第51話 文化祭準備②

 多分それは叶うことはないだろう…、現に今それが目の前で証明されている。

 現在、放課後の時間を使い、この担当をするうえで欠かせない料理の創作のために、一旦料理担当の人たちが教室の一箇所で固まっていた。

そんななか集まった二十人の半数以上、正確にはほぼ全員がある一点を見てはたまにそっぽを向く、そんな様子が見受けられた。

 そしてその一点となっているのは俺である。

 …もうここまで言ったらもうなんとなく分かるだろう。

 しかし自分でもそうなるのもなんとなく頷けてしまう。

 理由は簡単、外見から料理なんて出来ない、というかやらないイメージが強すぎる俺が今こうして料理担当の輪の中にいるのだ、不思議で仕方ないだろう。

 《文化祭を普通かつ楽しく迎えられるか》、この結論を述べるなら、《この場にいる人全員と仲良くなれ。出来なければ不可能》、であろうか。

 ……俺って悲しい存在なんだね…。


 そんな渦中の中心にいる俺、はたから見れば救いようがないように見える。

 しかし、そんな俺にはまだこの状況を耐えていける存在がいた。

 ご紹介しましょう、現在俺の右隣に並んで座っていらっしゃる、水瀬雫月様と玉井鈴様の御二方です。

 お二人が言うに、接客ではどうやら男子は執事服、女子はメイド服を着るようで、それを意外にも着たい人が定員数をオーバーするほどいたらし。

 お二人は別にそういうのに興味はないらしく、なんならこちらの方がやりごたえはありそう、とのことでこちらに来たらしい。

 あ、ちなみに花守さんは強制的に接客担当に移されたみたいです。

 なんでも商売繁盛の為、だとか。


「はいはい、時間もあれだし色々決めていこっか」


 その水瀬さん、この空気を簡単にまとめ上げていく。

 相変わらずお姉さん感が強いというかなんというか。

 それに対して周りも疑問に思いながらもそれに素直に従っている感じであった。


「じゃあ、とりあえず料理の案をじゃんじゃん出していってそれからいくつかに絞っていこうか」

「はいはい!ショートケーキ!」

「出すなら主食からにしてねぇ」


 一番手に提案したのは玉井さんであったが水瀬さんの一言で意見は消え去っていった。

 こう見ると玉井さんは妹…、というか水瀬さんとセットで姉妹という感じがする。

 それにしても、料理の案かぁ…。

 今回のテーマは喫茶店、一応俺自身喫茶店でバイトしているからどういったものが出るかは分かるが大抵どこも普通に出てくるものばかりだと思う。

 例を出せばうちの喫茶店はオムライス、ナポリタン、ハンバーグ、サンドウィッチ、デザートならホットケーキやアイスクリームあたり、あまりにも定番のものであるがこれがまた美味い。


 意識を頭ん中から周りにへと切り替えるとすでにいくつか案が出されている模様で、ホワイトボードには

【オムライス ナポリタン サンドウィッチ ドリア グラタン フォー たこ焼き お好み焼き フレンチトースト グヤーシュ パブロワ】

 と多く記入されていた。

 そして時折出てくる知らない名前の料理は玉井さんだろうな、多分。


「大体出たかな?じゃあこっから絞っていこう…としたいけど、どう絞ればいいのかな」

「手間とか出費とかもあるし…それにシフト制だから人数もあれか」

「そうだね」


 話は一度止まり一同が悩む状況になってしまった。

 確かに数ある料理の中から金銭面、時間面、人数、その他諸々を考えて数品だけ選ぶとなると何を優先的に見て選べばいいか分からなくなる。


「そこらへんどうしたらいいと思う?江崎くん」

「え、俺?」

「うん、だって喫茶店でバイトしてるの江崎くんだけだし、実際の現場にいる人の意見は結構重要だからね」


 すると突然水瀬さんが俺に意見を求めてきた。

 というかこんなかで喫茶店で働いてるの俺だけなんだ、もう一人ぐらいは普通にいるもんかと、でも周りの驚く表情をみる限り本当っぽい。

 まぁそこのところはひとまず置いておいて頼まれたからには考えなくてはな。

 ちょっと深く考えてみる…………でも少し考えればそれなりの工夫は出てくるからそこまで深く考える必要はないのだが。


「……絞り方…はさっき言ってた点を考えればいいと思うよ。自分から言うとしたら調理の時の簡単な工夫…かな?」

「ほうほう、例えば?」

「一つは作る料理に使う食材を減らす。それで少しの出費は減らせる」


 例を挙げるならオムライス。

 基本オムライスには卵、白飯、にんじん、玉ねぎ、鶏もも肉その他諸々を入れる。

 これに入っているにんじんを抜いて料理をする、まぁ何を入れるかにもよるけど。

 まぁこれでにんじんに使うはずだった出費を別の食材に回せる。


「あとは野菜を事前に切って保存しておいて料理する時に取り出す、とか」

「ほー…」


 例としてまたまた登場オムライスさん、今度は玉ねぎです。

 オムライスの玉ねぎはみじん切りをして炒めますがそのみじん切りの作業を事前にやっておき、袋の中に入れて野菜室に入れる。

 そうすれば取り出した時、炒めるだけで使え、更にその炒めにかかる時間は半分ぐらいで終わるのだ。

 ちなみに玉ねぎは切り口から乾燥するのでしっかりとラップでくるみ、袋に入れるといいです。

 こんな感じで誰でも思いつかそうな超簡単な工夫だがこれだけでも調理する際にはとても楽になる。


「あくまで調理するときのだけどそういう工夫も考えて絞るほうがまだ楽だと思うよ。だからひとまずその料理とそれに使う食材について調べた方がいいかと」

「なるほどねー。という案についてみんなはどう?私は賛成」


 俺の話を聞き終わった水瀬さんは周りに賛否を求めた。

 俺もそちらに顔を向けるとやはりというか驚きと顔が見られるなか、「たし、かに…」「そっちの方がいいかも…」「てか…よく知ってんな…」などなど思いもしなかった言葉が返ってきたので俺が一番驚いてしまった。


「じゃあいくつかに分かれてその料理と食材ついて調べよう」

「じゃあ私フォー!」

「あ、ちなみに、フォー、グヤーシュ、パブロワ以外ね」

「なんで!?」


 水瀬さんの意見でフォー、グヤーシュ、パブロワ以外の料理と食材について調べていく、ということを今日の放課後まで行い、この日は終わった。

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