第30話 夏休み明け
制服を身に纏った俺は久しぶりに見る道を花守さんと歩いていた。
今日は九月一日、夏休みという長期休暇が終わり今日からまた学校に通う。
また学校に行くだけなので今までとさほど変わらないと感じたりもするのだが全然そんなことはない。
周りを見渡すと相変わらずいつも通りの視線がこちらにきているがそれよりも見るだけでわかるほどみんな憂鬱そうに見える。
長期休暇明けはこういう人が通常よりも多くなる。
単純に学校に行きたく人とか、長期休暇で生活リズムを崩したとか理由は様々ある。
そしてそれは若干違う気もするが俺も例外なわけではない。
「江崎さんお疲れのようですが大丈夫ですか…?」
「うん。大丈夫だよ」
隣で歩いていた花守さんが俺の顔を見てそう心配した。
ここでは大丈夫だと言ったが本当はめっちゃ疲れている。
理由は明白、修哉の宿題のせいだ。
修哉の宿題の手伝いが決まった後、流石に二人で一つのものを見るのはしんどいので後日色々ものを揃えてから俺のマンションの部屋でやることになった。
最初はまだ楽な方だった。
修哉が俺のやり遂げた数学、理科などの計算や単語の問題を書き写すだけだった。
しかし、地獄はこれからだった。
中学生から高校生になり、宿題もそれに連なり量が増え、難易度も高くなる。
俺も宿題をやっていて分からないことが多々あったが、そこは花守さんの手を少しかりながら理解をしていった。
しかし今回やるのは俺ではなく何も分かっておらず更には理解度もまぁまぁ低い修哉だ。
そんなやつが一日、二日で終わるわけがない。
結果、終わりを迎えることができたのは昨日の夕方ごろだった。
おかげでろくに休むことができないまま今日という日を迎えてしまったのだ。
まぁこれもあのショートケーキを食べられるがためにやったことなのだが……三度ぐらいお礼のショートケーキを倍にしてもらおうか考えてしまっていた。
「でもすごいふらふらですよ」
「ははっ、今日は早く休むことにするよ。…あ、あとこの前言ってたショートケーキ今週…に届くと思うんだけど食べる?」
「この前のって……!エンジェルスイーツのですか!?」
「うん、そう」
お前は何言ってんだ?、とこの場に修哉がいたらそう聞かれそうだがもともとこれが俺の目的というか理由だ。
修哉が俺を訪ねてくる前花守さんと電話をしていた際、一度スイーツ、つまりエンジェルスイーツのことを話していたのだ。
その時は朝から並ぶのと数量限定だとで行く機会はそうそうないと思い『食べてみたいですねぇ』と言って諦めていた、そんな時に修哉が来たのだ。
あとはこの前の通り、別に面倒をかけてもさきにこちらにかけられているので問題はないと思い遠慮なく頼んでみた。
「す、すごいですね、あれ朝から並ばないと食べられないのに…。あれ?というか届くって…」
「まぁまぁ細かいことは気にしなーい」
あんな修哉にすら優しくする花守さんだ、色々知られたら遠慮してしまうだろう。
なのでここでは修哉関連は秘密とさせてもらおう。
「それでどうする?食べる?」
「で、でもあれって一人一個までと聞いたのですが…」
「それは大丈夫。二つくるから」
「ふ、二つも………」
「遠慮はしなくて良いよ」
「……そ、それじゃあ、いただいてもいいですか?」
「おっけ」
花守さんはうーんと考え込み、しばらくしてから俺の提案に乗る答えを出した。
「それじゃあ届いたら花守さんに連絡するよ」
「はい、わかりました。ありがとうございます江崎さん」
「いえいえ」
その後学校までの道のりをゆっくりと談笑しながら歩いて行った。
ちなみに学校では何事もなかったのだが家に帰った後気がついたらソファの上で十八時まで眠っていた。
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