第95話 開戦
「す、すげえ・・・これが使徒様の加護・・・」
「うむ・・・これならば・・・!」
パーティーに入っただけでも自らの力が向上したことは感じていたが、今実際にアンジュの攻撃を目の当たりにしてその効果に驚きを隠せないと同時に、自らにも与えられているであろう補正値という名の加護への自信を増したようだ。
アンジュの攻撃は現在も一撃で敵を倒し続けている。彼女が矢を放つ度に複数の風切り音が鳴り、まるでレーザービームの如く一直線に飛んで魔物を貫く。
・・・矢って一度に複数番えてあんな飛び方するもんなのか?これもこの世界独特のステータスが成せる業なのだろうが、なんかしらの物理法則を無視している気がするんだが・・・。まぁええか。
「ご主人様!来ます!」
少しあきれ顔でアンジュの方を見ていた俺にオリヴィエが声をかける。言葉は報告のものだったが、明らかに俺の注意不足に対する警告の意味も混ざっているな。俺を思っての発言だから別に嫌じゃないんだけどね。
オリヴィエの言葉で前方に視線を戻すと、そこはまさに魔物の波が迫ってくるという陳腐な表現がピッタリの光景が広がっていた。
地形の影響で横一列に揃っているわけではないが、そのすべてがほぼ同スピードで走っているから群れの塊が濃くなることも薄くなることもなく均一で動いているが、唯一アンジュが間引いた場所だけが少し薄くなっている程度だ。
魔物が巻き起こしている土埃のせいでその全容こそ把握できないが、逆にもうもうと立ち昇っているそれが魔物の数が大量だという事を示しているともいえる。
実際目の前の光景は絶望に値するものだと思う・・・のだが、やはり俺自身は恐怖こそ感じているものの、絶望には至っておらず、むしろ大半が倒した経験を持つ見覚えのあるものだと言う事に安堵すら感じていた。
自分でもおかしいと思うけど、これが今現実に俺が抱いている感情なのだ。自分自身に嘘を吐いてもしょうがないし、意味もない。
「よし・・・オリヴィエ、ミーナもダメージを受けたと感じたら渡してある薬を躊躇うことなく使えよ!それがなくなったら俺のところにくるんだ!いいな!」
通常の戦闘だったら回復は俺の魔法でいいが、今回ばかりは俺の魔法が間に合わないかもしれないし、薬で賄えるならその方がいい。
だから二人には持てるだけのポーションをそれぞれ渡している。これまでずっと回復を魔法で行っていた貯金が今回は生きた。今の状況だとトレイルのポーションは空っぽだから買おうとしても買えないだろうしな。
・・・まぁギルドカードが使えないからどっちみち買えないんだけど。
「はい!」
「わかりました!」
もうすぐ始まる戦闘に緊張を見せつつも俺の指示に元気な声で返答する二人。
虚勢も混ざっているかもしれないが、少なくとも表面上はかなり気合が入っているように感じる。本当のところどう思っているのかはわからないが、恐怖に怯えて腰が引けているよりは全然ましだろう。いくら強くても縮こまって動けなかったら何の意味もないからな。
いよいよ迫ってきた先頭のフォレストハウンドに対し、迎撃の姿勢をとる。さすがに俺も普段通りとはいかないようで、カルロにもらった剣を握る手にはいつも以上の力が籠められてしまう。
「ふぅ・・・おし!」
一つ息を吐き、気合を入れる。
「ファイアーレイン!」
先頭の魔物が魔法の射程に入ったので範囲魔法をアンジュが間引いていない場所に放つ。
普段の戦いなら3匹程度を巻き込むのがやっとだが、今ならどこに撃っても5~6匹位は巻き込めそうだ。
ファイアーレインはファイアーボールなどの単体攻撃よりも攻撃力は劣るが、今ならいけると俺の勘が告げていたので範囲魔法にした。
細かい炎の矢が降り注ぐと、命中したそのどれもが魔物の体を貫いていく。
風穴はアンジュの矢よりも小さいが、それらはしっかりと貫通していて魔物の体に無数の穴を空けていく。
単発では流石に倒れなかったが、降り注ぐ炎が3、4個も命中すると、その個体は倒れ、黒い霧になって消えていった。
ダンジョン以外の魔物が消えることはないが、こいつらはダンジョン産だからどうやらダンジョン内と同じように死ぬと黒い霧になって消えるようだ。
「お?おぉー・・・これはラッキーだな」
ファイアーレインは発動後、ほんの数秒で消えてしまうが、この魔法はファイアーボールなどのように狙った魔物をターゲットにして使うものではなく、その特性上、俺が思い浮かべた場所に一定時間雨をイメージした細かい炎が降り注ぐ魔法となっている。
今回はその固定した位置で一定時間発動するということがいい方向に働き、ファイアーレインの範囲内にどんどん魔物が勝手に雪崩れ込んできて、雨に打たれた魔物が次々霧に変わっていく。
結局一回のファイアーレインで8体程の魔物を倒せたのではないだろうか。
なんか後方の壁上が騒がしいような気もするが、魔物がすぐそこまで迫っている今はそんなことに気を向けている場合ではない。
懸念した通り、直後にフォレストハウンドが飛び掛かってきたが、体勢はしっかりと整えておいたので、一刀のもとに斬り伏せる。
決して大振りはせず、手数を増やすことを念頭に置き、剣の振りはなるべくコンパクトにした。
振りを小さくすることで一撃で倒せなくなったら無意味だが、装備もアップグレードした俺の攻撃でそんなことにはならず、斬ったフォレストハウンドはしっかり黒い霧になって消えていった。
その霧が晴れる間もなく次の魔物が襲いかかってくるが、返す刀でなんなく倒す。
振りをコンパクトにしたことで短い間隔で襲い掛かってくる魔物達にも十分対処出来そうだ。
まぁこれもすべて一撃で倒せることが前提という普通は出来ないことなんだろうけどな。
斬っても斬っても次々飛び掛かってくるが、アンジュが適度に間引いてくれていることもあって討ち漏らすこともなくどんどん倒していく。
オリヴィエも同様だが、流石にミーナは武器の特性上多数の敵をいっぺんに対応することは難しいのと、そもそも動き自体はまだまだ素人の域を脱していないので少し魔物に突破されてしまってはいるが、自身に襲い掛かってくる魔物は問題なく倒しているので今のところダメージなどを負っている様子はない。
討ち漏らしが発生しているのは今のところ俺とオリヴィエ以外の場所でちょこちょこと発生しているが、その位であれば壁上の兵士達と門前に控えている冒険者達で十分対処出来るだろう。
いけるとは思ったが、予想よりもだいぶ楽に感じるのは恐らくアンジュの間引きが非常に的確な為だろう。
俺やオリヴィエが余裕そうなのを見ると他の場所を重点的に狙ってくれている。壁上に配置したのは大正解だったな。
「うおおお!!力がみなぎってくる!!」
おー。カルロがなんか気合入ってるな。槍を洗練された動きでぐるぐる回しながら近づく魔物をどんどん倒している。
「凄い・・・体がどんどん軽くなっていく気がするぜ!」
むむ。反対側のマルクも大剣をブンブン回してなんか楽しそうだな。
ってかその剣ってそんな感じに振り回せるもんなのか?腕力どうなってんねん。
いや・・・なんかおかしい・・・彼らだけじゃなく俺も力が・・・。
「おいおい・・・嘘だろ・・・」
嫌な予感がして元気に動き回るカルロに鑑定を使ってみた・・・のだが・・・。
名前
カルロ・フォン・エスター
性別
男
年齢
35
種族
人族
職業
槍使い Lv18
あれ・・・カルロのレベルは10だったはず・・・。
ちょ、ちょっと待てよ・・・。
俺は自分自身にも鑑定を使ってレベルを確認してみたが、俺の戦士のレベルも20になっていた。オリヴィエは19。ミーナも18になっている・・・。
なんだこれは・・・この世界のレベルって上がりにくいんじゃなかったのか?
絶えず襲ってくる魔物を対処しつつも、俺は冷たい汗が背中を伝っていくのを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます