最強不遇お姉ちゃん
甘栗ののね
第1話 姉です。雷に打たれて死にました。
アンヌ・ベールが魔法に目覚めたのは10歳の時だった。アンヌと一緒に散歩していた姉が落雷に撃たれ死亡したのがきっかけだった。
「お姉ちゃん! 死んじゃヤダ! 返事してよお姉ちゃん!」
アンヌは泣き叫んだ。意識を失い呼吸も弱弱しい姉にアンヌは何度も声を掛けた。
そして、アンヌの悲痛な叫びもむなしく姉の呼吸は止まった。
その時だった。アンヌと姉の体が光に包まれ、アンヌの姉は目を覚ましたのだ。
これが最初の魔法だった。姉はアンヌの魔法により息を吹き返したのである。
これがアンヌが魔法に目覚めたきっかけだ。そしてこの四年後、アンヌは家族や周囲の助けてを得て『ローベンヌ王立魔法学園』に入学し、魔法を学びながら様々な人々と出会い心を通わせ数々の試練を乗り越えていく。
と言うのが乙女ゲーム『魔法学園物語3~神と悪魔と聖なる乙女』の大まかなストーリーである。
大人気シリーズ『魔法学園物語』。毎回違う世界、違う国を舞台に魔法と学園を中心に物語が繰り広げられる乙女ゲームだ。ゲームの登場人物たちはとても魅力的で、シリーズを通してファンが多いゲームである。
現在、魔法学園物語は番外編を含めると全7作品が発売されている。どの作品も完成度が高く毎回神作と称されている。
ただし、3だけは違う。シリーズ唯一の駄作、3だけはやらなくていい、時間の無駄とまで言われ、中古ショップにソフトが溢れかえり買取拒否されるほど魔法学園物語3の出来は悪かった。
魔法学絵物語3はどうしようもないクソゲーだった。破綻したシナリオと世界設定、特に意味もなくかなく不親切なバトルパート、声優陣は豪華だが魅力のないキャラクターなどなど、指摘したらキリがないほど問題点だらけだった。それはその後に発売された『魔法学園物語4~古の王と光の花嫁』の売り上げに悪影響を与えたほどである。
しかし、魔法学園物語4は売り上げは振るわなかったがシリーズ最高傑作と称されるほど出来が良く、その後に発売されたシリーズ最新作の『魔法学園物語5~迷える聖女と偽りのプリンス』は何とか売り上げを元の状態に回復させることができたほどだ。
そんな問題作にしてシリーズを終了させかけた元凶でもある魔法学園物語3。その中には『不遇姉』と呼ばれるキャラクターが登場する。
それが魔法学園物語3の主人公アンヌの姉であるリズだ。彼女は主人公の姉であるにも関わらずあまりの扱いの悪さに不遇姉、不憫ネキと呼ばれている。
そんなリズの登場シーンはまったくと言っていいほど無い。冒頭の回想シーンに少し登場するだけで、その後はまったく登場しない。それどころか主人公の姉であり主人公が魔法に目覚めるきっかけとなった人物でもあるにもかかわらず、立ち絵もなければボイスもないという冷遇っぷりだ。
しかも公式の設定資料集ではリズはアンヌが学園に入学するための学費を工面するため貴族に売られ、その後は二度とアンヌと再会しなかったという未来が語られているという、まさに不遇な扱いを受けているキャラクターである。
そして、そんなリズが今の私だ。
そう、私は不遇姉と称されるリズ・ベールに転生したのである。
「お姉ちゃん! 目を開けて!」
「……ここ、は?」
目を覚ますとそこは知らない場所で、目の前には見たことのある女の子がいた。そして、そこで私はすべてを思い出した。
自分はもともと日本で暮らしていたごく普通の会社員で、その日は会社のシステムトラブルで仕事にならず早く家に帰され、住んでいるマンションに帰ったら同棲している彼氏が知らない女と裸で抱き合っていて、私は衝動的にそいつらに飛び掛かって、そのままの勢いで窓ガラスを割って5階から転落し、地面に頭から激突するところで意識が途切れた。
で、目覚めると知らない場所にいた。目の前には自分のことをお姉ちゃんと呼ぶ栗色髪の可愛らしい女の子がいたというわけだ。
最初は頭が混乱していたが少しずつ落ち着いてくるにつれてすべてを察した。自分がリズであること、転生者であること、目の前にいるのがアンヌであること、この世界が魔法学園物語3の世界であることをだ。
何の冗談かと思った。できることなら別の作品の世界に転生したかったと心の中で嘆き叫んだ。
だってそうだろう。なんで誰もがシリーズ最低のクソゲーと認める不動の不人気作の世界に転生してしまったのか。
ホント、なんで3なんだよ。魔法学園物語シリーズが好きでプレイしただけで、3にはまったく思い入れはない。むしろ次に発売さらた4の売り上げを激減させシリーズを終了させかけた元凶である3は二度とプレイしたくないくらいだ。
まったくもって意味が分からない。しかし、どうやら夢ではないらしい。
ふざけるな。冗談じゃない。神様がいたら訴えて法廷に引きずり出して糾弾してやりたい。訴訟だ、訴訟。
と、文句ばかり言っていても仕方がない。とにかく私はゲームの世界のヒロインの姉に転生したのだ。
転生したのなら、どうにか生きていくしかない。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ、アンヌ。ありがとう」
とりあえず、妹はかわいい。さすが乙女ゲームの主人公かわいい。そして声がいい。なにせ大好きな女性声優さんが声を当てているのだから。
「いいねぇ、幼女声。うへへ」
とにかく私は転生した。ならばなんとかして生きていくしかない。
しかし、今はとりあえず楽しもう。
「アンヌ、かわいいねぇ」
「お、お姉ちゃん?」
先のことは後回しにして楽しむとしようじゃないか。
役得役得。
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