「余裕~スランプ~。」~10代から20代に書いた詩~
天川裕司
「余裕~スランプ~。」~10代から20代に書いた詩~
「余裕~スランプ~。」
休みの日が、唯一の、自由だった。その休みにしか、したいと思う事は、存分に、出来なかったような気がする。私ってやつは、何かに追われると、気が急くタイプなのか、何も出来なくなってしまう質なんだ。頭の中が混乱して。ギターにしても、したいと思っていた釣りにしても、普通の日(学校などがある日のこと)より、やっぱり、その休みの日の方が、(心おきなくできるせいもあるので、)妙に、しっくりときていた。何とか、余裕を見つけたいと思う。目を閉じて考えると、余裕が芽生えるきっかけは、そこら辺りにいっぱい転がっている気がしている。何事も、やはり、余裕をもつことが重要だと思う。大切なことは、どんな時にでも自分を失わない、強い保持力をもつ何かを、心に芽生えさせることだと思う。それは、欲しいと思ってみても、そう簡単に手に入るものじゃなく、私は、時期が来れば手に入るものじゃないかと、踏んだりしている。歌手にでも野球選手にでも、スランプがあるように、当然、人間にも、スランプはあるように思う。そのスランプをどう克服するかは、やはり、自分で脱け道を見つけ出すしかないと思う。そのためにはまず、余裕を見つけること。その余裕を芽生えさせてくれる自分に合った何かを、見つけ出すことだと思う。又、それも、自分の足元に転がってるものじゃないかとも、思ってるんだ。
「趣味。」
趣味に生きるってのは、大事なことだと思う。趣味を持つこと。これはきっと、軽んじて見てしまうことだろうけれど、忘れちゃいけないものの一つだと思う。
私は今、毎日をていたらくに過している。アルバイトをやめて、既に一週間が過ぎる。これではいけない、と思いつつも、てっきり暇に負けてしまって、やっぱり同じ事をくり返してしまう。そこで、思う。こんな毎日に、新しい趣味の一つを持とうか、と。趣味というものは、時に、それだけで、人を変えてしまう力がある(ような気がする)。趣味に生きる、とは、時に、芸術家たちの事なんかを指して言っているのではないかと、私はふと思うのだ。(序文抜粋)――――。
「東京小町(トウキョウコマチ)。」
格好がよかった。こん色のスーツに、おとなしめの靴。誰が見ても、そこら辺りに転がっている女のファッションを見事に着こなしていた。
スクランブル交差点の真ん中上の巨大電子モニターに、野球のCMをしているのが流れていた。その人は、立ち止った。目をこすりながら立ち止った。きっと、多い人の群れからのゴミや、車の排気ガスでコンタクトの目に、疲れが走ったんだろう。そして、ゆっくり、もう一度、電光のモニターを見上げた。空気が止ったかと思えた。普通の、そこ行く人々には、それが普段の野球のCMに見えたかも知れない。しかし、彼女には、それが欝積したような、自分の理想の不発の塊のように、見えていた。彼女は、又少しゆっくり、辺りを見回した。何のへんてつもない、普通の道路の光景である。一体、何が変ってしまったのか。考えてみたところ、何も思いつかない。もし、考えつくとすれば、それは、自分の内の何かが変ってしまったと思わ去るしか、他にない。しかし、その何かがわからない。どこかにヒントはないものか。例えば、今日の、今までの出来事。しかし、朝起きてから今までは、まだそれ程経っていない。さすれば、昨日の事。否しかし、何も思い出せない。背後から、“プァープァー”と車のクラクションの音がする。顔をしかめたその時、理由がわかった。その腹立たしさがそれだったのである。気付く筈もない、自分の無関の腹立たしさである。いつか、常軌を逸した世界に飛び込んでみたいと、思ったことがある。幻の世界である。自分だけは、他の女とは違う、自分だけは、違うように見てくれる。誰かのプロデュースでも、自分だけは、その演出に力を入れてくれるような。この女は、普通の女が嫌だったのである。決して、常識を嫌ったわけではない。この人間(ヒト)の多さが、自分の理想を疲れさせたのだと、そう思ったのである。彼女の考えは、間違ってはいなかった。しかし、決して、浮かばれもしなかった。
ふと、立ち止ったスクランブル交差点の途中、車行の邪魔になるので歩いて行った。そして又、対岸の、多い、慣れ合いの人の群れの中に、まぎれて行った。その時、彼女を目撃したのは、クラクションを鳴らしたタクシーの運転手と、電光のモニターだけである。その電光けいじばんの映っている場所は、彼女の瞳(め)の内だけのことである。
「トパーズ。」
「君は、人を殺めることをたのしんじゃいけない。」
『じゃあ、聞くが、あんたは一体、何のために生きている?』
「…それは、むずかしい質問だな。」
『そうさ。むずかしいのさ。結局、むずかしいってことにすべてが尽きてしまう。
さっき、あんたが聞いた質問も同じようなもの。似たようなもんだ。』
『生きるためには、何かしなきゃいけないってことなんだろうね。』
「それならば君は今、そのことをやめて、他の何かする事を見つけるべきだとは
思わないのか。その殺し以外の事を。」
『ふん。時期が来ればね。おれもあんたも同じ、人間としての時期ってやつの中で生きている。たとえば、明日、あんたがおれの立場に立って人を殺していてもおかしくないんだぜ、生きるためさ。金のために。おれみたいに過去の汚点があったりしたやつってのは、言いようのない不合理をかき立てられるもんだぜェ。それが、幼少の時でも。……』
「しかし、……君は神様を信じないのか?祈ってはみないのか?」
『だから言っただろ。時期が来ればってね。おれにはまだ、そんなお告げはなかったよ。あんたが今、いわんとしていた事のような、お告げはね。』
「それならば君は、続けるのか、その事を。」
『仕方ないだろう。まだ、おれにはお告げがないんだから。』
「本当に来ていないのか。」
『こんな事だもの。来ればわかると思うよ。』
「言葉の1つ。」
一つ教えといてやろう。芸術は競争じゃあない。だから、あの人がそんなものを作った、なんて焦らなくていいんだよ。それぞれ皆に持ち前のスピードというものがあって、それもその人の内から出てるものなんだから緊張なんてしなくていいんだ。何か創らなきゃ、ってそういう人は少し固くなったりするだろう。だから皆がそれぞれが、自分のスピードでものを創るのなら創り、止まるんなら止まり、すればいいんじゃないかと私は思う。焦ったって、何にもいいものは出来ないものさ。時に、人の芸術から何かを教わることもあるんだよ。その人の方が私はすごいと思う。価値のあるものを見つけるというのは、確かに、難しい事だろうけどね。けど、せっかく芽生える光をつむいでしまうという事だけは、どんな場合でも、残念な事だと思うんだ。誰も君の芸術を奪う者はいないと、君にわかって貰いたい。
「余裕~スランプ~。」~10代から20代に書いた詩~ 天川裕司 @tenkawayuji
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