第18話 オリヴィエ
現在持ち主のいない状態です
取得しますか?
「え?」
服に気が付いた俺が再びオリヴィエに視線を戻すと、突然システムサポートのメッセージが表示された。
「取得て・・・というかこれは・・・」
やっぱり鑑定で名前の後に表示されていたあれのことだよね?
ってかこの世界って奴隷なんているのか。
ゲームでそんな設定いれるなんて危ない橋を渡るもんだな。
いや、というかあのゲーム・・・まぁ薄々気が付いていたが、あれは「ゲーム」などではないと思う。
そもそも出所がわけわからなかったし、インストールも導入も滅茶苦茶だった。
ゲームとしての機能はまともなものがなく、グラフィックもとても稚拙だったにもかかわらず、変なところ・・・具体的にいうと「戦闘に入った敵の動作」と「近づいた人の挙動」だけがめちゃくちゃリアルだったのだ。
それこそその部分だけ瞬時にダウンロードしたような、他の世界と無理矢理リンクさせたような感じがした。
そんなものをまともな「人」が作ったものとはとても思えない。
思うに、あれはこの世界のチュートリアルだったのではないのだろうか。
つまり、ゲームの世界に俺が入り込んだのではなく、この世界を模倣したものがあのゲームだったのではないだろうか・・・。
「ん・・・んん・・・?」
考えても決して答えが出ないような疑問を巡らせていると、狐耳をピクピクと動かしながら、オリヴィエが目を覚ました。
俺はとりあえず目の前に出たサポートメッセージからは視線をはずし、彼女に話しかけた。
「気が付いたか?」
「ご主人様・・・?・・・痛っ!」
「まだ寝ていた方がいい、傷は完治していないんだからな」
そう、オリヴィエの傷は完治に至ってはいない。
三度目の回復魔法でほぼほぼ傷口は塞がり、出血も止まりはしたが、まだ生々しい傷跡は残ったままだ。
突然のことで状況が理解出来ずにだいぶ混乱もしているだろう。
俺の事を持ち主と勘違いしていたし。
「とりあえずまだ横になっていろ。俺は少し回りを見てくる」
「・・・」
俺がそう言うとオリヴィエは返事もせずにこちらをボーっと見ていたかと思うと、そのまま目を閉じ、眠ってしまったようだ。
あれだけの傷だったのだ。体力もかなり消耗したのだろう。
正気に戻った時の説明もちゃんとしとかないと怯えられちゃいそうだな。
もう一度ヒールを使えたらオリヴィエの傷も全快するんじゃないかと思うのだが、俺のMPもまだ回復はしていない。それは感覚でわかるが、念のためにヒールを使ってみてもやはり発動はしなかった。
MP回復20倍を持っているから人より20倍の速度で回復するのだと思うが、たぶん今すぐは使えそうにない。
オリヴィエをこのままにして大丈夫かと心配にはなったが、一応この付近を見回ることにした。
これだけの血が流れたのだ。鼻の効く魔物が寄ってきているかもしれない・・・というのは建前で、本音はあれ以上あそこに居たくなかったからなんだよね。
だってあの狭い空間には死体が4つも転がっているんだぞ。しかもどこかしらを損壊した状態で。あのままだと昨日食べたスープがでてきちゃう。パンも添えてな。
荷台から出て、回りを見渡してみるが倒したフォレストハウンド以外には特に何も・・・ん?
なんだ・・・?
かなり遠いが、不自然にえぐれた木の根元に何か・・・あれは・・・。
「うわぁ・・・」
遠くからでもなんとなくはわかっていたが、念のための確認でそこへと近づいてみると、それはやはり俺の予想通りものだった。
黒く見るからに高そうで整った服に身を包んだ小太りの中年男性が、頭頂部を激しく損傷して事切れていた。
「こういうの実際に見たら絶対吐くと思ったんだけど、実際はそうでもないもんだな」
それともこの俺の持っている職業のどれかに精神耐性アップみたいなものがあるのか、もしくはステータスのなかに同様の数値があってレベルが上がることで耐性がついたのだろうか。
俺は元々グロ耐性は高くなかったし、どちらかの可能性が高いかもしれない。あくまで体感だけど。
この付近の状況からみてこの木に馬車がぶつかり、その衝撃でこの男が落ちたのだろう。
数か所についている噛み傷に関しては落ちる前なのか落ちた後なのかの前後関係はわからないが、どれもフォレストハウンドによるものには間違いないだろう。
これをどうしたもんかと少し考えたが、持っていくのも無理だし、正直あまりしたくない。
それに馬車の場所まで持って行ったとしても馬車は大きく破損していて使えないし、他の亡くなった5人とオリヴィエも合わせたら計7名もの人数を俺一人で運ぶことなんてできやしない。
今俺にできる最善は遺体を連れていくことなどではなく、はやくファストに戻ってこの襲撃による被害をマーキンに伝えることだろう。
俺は遺体をそのままにして馬車へと戻った。
「とりあえず彼女だけでも連れていくか」
荷台へとあがり、なるべく遺体を見ないようにしながら奥にいるオリヴィエのもとへと進み、彼女を背に乗せて外へと出る。
俺の背後に感じる幸せな感触を遠慮なく頂きながらも荷台を降りると、
「ん・・・あれ?」
可愛らしい声が吐息に混ざって少しだけ漏れ聞こえた。気が付いたようだ。
「生きて・・・る?」
「すまない。君以外は間に合わなかった」
とりあえず俺は彼女を背から降ろし座らせようとしたが、「大丈夫です」と言って彼女は自分で降り立った。しかしやっぱりまだ辛そうだ。
「無理はするな。まだ完全には治ってないだろう?」
横たわった馬車の荷台を暗い表情で見つめていたオリヴィエは、辛そうにギュッと口を結んだ。
さらにそのまま荷台と同じ方向で視線のはるか後方に居たあの中年男性にも気が付いたようだ。
「とりあえずファストに行って今回のことを報告しようと思う。もう少しすればたぶんその傷も治せると思うから、それまでは俺の背で我慢してくれ」
そういって彼女を再び背負おうと近づいたとき、オリヴィエは何故か地面に片膝を突き、その場に跪いた。
「旦那様。どうか私を貰ってくれないでしょうか」
急な提案に予想もしていなかった俺は素っ頓狂な声をあげてしまったが、彼女はこちらを下からまっすぐ見つめたまま動かない。
その瞳は力強く、一切の迷いも見られない・・・ように見える。
断言出来ないのは今まで俺の人生でこんな目を向けられたことがないのだからしょうがない。・・・しかし、綺麗な目だ。
違うな。綺麗なのは目だけじゃない。
彼女の容姿は物凄くいい。テレビで見ていたアイドルなどと比べても全然いい。
ファストの受付嬢もかなり可愛かったが、オリヴィエはそれと比べても数段上に感じる。俺の好みど真ん中ってのもあるけど。スタイルも半端ない。
出るとこ出ているし、少し瘦せている感じはするものの、そんなものは気にならないくらいに完璧だ。しかも彼女の背の後ろでは薄い狐色の髪と同色の尻尾が揺れている。
今は少し血で汚れて半分萎れた感じになっているが、洗えば凄いモフモフになりそうだ。
俺は自分の頭の横にまだ表示されているシステムサポートの表示を横目でチラリと見る。
現在持ち主のいない状態です
取得しますか?
(つまり、これはそういうことだよな・・・)
少しまよ・・・いや、正直に言おう。
俺はそのメッセージに対して肯定の回答をすることになんの迷いもなかった。
だって、彼女すげぇもん。超好み。
今ならこの子を手に入れるために人だって殺められそうだぜ。
するとオリヴィエはこちらに向けていた目を大きく見開き
「え?・・・あ・・・は、はい」
と、なにかに驚きながら誰かに返答した。
それは俺に対してではなかったように感じる。が、予想は出来る。
どういう形かはわからないが、たぶん彼女のもとへは俺がシステムサポートに出した答えに対する問いが来たのだろう。
そしてそれに対して彼女がうけたのだと思う。
どうやら俺はオリヴィエを手に入れることに成功したようだ。
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