幕間

「……よし、完成ね」



 現世とは隔絶された場所に建つ世にも珍しい道具達を扱う店、『不可思議道具店』。その店の奥にある作業場で、創り手は手にした新たな道具を見ながら満足げに頷く。



「あの子に作ってもらった朝ごはんを食べてた時にイメージが浮かんで作りたくなったから、食べてからすぐに作り始めたけど、この能力は相変わらずよね。店で扱ってたりあの子が渡してたりするような特別な道具をその辺にあるような鉄屑や石ころから作れる代わりに作れる道具は直前に浮かんだ物に限られ、どのような効果を持っているかは出来るまでまったくわからない。そのせいで、小さい頃はだいぶ苦労したのよね。自分の能力の理解度が足りなくて出来た物を色々な人に渡してしまって大事になってしまった事もあったし……」



 過去の出来事を思い出しながら店主の女性が哀しそうな顔をしていたその時、作業場の入り口の方から足音が聞こえ、店主の女性はそちらへ視線を向けた。


 すると、入り口の陰からエプロンを着けた繋ぎ手がひょこっと顔をだし、創り手の顔を見ると、繋ぎ手は嬉しそうににこりと笑う。



「御師匠様、お疲れ様です。おやつを作ったので少し休憩しませんか?」

「ええ、それじゃあそうしましょうか。因みに、新しい道具が完成したけど、ご挨拶しておく?」

「え、完成したんですか!? はい、挨拶したいです!」

「わかったわ。それじゃあ入ってらっしゃい」

「はい!」



 繋ぎ手は満面の笑みを浮かべながら作業場に入ってくると、創り手から出来たばかりの道具を受けとり、楽しそうに会話を始めた。そして、その様子を創り手は微笑ましそうに見つめていたが、ふと作業場を見回すと、感慨深そうにポツリと呟く。



「……思えば、ここで暮らすようになってからもうだいぶ経つわね」

「そうですねぇ……私は小学一年生の頃から一緒ですから、本当に御師匠様とは長い付き合いです」

「貴女も最初は私の事をお姉さんって呼んでたのに、いつからか御師匠様なんて呼ぶようになったのは驚いたわね」

「御師匠様は御師匠様ですから。一応、学校や市役所には叔母として通してますけど、私にとっては御師匠様です。人生についてもこの子達についても」

「……そう」



 繋ぎ手の言葉に創り手はクスリと笑っていると、繋ぎ手は創り手の方へ顔を向け、花が咲いたような笑みを浮かべる。



「でも、私にとって御師匠様は本当の家族みたいな物ですよ。最近は私が作る事が多いですけど、ご飯も作って道具作りやお店の切り盛りもしながら私にお勉強を教えてくれたり世の中の事を教えてくれたりしたわけですし、御師匠様とこうして暮らせるのは本当に嬉しいです」

「……私も貴女と暮らせるのは楽しいし嬉しいわ。道具と会話が出来る貴女といると、私にはわからない道具達の気持ちもわかるし、勉強になる事ばかりだもの」

「御師匠様……」

「……なーんて、私には似合わず湿っぽくなっちゃったわね。さあ、早くおやつを食べに行きましょう」

「……はい!」



 そして、繋ぎ手が声をかけながら道具を作業台に置いた後、二人は並んで歩きながら作業場の入り口へと向かったが、その姿は本当の家族のように仲睦まじい印象を受ける物だった。

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