気ままにプレイしてたら、狙われはじめました

木場篤彦

第1話輩に絡まれる

私は気ままにVRMMOのオープンワールド・サバイバルゲームである『lacrime splendenti』というゲームをプレイしている最中だ。

栄えている街の武器屋で、武器屋のNPCであるモヒカンの筋骨隆々な旦那と世間話を交わしていた私は、背後から声を掛けられた。

「おい、そこの可愛い顔した坊主よぉ〜っ!ちぃっと、面ァ貸しなァ」

「えっと、ボクが貴方たちになにかしでかしたか身に覚えはないですけど……」

私はおずおずと震える声で返答した。

「おいおい〜とぼけてもらっちゃ困るぜぇ〜!なぁ〜お前ら?こんな坊主ごときに、俺らの獲物を横取りされるのは我慢ならねぇのよ。俺らの獲物だった横取りしたアイテム、返してくんねぇか?そうしたら乱暴な事ァしねぇからよ、坊主——いや、エイジさんよぉ〜!」

パーティーメンバーらしき取り巻きに振り返り、視線を戻したナルックという180cm程の身長があるプレイヤーが不敵な笑みを浮かべ、脅しをかけてきた。

「ほんとに覚えてなくて……何処のエリアでのことか、聞いても?」

「シラヴェット砂漠だ。デケェ、サソリだ」

「シラヴェット砂漠……ぁあー、あの。情けないパーティーの面々がぞろぞろと来たわけですか……」

私は思い出して、つい溜め息を漏らして、ナルックらのパーティーを見下した低い声で呆れたことを示した。

「ンだとぉ……このっ……!」

プレイヤーレベルが30に到達していないプレイヤーでも仕留められるあのサソリのモンスターに、四人がかりで手こずっていた彼らに呆れるのは自然だ。

ナルックの怒りで震えた拳が私の顔に迫ったが、殴られる寸前に軽々と片手の掌で受け止めた私。

「なにぃ動揺してんだ、アンタら?あんな雑魚モンスターを横取りされた時点で気付けや、自身テメェの弱さによぉ!あぁあん!」

「……っくぅ……っぅ!おっ……覚えてやがれ、この外道がっ……くぅっ!」

ナルックがギリギリと歯ぎしりしながら、悔しがり捨て台詞を吐き捨て、武器屋を出ていく。

ナルックの後を取り巻きの三人が追いかけ、出ていく。

「おぉーぅ、怖いねぇ、坊主は。俺もあいつらみてぇにならないよー気ぃ付けなきゃだぜ。で、続きの——」

武器屋の旦那が国民的なアニメに出てくるキャラの間伸びした話し方を似せたのを発し、癖のない言葉で続けた。

私はカウンターに向き直り、会話を再開した。


私はゲームをログアウトするために、街から遠く離れたフィールドにある森の中に建築したログハウスに戻り、ストレージを整理してから現実の世界に戻るためにログアウトをした。


暗く深い水底に沈んでいた澱のような意識が水面へと徐々に上昇していく。

その感覚が何故か心地良い。繋がれていたいはずの仮想空間の仮想人物アバターと剥がされているのに。

意識が戻った私は、水中に潜る際に装着するようなゴーグルを頭から抜き、ベッドをおり、勉強机の隅に置く。

私がゴーグルを勉強机に置いた数秒後に、弟の弾んだ声とドアのノックが同時に耳に届いた。

「ねえ、姉貴〜入っていい?」

「いいよ、隆哉ー!」

私は走って抱きついてきた弟の頭をわしゃわしゃと撫でながら、就寝直前まで弟に付き合った。


私が就寝したのは23時25分だった。


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