Pursuers

@sura_desukedow

第1話 記憶

「おねえちゃん!!」

妹が必死に私を呼んでいる。激しい津波に向かって、溺れないように、繋いでる手を離さないよう必死に泳いだ、なのに…

「おねえちゃん!追ってきてる!」

大きな赤色の龍、ドラゴンといった方が正しいのか…ギラギラ光る鱗、爪。口の隙間から見える鋭い歯、嗚呼、私たちはきっと今日食べられるんだ。今日死んでしまうんだ。泣きそうになるが必死に涙を堪える、泣くな、泣くな、今一番大事なことは…

今一番大事なことは実行されることはなかった。

「おねえちゃん!!」

妹と手を離してしまった、手を頑張って伸ばす。なのに彼女の手に触れることさえ、許されなかった。まだうまく泳げない彼女はすぐに見えなくなって...とうとう、目から涙がこぼれ落ちる。私たちはここで終わっちゃうんだろうな…けれど神様、どうかあの子だけは…私は力尽きて深い、深い海にゆっくりと沈んでいく。意識が遠ざかっていく、嗚呼。これ、ダメだな。そういえば、なんであのドラゴンはあんなにもしつこく私たちを狙ってたんだろう…


「にいちゃん!人が死んでる!!」

俺は手に持っていた木の実の入ったカゴを落として叫んだ、砂浜には俺よりちょっと年上くらいの女の子が倒れていた。長くて癖っ毛な紫髪はびしょびしょで、ワカメか何かの海草がついてる。にいちゃんがすぐに駆けつけて俺たちの秘密基地に運び、服などを着替えさせたあと寝かせる。まだ息はあるが高熱に襲われていて危ない状態らしい。

「僕、タオル持ってくる。アロはここにいて。」

「うん。」

にいちゃんが走って部屋を出ていく、俺は女の子の方に目をうつす。すると…

「ゲホッ、ゲホッ…ハァ、ハァ。」

荒い息をした彼女が起き上がった、鋭い目が俺を捉える。正直怖かった、こんなに弱っているのにここまでの圧が出せるのか…するとにいちゃんが駆け足で階段を登ってきた。俺はにいちゃんの方へ一歩、後ろへ下がる。

「あっ、目覚ました!?あぁあぁ、無理して動かないで。」

立ちあがろうとする女の子を寝かせ、タオルで汗を拭く。にいちゃんは鋭い目で見られても平然としている。いや、にいちゃんのことだから前髪で隠れてて見えてないだけな気がする…

「君名前は?」

「ルカ…」

「ルカは砂浜で倒れてたんだけど…何があったの。」

「…」

聞いても答えない、少し眉間に皺を寄せた彼女の口がやっと開いた。

「わかんない…」

は?にいちゃんも首を傾げてる。

「わかんないけど…何か大事な物を無くしたような、なんか…泣きたい気分。」

…どゆこと?

「記憶喪失かな…?えっとルカは何歳?」

「7歳。」

「じゃあどこ住んでる?」

「…わかんない」

「家族の名前は?」

「…」

顔を振る女の子、一部の記憶が抜け落ちてるようだった。

「そっか、えっと…」

「にいちゃん!時間!」

「あっ!僕たち行かなきゃいけないとこがあって。君はここで寝てて、2時間程度で戻るから。」

俺たちは急いで部屋を出た、やばい。先生に怒られる!


走って出て行った二人を疑問に思う、危ない感じはなかったけど…初対面のようだし悪いけど抜け出し…!横んなってた体をも一回起こそうとするがうまく行かずそのまま私の意識は遠のいた。それから何分経ったのだろう、窓から夕陽がさしていた。熱が下がったのか体はもうだいぶ楽で体を起こす、窓の外を覗くとここはどうやらツリーハウスのようだった。部屋を出て階段を降りるが出口が見当たらないどころか窓がないので2階の窓から出るため階段の方へ行こうとした時…

「あ、」

床に落ちていた濡れたタオルに滑って近くの水バケツをこぼした挙句壁をぶち抜けて外に出た…ん?自分が出てきた壁が直ってる…?壁を押すとどうやら仕掛けドアになっていたようだ、くるっと回るドアに感心する。ドアを閉めたら少し歩く、どうやら森の中にいるようだ。どこへ向かおうか悩んでると川に辿り着いた、私は砂浜で倒れてたんだよな…川を沿って歩けばいつかは海にたどり着くだろう、呑気に歩いていたら思っていたよりも早く海に着いた。意味深に落ちている海草、変な跡がついた砂、きっと私はここで見つけられたんだろう。湿った砂に触れる、何も思い出せない…なんだろう、名前も、歳も、誕生日も出てくるのに…どこで何をしていたのか、誰と何をしてたのか、なんのために生きてきたのかわからなくて…目の前にある海に飛び込みたかったけどなぜか体が震えて動けなかった。

「?」

海に浮いていたのはネックレスだった、あんなに震えていた私の体はゆっくりとネックレスを手にした。どうやらロケットペンダントのようだ、開けると中には女の子二人が笑っていた。髪の毛の色や状況から察するに背の高い方は私だろう、じゃあこのちっちゃくて私よりも明るい髪色の子は…

「ッ!?」

その瞬間私の頭に激痛が走った、記憶が戻ったわけではない、この子が誰なのかもわかんない。けどこの子がきっと…

「無くした、大事な物。」

無くした…?その瞬間私は笑った、だって記憶がないのになんで無くしたってわかるんだ?もしかしたら私みたいにどこかの砂浜に…

「いた!動いたらダメだろ!」

走ってきたのは金髪アシメントリーカットの男の子、大きな吊り目が印象的だ。確かアロとか言ったっけ?後ろからはそいつの兄であろう同じ髪色のもっとさっぱりして眉毛を隠すくらいの長い前髪をした男性が走ってきた、少し息が荒いのは私のせいだろう。

「ほらもど…」

兄の言葉が終える前に私は口を開ける。

「ねぇ、地図ってある?」

「さっきの家にあるけど…」

「そう、」

私は止まった2人を置き去りに前へ進む、記憶力がいいのであの家の場所はもう覚えている。さすがに家主を置いてくのもどうかと思い振り返る。

「早く。」

そう急かすと二人は駆け足できた、絶対に見つけるから…



ルカが遠いところで決心した頃、ある少女も砂浜で倒れていた。

「おねえ…ちゃ..ん…?」

意識がないはずの彼女はただ一言、そう呟いた。

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