狐子さんの憂鬱

瑞葉

中間試験の日は大雨でした。

 高校二年生六月の中間試験の日は大雨だった。わたしは得意科目なんだけれど、数学の試験後というのは、クラスの空気が沈鬱になる。隣の席でノリくん(わたしの幼馴染の秀才、沖山秀徳)が貧乏ゆすりしてる。試験中はずっと抑えてたんだね。

 わたしは皆川橘子(きっこ)という珍しい名前。目つきが鋭いので、狐子さん、と昔からあだ名で呼ばれていた。秀徳に次ぐ学年二位の成績とみんなに言われるし、実際、学年二位から三位でこの一年、成績は推移してる。たまたま席も六月一日からノリくんと隣同士。

 中間試験はあと一科目。英語。お腹が生理中でキリキリ痛んだので、休憩中にトイレを済ませておこうと思った。

 トイレに行くには隣のクラス前を通るのが憂鬱です。

 ほら、またいた。

 まるでひらりと舞う水色の蝶々のような。

 学年でも目立つ容姿の女の子、冬原茅平(ちひら)さん。隣には、ちょっと地味目だけど感じの良い男子がいて、仲良さそうに廊下でおしゃべりしてる。

 じとっと見ていたからか、男子くんと目が合う。男子くんは綺麗な目をしていた。こちらを見てにっこり笑う。水色の眼鏡がよく似合ってて、感じの良い子だ。ノリくんほどじゃないけれど成績上位の子なのかな、と雰囲気から思う。

 男子くんの眼差しに釣られたのか、冬原さんがこちらを見た。冬原さんの薄くアイシャドウを塗った目。綺麗な大きな目。吸い寄せられそうだから、わたしは咄嗟に目を逸らす。

「うん? どうかした?」

 男子くんが穏やかに冬原さんに聞いてた。

 冬原さんは「別に。なんも」とそっけなく男子くんに答えて、「教室戻ろうよ」と男子くんをうながす。


 あの二人、付き合ってるんだろうか?



 ついこの間までノリくんの彼女だった冬原茅平さん。あの子は覚えてないかもしれない。一回、ノリくんと冬原さんとわたしの三人でカラオケのフリータイムに行った。

 

 

 

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