待望だった異世界人生を謳歌します! ~VRMMOのβテストをやっていたらいつの間にか異世界にいました~

影出 溝入

第1話 怠惰な日常より

「あれ・・・?なんだこのメール」


部屋全体の光量がパソコンのディスプレイだけのため、とても薄暗い部屋で小太りの中年男がそれを見つけた。




    【あなたを新たな世界へご招待!】




内容をざっくり見ると、それはどうやらVRMMOのβテストに当選したというものだった。


「・・・いや、怪しすぎだろ。新手の詐欺か?」


このような宛先人不明のどこの誰かはわからないが必ずといっていいほどに一日数件は届くメールは普段ではなんの疑問も持たずに詐欺の類と断じてスルーするのだが、今日に限ってのそれは何故かやたらと目についた。


「詐欺だとしても無視すりゃいいか。どうせこのクソ古いPCもそろそろ寿命だしな」


42の誕生日に仕事を辞めてからというもの、それまでの激務と疲労の反動からか有り余る時間のほぼ大半を睡眠に充ててきたが、それもそろそろ飽きてきていた男は特に何も考えずにそのメール下部にあったインストールボタンをクリックした。

するとインストーラーが起動して進捗を表すスタータスバーが表示されたが、それは一瞬で右端にたどり着き終了の文字が表示され、ゲームスタートのボタンが新たにポップする。


「ん?もうインストール終わり・・・?こりゃいよいよパチモンか詐欺だな」


インストールがすぐに終わるゲームというのはあるにはあるが、これはVRMMOをうたっているゲームだ。どんなにしょぼいゲームだとしてもVRである時点である程度のファイルサイズになるはずなのでおかしいことは明らかだった、が


「まぁやってみるか」


全然飾り気のないフォントのスタートボタンをクリックする。


「ん?なんも起きないな・・・。なんかのウィルスでも入れられたかね?」


椅子の背もたれに寄りかかり、両手を後頭部に置きながらこのパソコンももうダメかね?とか思ってた男であったが、ふと机の端に目をやると無造作に置きっぱなしだったVRヘッドセットのレンズ部分が発光していることに気が付いた。


「おいおい、もしかして起動してる?いくらなんでも適当すぎだろ・・・」


あまりにも不親切な設計に悪態をつきつつも、ヘッドセットを装着する。


「うお!ゲーム画面はちゃんとしてんのかよ。ってかゲームできんのか」


ここまでのあり得ない導入に全くと期待していなかった、むしろゲームすら起動しないと思っていた男は思いもしなかった結果に少し興奮していた。


ヘッドセットに映し出された拙いタイトル画面でも期待の初期値0だったため、ゲームできそうというだけでも男を動かすには十分だったのだ。


2つの専用コントローラーを両手に持った男は椅子から立ち上がり、狭い部屋でも広げた両手がぎりぎりぶつからない部屋の中央へと移動し、おそらくタイトルであろうセグンダヴィーダと大きめに中央上部に表示された文字の下にあった「push button」に従うと、ホワイトアウト後にあったのは


「キャラクター作成か・・・。βテストなんかでわざわざ設定するのはめんどくせーな」


近頃のやたらと細かい何が変わっているのかもよくわからないキャラクター設定はめんどくさいし、正式版に引き継げるのかもわからない。


そもそもちゃんと始まるのかもいまだに少し疑問に思っていた男はさっさとゲーム本編に進みたかった気持ちが強く、モブ1みたいな初期値設定のまま「髪」「輪郭」「身長」など様々あった項目を興味なさげに次々進めていく。


そして「これでいいのか?」という確認メッセージに「はい」を押すと、表示されたのは


「職業か。・・・見事にテンプレだな」


縦にずらっと羅列された職業には「戦士」「剣士」「魔法使い」「僧侶」などのRPGで必ず登場するようなものもあったが、


「村人に・・・奴隷商人なんてのもあんのか。MMORPGで奴隷なんて登場さ

て大丈夫なんか・・・?ってか村人なんて選ぶ奴いねーだろ」


色々な種類は用意されていたが、下にいけばいくほどに「農民」や「料理人」など、戦闘にとても役立つとは思えないものばかりだった。


「せっかくVRで出来るんだったらやっぱり魔法だろ」


と「魔法使い」を選んで「次へ」を押すと



   【βテスト特典】



という表示がでる。


「ほう。先行者特典みたいな感じかな?じゃあ正式版にも引き継ぎある?」


じゃあキャラもちゃんと作ったほうがよかったかな?と思ったが


「・・・うーん、まぁいいか」


少し手を止め考えはしたが、はやくゲームを始めい気持ちがキャラ再設定の手間を上回った男はそのまま進めることにした。「次へ」を押す。


「・・・特典ポイント?ポイント内で自由に選べるタイプかな?」


表示されているポイントは100。ボーナススキルと書いてある下には職業の時と同じように縦にいくつか並んでいる。




【ボーナススキル】

 HP回復倍増▼

 MP回復倍増▼

 PT取得経験値倍増▼

 マルチジョブ▼

 詠唱破棄

 鑑定

 PT設定変更

 システムサポート




「なるほど。さっさと成長させてデバックを進めたいってことか・・・じゃあやっぱり引継ぎはないかもな」


ここのところ一人でいる時間が多くなったからか独り言が多くなったな。とか全然関係ないことを考えながらも、男はとりあえず一番上の「HP回復倍増」を選択してみた。


「ん?新しく表示が・・・。あー、この▼はプルダウンか」


ドロップダウンともいわれる。その表示があるものを選ぶとあらたにリストが表示され、選択肢が増える、といったものだ。


「HP回復倍増は最大20倍か。・・・MPも経験値も一緒みたいだけど、マルチジョブは6thまでか・・・。んー、この中だとHP回復は微妙だな」


HPの回復量がどのくらいなのかはわからないが通常、王道RPGなんかでは時間経過の回復よりも魔法やアイテム使っての回復量のほうが圧倒的に多い。

倍増量がどちらも20倍であるならばHPは魔法を使って回復し、その分MPの倍増量に充てたほうがいいと考えたようだ。


「プルダウンのあるやつはどれもMAXまで振ると消費ポイントは20ポイントみたいだな。・・・ん?・・・これって」


ブツブツいいながら各スキルを選択したり外したりを繰り返していると


「なんだこれ。全部選んでも120ポイントじゃねーか」


ドロップダウン表示のある項目が4つをMAXで取得すると合計80。詠唱破棄と鑑定はそれぞれ5ポイント。PT設定変更は10ポイントで残りのシステムサポートは20だった。

男の言う通り、合計ポイントは120だ・・・。


「設定ガバガバだな。こんなんなら選択式じゃなくて、いっそのことはじめから全部取得した状態ではじめてくれればいいのに」


うるさい。


「んじゃHP回復量以外の全部を選んでっと。」


一番上以外を手早く選び終わると「次へ」にカーソルを合わせ、ボタンを押す・・・と思ったところで8つあるボーナススキルのうちの1つに目をやった男は決定ボタンから指を離した。


「・・・ひょっとして」


何かを思いついた男は「次へ」の左隣にある「前へ」を選択し、職業選択の画面に戻る。

そして、現在の職業である魔法使いをはずさぬまま戦士を選ぶと、魔法使いの表示の下に新しく戦士が出現した。


「やっぱりな・・・マルチジョブ設定があったからもしかしたらと思ったけど、ほんとにできるとは・・・。でもこれって特典ポイントの後に選ばせるべきだろ。まぁ正式版には特典ポイントはないからかもしれんが・・・こういう細かいとこ潰さないとユーザーからクレームくるぞ」


うるっさ。


「1つは戦士でいいな。剣士との違いがいまいちわからんけど、6つしか選べないなら他のほうがいいか・・・。僧侶はマストとして・・・」


縦にずらっと並んだ職業を凝視して男は少し考えたが、


「ここで考えても仕方ないか、複数の職業を選ぶメリットとかも職業の説明とか全くわからんしな・・・。複数職業があるってことはスキルとかありそうだけど・・・そういう説明もないしな。・・・このゲーム大丈夫か?」


・・・。


「ボーナススキルにPT設定変更とかあったし、後で変更できそうだし・・・適当でいいか」


そういうと男は僧侶のすぐ下にあった職業をポンポンポンと3つ選んで「次へ」を選択し、その先のβテスト特典もポイント振り直しなどがないかだけぱっと確認して「次へ」を選択すると、画面中央に「これでいいのか?」と表示された。



「さっきもあったけど、これ誤翻訳か何かかな?」



くだらない疑問をもちつつも男は「はい」を選択した。





まじうるさ。

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