不可思議道具店
九戸政景
プロローグ
「ふんふーん♪」
現世から隔絶された空間にある古びた一軒の店、『不可思議道具店』。その店の前で短い橙色の髪の少女が鼻唄を歌いながら竹箒で掃き掃除をしていた。
「太陽
その内に少女が楽しげに口ずさみ出す中、店の引戸がゆっくりと開き、中から長い黒髪の女性が顔を出す。
「楽しそうなのは良いけれど、掃除もしっかりとお願いね」
「はーい。そういえば御師匠様、新しい道具は出来たんですか?」
「ええ。徹夜で作っていたから、その分かなり眠たいの。申し訳ないけれど、今日もご飯は自分で用意してくれる?」
「わかりました。ところで、その道具は持っていって良い子ですか?」
御師匠様と呼ばれた女性は考え込む。
「うーん……まあ、良いかしらね。でも、渡す際にはその相手に道具を使う時にはしっかりと注意するように言いなさい。売り物よりはまだ力は小さいけれど、使い方を間違えたら十分危険な物だから」
「了解です」
「それじゃあ私は少し眠るわね。お夕飯は作るから、帰りに買い物をしてきてちょうだい」
「わかりました。それじゃあおやすみなさーい」
少女の言葉に頷いた女性が店の中へ引っ込むと、少女は掃き掃除を再開した。そしてそれから数分後、掃除を終えた少女が額の汗を軽く拭き、空を見上げていたその時、ゆっくりと少女に近づく一人の人物がいた。
「おはよう。朝から掃き掃除とは精が出るね、“繋ぎ手”」
「……あ、神様だ! おはようございます! もしかして御師匠様にご用事でしたか?」
繋ぎ手の問いかけに神様と呼ばれた少年は微笑みながら首を横に振る。
「ううん、仕事の休憩がてら散歩をね。彼女はまだ寝てるのかな?」
「はい。徹夜で道具を創っていたみたいで、今からお休みになるようです」
「あははっ、なるほどね。“創り手”も相変わらず自分が宿す能力の衝動には抗いづらいようだ」
「そうみたいです。まあ私も能力を使ってお話を楽しんでいるのであまり人の事は言えませんけどね」
「ふふ、そうか。でも、保護した頃よりは君達は自分の能力をしっかりと理解し、周囲に必要以上の影響を与えないようにしてるから、僕はこれからも見守るだけにするよ。中にはその能力が必要そうな世界に行ってもらう時やウチの子みたいに悪人の手に落ちたら大変な子がいるから、その時は僕がすぐに保護したり転移させに行くけどね」
「たしか御師匠様も最初はそうだったんですよね?」
繋ぎ手が首を傾げながら訊くと、神は静かに頷く。
「うん。でも、今は見守るだけで十分。彼女の創り出す道具は他人の運命を簡単にねじ曲げられるけれど、それは手に入れた人次第だから。彼女や君があげる相手をしっかりと見極めてるのなら、僕は何も言わないよ」
「えへへ、私だって道具には嫌がってほしくないですから。私と道具自身が選んだ相手にしっかりと渡してますよ」
「それならよし。さて……それじゃあ僕はそろそろ帰ろうかな。早く仕事に戻らないと、あの子がまた困りそうだし」
「わかりました。お仕事、頑張ってくださいね」
「うん、ありがとう。それじゃあ彼女にもよろしくね」
「はーい」
繋ぎ手の返事に満足げに頷き、神がその場を去っていくと、繋ぎ手はクルリと店の方に向いた。
「さてと……それじゃあ私もそろそろ朝ごはんをたべて学校に行こうかな。あ、それと……新しい道具との挨拶も忘れないようにしないと。ふふっ、今回はどんな子なのかな~」
楽しげな様子で繋ぎ手は店の中へと入っていこうとしたが、突然何かに気づいた様子で背後を振り返り、こちらへ向かってゆっくり近づいてくる人影を見ながら嬉しそうに笑う。
「おやおや、珍しく朝っぱらからお客さんだ。それじゃあ朝ごはんの前にお客さんのお相手をしようかな。それくらいなら朝飯前だしね」
繋ぎ手がクスリと笑いながら言っている内にその人物は繋ぎ手の目の前で止まる。その人物が繋ぎ手やその後ろに建つ『不可思議道具店』に驚く中、繋ぎ手はにこりと笑ってから静かに口を開いた。
「ようこそ、『不可思議道具店』へ!」
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