きっとまたどこかで
なかみち
第1話 綾人
僕は臆病だ。昔からそうだった。これといって得意なものもなくて、小さい頃から何かで1番になったりしたこともなく、常に誰かが賞賛されたりするのを横目に見るだけだった。親からも3つ上の才能ある兄ばかりが褒められてばっかりで僕に対しては無関心という感じだった。
そんなせいかいつも自信なさげで下を向いて歩くようになった。自分のことを情け無く思うようになってあらゆる事に消極的になった。そのせいで友達もできず、さらには弱々しい雰囲気が災いしたか、他クラスの世間で言ういじめっ子と呼ばれる人達から暴力、暴言を受けるようになった。何も抵抗できない自分、言い返せない自分が憎かった。
今日も暴力を振られて顔に傷を負った状態で下校しようとすると1人の少女に話しかけられた。
「綾人、どうしたのその顔!?」
その少女は俺の名前を呼んで、驚いた口調で話していた。僕はその少女とは同じクラスだった。彼女は勉強も運動もできて、顔も可愛いくてしっかり者で誰とでも分け隔て無く接してくれるクラスでも人気のある人だった。僕と彼女は席替えで一回一緒になっただけだったが、彼女は何の取り柄も無く、情け無い僕に対して優しく接してくれたり、ポジティブな言葉をかけてくれた。だから彼女には感謝していた。そしてそんな彼女がまた僕に話しかけてきた。
「ちょっと転んじゃって……」
「転んでって……とにかく血も出てるし、はやく保健室行こう」
彼女は僕の腕を掴んで、そのまま俺を保健室へ連れていった。
「もしかして他クラスの人に殴られた?」
「え……?」
予想外の質問に僕は固まった。僕は戸惑いながらも頷くと、彼女はまた予想外のことを口にした。
「ごめん、助けられなくて。……あのさ、これからは私と一緒に遊んだりしない?」
「へ?」
またも僕は固まる。それはそうだ。クラスの人気者といつも隅っこにいる人が急に一緒に遊んだら誰だって変に思うだろう。それにそんなのあの他クラスの人達が見たら、彼女まで暴力を喰らうかもしれない。そんなことには絶対にさせたくなかった。
「ごめん。そんなことしたら、君に迷惑がかかるからそれはできない」
「迷惑?全然私は思わないよ。それに私はあなたと喋ってみたいって本気で思ったからそう言ってるんだよ」
信じられなかった。今まで誰にも遊ぼうとか、喋りたいとか、そんな言葉をかけてもらった覚えが無かったからだ。僕はこう言ってくれた彼女と関わりたいと思った。だから僕は彼女の提案を受け入れ、僕と彼女は友達になった。
それからはお昼休み、放課後と多くの時間を彼女と過ごした。趣味の話、家の事、学校の事、色んな事を話したと思う。彼女はよく音楽を聞くらしく、好きなアーティストについて楽しく話すその姿はとても可愛いらしく見えた。いつしか僕もそのアーティストにハマり、共通の趣味にもなった。ちなみにあの他クラスの人達は僕と彼女が一緒にいるのを見てからは手を出さなくなった。恐らく、僕に彼女という大きな味方がいるようになって関わりづらくなったのだろう。
「ねえ、綾人」
「ん?」
「今、学校楽しい?」
「うん、とっても楽しいよ」
「ふふ笑、それは良かった。またね」
僕はその時の彼女の笑った表情を一生忘れないだろう。彼女と友達になれたのは一生の宝だったように思う。
彼女は小学校卒業後は都会にある頭の良い学校に通うことになった。それから俺たちは疎遠になった。小学生時代はスマホを持っていなくて繋がる手段も他に無かったのだ。
「綾人、また会おうね」
「うん、お元気で」
その言葉を交わして彼女は去って行った。僕は彼女と別れて涙を流すことしか出来なかった。
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小学校を卒業して7年、俺は大学生になっていた。俺は小学校卒業時、このままではダメだと思い、必死に頑張った。勉強、運動、身だしなみ、色んな事をして自分磨きを頑張った。そうしていくうちに少しずつ自分に自信を持てるようになって、周りからも雰囲気が変わったと言われるようになった。そこから、友達もできたりして普通の学生生活を過ごすことができた。
1年浪人して、俺は都内の大学に進学した。新しくできた夢を実現する為でもあったが、何よりももう一度彼女に会いたい、強くなった自分の姿を見せたい、その想いがあったからだ。だが、彼女が今どこで何をしているかは大学入学後も分からないままだった。
俺は学部内の友人の家にお邪魔して食事会をしながら、課題を終わらせていた。
「綾人〜、レポートはこんな感じで良いか?」
「そうだね、これなら良い評価もらえそう」
「よっしゃ〜、課題終わり〜、そういえば、今日、同じ学部の先輩と写真撮ったんだよ」
「それって異性の人?」
「もちろんさ」
「相変わらず女性好きだな〜」
「そりゃな〜、異性の人と関われるなんて、今が最大のチャンスじゃないか。それに見てみ、今日取った女の子の写真、めっちゃ可愛いくない?」
俺は友人のスマホに映る2人の女性の写真を見た。
「え?」
そこにはあの彼女の姿があった。大人な雰囲気になっていたが、すぐに分かった。
「この人、同じ学部なの?」
俺は彼女を指して尋ねた。
「そうだよ、一つ上の学年の人。何でも今日留学でアメリカに行くって言ってたな」
「今日?」
俺はその言葉を聞いてすぐに家を飛び出した。彼女に会えるかもしれない、そう思った途端、体が勝手に動いた。
「綾人!」
友達が俺を呼び止める。
「よく分かんないけど、空港に行きたいんだな」
「うん」
「よし、俺の車に乗って行こう、今からいけば間に合うかも」
「ありがとう」
俺達は車で空港まで移動し、アメリカ行きの搭乗口に急いだ。
(間に合え、間に合え)
頭の中はそれでいっぱいだった。
「ゴーー」
しかし、搭乗口に着いたときには飛行機は離陸し初めていた。俺は彼女に会えなかった。悔しくて、悔しくて仕方なかった。悲しくて俺は手すりに手をかけて下を向くしかなかった。……でも、彼女が元気そうで良かった。安堵の感情も悔しさと一緒に出てきていた。
「きっとまたどこかで会えるかな……」
遠ざかる飛行機に対して俺は呟いた。
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