第21話 海④

 着替えも終わったことなので先に遊んでいる修哉のもとへと向かう。

 ちなみにだが、花守さんは言葉通りのことをしてくれたのか移動中女子二人の困惑のような警戒のような視線は薄れているように感じた。

 本当にありがたい。神様仏様花守様だわ。

 さっきここら辺の海に走っていった修哉は……いなくなっており、その代わりに確保していた場所で一人寂しくチョコンと座っていた。


「ど、どうした修哉?」

「あ、おかえり…。いや、そのな一人だとつまんないんだな。海って……」

「…ちなみにいつからこんな状況?」

「お前らが行ってからすぐ……」


 やっぱこいつ馬鹿だったわ。

 逆に何を思って先に行ったんだよ…。

 花守さんたちも苦笑してるし。


「はぁ…俺らも着替え終わったしみんなで遊んでくれば」

「そう!俺はそのためにここで待っていたんだ!」


 修哉は『行くぞ!』と言いながら再び海に走っていった。

 情緒不安定かあいつは……。


「そういうことだから、花守さんたちも遊んできな」

「江崎さんは来ないんですか?」

「俺は先に浮き輪とか膨らませとくから」

「私も手伝います」

「大丈夫だよ。いうほど数は多くないし」


 まぁ本当はそういう定義で通しつつ、本音は修哉と遊ぶのはすごい体力がいるのでそれを避けるためここで少し眺めようとしているのだ。

 でもさすがにずっと眺めているのは修哉が怒るので二十分近くだけであれば不自然ではないだろう。


 そんなくだらない俺の作戦を知らない花守さんは『そうですか…何かあったら言ってください』とだけ言って遠くで叫んでいる修哉のもとに行った。

 俺は敷いたシートの上に腰を下ろして、浮き輪を膨らませながら海を眺めるのであった。


 ちなみに浮き輪はすぐ膨らみ終わった。

 しかし俺と修哉の長い付き合い。

 花守さんからあらかた俺のことを聞いた修哉は、そんな俺の行動の裏を感じ取りあっけなく俺は修哉に連行されたのであった。

 すげえな俺の親友。


―― ―― ――


「腹減ったな」


 あっけなく連行されてから二時間ちょっと休憩を入れつつも海で遊んだ。

 スマホを手に取り時刻を確認するともう少しで十二時になる。


「じゃあ誰か飯買いに行くかじゃんけんしようぜ」


 昼飯はここにある海の家で済ませようと事前に決めてあった。

 別に誰が行ってもいいのだが修哉はせっかくならとじゃんけんで行く二人を決めることにした。


「最初はグー…じゃんけんポン!」


 修哉の合図で手を出す。結果は……

 

 俺…グー 

 修哉…パー

 花守さん…パー

 男子…パー

 ロング髪の女子…グー

 ショート髪の女子…パー


 ……やってんな。


―― ―― ――


「……」

「……」


 結局、運にいちゃもんをつけても意味ないのでロング髪の女子と行くことにする。

 しかしここでも今日二回目の沈黙が始まってしまった。

 そして今回はなんの話もできずに海の家についてしまった。


「…あ、ごめん。注文だけお願いできないかな?」

「え、あ、はい…」

「ありがとう。俺毎回注文するとき相手が怖がって注文に時間かけちゃうんだ……」


 着いたと同時に俺は少し大変なことを思い出した。

 俺は外食で注文するとき毎度のように店員さんを怖がらせてしまう。

 その結果、毎回注文が終わるのに時間がかかり、俺の後ろに長い列が出来てしまう。

 今回も注文するのが俺の分だけならいいのだが、今回はほかの人の分もあるので時間はかけられない。

 俺がそう頼むとありがたく了承してくれ、注文をしに行ってくれた。


 俺のときとは比べ物にならないスピードで注文を終えたようで少ししたら店のカウンターに料理が置かれていく。

 ちなみに頼んだのは焼きそばにイカ焼きなどいかにも夏らしいのばっかだった。

 料理を受け取ると行きと同じように帰る。

 でも少し違ったのはロング髪の女子が不思議そうにこちらを見ていたことだ。

 どうしたのだろうか?


「あ、あの」

「ん?どうしたの?」


 俺が聞こうとする前に尋ねられた。


「その……江崎くんって不良じゃないんですか?」

「…へ?」


 急な変な質問に思わず変な声を出してしまった。

 いや本当に急にどうしたんだ?


「えっと急になんで?」

「学校のみんなが江崎くんはやばい不良だと言っていたんですが……」

「はは、やっぱそう思われてるんだ……」

「でも、はなに良い人だって聞いたり、あ、はなってのは花守のことです。それにさっきも相手のことをちゃんと考えたりしていて全然そんな感じがしなくて……」


 さっきというのは注文のことかな。

 別にそんなつもりはなかったのだが、そう思われてたと思うと嬉しくなる。


「まぁ、俺は不良じゃないけど、この傷だとそう思われても仕方ないよね。…でもおかげで友達が出来ないけどね」

「え、それじゃ、はなとはどうやって?」

「あー、笑わないでね?」


 そういうと花守さんとの経緯を話した。


 話が終わるとロング髪の女子はフフッと笑われてしまった。


「やっぱ笑われた……」

「あ、す、すみません。でもお礼が可愛くて…」


 そして気がすむまで笑うとはぁーと声をあげこちらを見た。


「よければ私とも友達にならない?」

「え?」

 

 またもや変な声が出てしまう。

 え?友達になってくれるのか?


「い、良いの?」

「うん、全然良いよ」

「……じゃあよろしくお願いします」

「うん、よろしく」


 こうして……そういえばまだ名前聞いていなかったな。


「名前まだ聞いてなかったね。聞いてもいい?」

「あー、そういえば自己紹介もまだだったね。私は水瀬雫月みなせしずく

「俺は江崎智です」


 こうして俺は水瀬さんと友達になった。

 友達になるというのは俺が変に思っていただけで、案外簡単なものなのだろうか。

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