。教えて欲しいんだけど……。
「あ、レオさん、そんな事より」
そう思っていると、慌てた様子のルインが魔法陣を指さした。
ちょうど浮かび上がった魔力のほとんどが『星降り』に吸い込まれたところだ。
話は気になるけど、今はこちらの方が最優先だ。
――――ここからだ。
魔力で繋がれた箇所が、そのまま上手く固まってくれれば成功だ。
「…………」
どうか上手く行ってくれと願いながらじっと『星降り』を見つめる。
すると『星降り』の周りに、魔力の光りとは違う、小さな光の粒がキラキラと現れ始めた。
……あれ? この反応は今まで見たことがないぞ。
隣に立つルインも「何……?」と呟いている。どうやら彼女も知らないらしい。
戸惑う僕たちの目の前で、光の粒はそのまま空中に集まり。
――程なくして、薄っすらと透けた人の姿を取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます