第1話


 夏目彩音は、大学の授業に出席し、友達たちとの楽しいランチを満喫し、アルバイトで忙しく働く日々を送っていた。


(大学生になったら課題ばかりで憂鬱だ‥。)


 彩音はだるそうにあくびしながら大学の図書館で課題に取り組んでいた。重たい参考書をめくる音が静かな図書館内に響く中、彼女は筆を走らせていた。

 そのとき、スマートフォンの画面がピカッと光った。画面には友達の紗奈からのLINEが表示されていた。


「ねえ、彩音ちゃん!新しいゲームが出たみたいなんだけど、すごく面白そうなの!」


ゲーム好きではない紗奈が面白そうと言うくらいだ。彩音は驚きながらも興味をそそられ、急いでメッセージに返信した。


「新しいゲーム?なにそれ?」


すると、紗奈からすぐに返事が届いた。


「それがね、LoveQuest(ラブクエスト)っていうの。新しい人生を実際にいるように体験できるみたいなんだ!」


新しい人生を体験できるという紗奈の説明に興奮が高まり、彩音は返ってきたアプリの概要欄を食い入るように見た。


LoveQuestは、自分のアバターを作成し、恋愛や友情、冒険を求めてさまざまな場所を旅することができるという革新的なゲームだった。口コミを見ても、実際にその場にいるような感覚で体験できると高評価ばかりだ。


「これは面白そう!」と声に出してしまう彩音。周りの人たちが一瞬こちらを見たが、彼女は気にせず、好奇心に駆られて課題を途中で切り上げ、家に帰ることにした。


 家に着くなり、彩音はスマートフォンを取り出してすぐにLoveQuestのアプリをダウンロードしようとした。

 しかし、アプリのサイズが大きく、ダウンロードに時間がかかってしまう。


「しょうがない、お風呂に入って待とう。」と独り言を言いながら、彩音はバスルームへ向かった。


 湯船に浸かりながら、彩音はふと自分の恋愛事情について考えていた。大学生活は充実しているけれど、課題や学費を稼ぐためのバイトに追われて、ずっと恋愛なんてしてきていない。

 仲良いグループの友達には皆彼氏がいるし、お姉ちゃんでさえ社内で出会った彼氏ともう5年も長続きする恋愛をしているのが内心羨ましく思っていた。


「私も恋人がほしいな…。」と、心の奥底からの切実な思いが湧き上がる。


 そんな思いを胸に湯船に浸かっていると、30分以上も経ってしまった。はっと気づいてさっと洗い流し、お風呂から上がると、部屋に戻った。

 ダウンロードが完了していたスマートフォンの画面に目を向けた。


「きてくれてありがとう!LoveQuestの世界で遊ぼう♪」という金髪美少女が話している。


 まずはアバターを作成するようだ。リアルな見た目の男女が画面に現れ、性別を選択する。彩音は女性を選び、次に細部をカスタマイズしていく。


 パーツの種類が豊富で、彩音は夢中になって設定を進めた。可愛い丸目、長いまつ毛、スッと通る鼻筋、ぷくっとした唇、モデル体型、そしてさらさらの黒髪ロング――自分の理想とする最高の女性像が完成した。

 ワクワクが抑えきれず、自然とにこやかな表情になっていた。


「次は名前か…」と呟きながら、彩音は「あや」と入力した。


 アバターが完成すると、金髪美少女が画面に再び現れ、「それじゃあLoveQuestの世界にレッツゴー」と明るく言った。

 その瞬間、彩音の意識はふっと遠のいたのだった。

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