陰キャ女子高生が脱ボッチ目指して人気ダンジョン配信者になろうと思ってたら人気になる前に強くなっちゃったし、クラスのギャルを助けたら何故かカップルチャンネルをやりながらダンジョン配信する事になりました

リンスinハンドソープ

第1話 底辺這いずり周り系陰キャ女子高生配信者、ギャルと出会う。

「こ、こんにちは、女子高生ダンジョン配信者のワカナです……今日もダンジョン攻略して行きますね……へへ」



 そう言いながら配信を起動した私『ワカナ』こと『仁堂若菜にどうわかな』は、精一杯の作り笑顔を作りながら背後に浮かぶ配信カメラに向けて挨拶した。


 そして、全く流れないコメント欄に同接一人と言う現実を前に、頭の中で喋る事は無いかと考えながらも結局喋る事が見つからずに、黙って歩き続ける。


 すると早速、戦闘シーンが映えそうなモンスターが岩陰の奥に見えてきた。

 


「あっ、モンスター居ました! あれはステルスハイエナの群れですね……い、今から倒しま、倒すので、見てて下さい!」



 あのモンスターは透明になる能力を持っているから、透明になる前に倒せば良い。



 そう考えた私は手に持ったダンジョン産のナイフを握りしめながら、同じくダンジョンで手に入れた加速できる靴を起動し、群れに突っ込んだ。


 そして、十体程の群れを作るモンスターの全てを切り伏せた。

 


「見える分は終わり……でも、後ろにも居るはず……!」

 


 そして、私が決め打ちして背後にナイフを投げると隠れていた一匹に見事命中。その後すぐに背後からモンスターが倒れる音が聞こえてきた。


 今の私、かっこいいかも……うへへ。もしかして、誰か見てたらチャンネル登録してくれたりして……

 

「お、終わりました!」



 そして、そんな期待を抱きながら空中に浮かぶコメント欄にそう報告すると、そこに映し出されていたのは同時接続一人の文字。


 残念ながら健闘虚しく、私の日常は続いていた。



「あっ、終わったなんて見れば分かりますよね……つ、次行きますね」



 そうして、大活躍を見てすらもらえぬままダンジョンの奥へと進む。



 (私、やっぱりダンジョン配信向いてないのかな……伸びると思って配信タイトルに『女子高生』って入れたのに、それでも伸びないし、なんか強さだけがムキムキになってる自覚あるし……)



 女子高生ってタイトルに入れるのにすごい勇気出したのに……入れた事、今になって急に恥ずかしくなってきたな。


 やっぱり高校の制服着てないのが良くないのかな……ダンジョンで黒いフード付きマント拾ったから、かっこいいと思って着ちゃったけど……



 (やっぱり私の事一目見て『こいつ陰キャ丸出しだし、どうせ千円カットで髪切ってんだろうな。そんな女子高生は女子高生じゃないわ』とか思って見るの辞めるのかな……あ、そもそも配信画面を開いてくれる人が居ないから見られてすらないのか……へへ、もうだめだぁ)



 そんな風に一人考えながら歩いていたら突然、モンスターのものと思われる力強い唸り声が聞こえてきた。



「あっ……今の声、多分ボスモンスターですねっ! お宝があるかも知れませんから、い、行きます……行きましょう!」



 ボスを倒して珍しいお宝を手に入れれば、バズって視聴者も増える……かも。

 

 そしたら登録者も増えて、人気配信者になって……そしたら学校でお友達もできるよね。やっぱり配信始めたの正解だったかも、うへへぇ……

 

 ……いや、今は妄想してる場合じゃない、早く行こう!



「あっ、み、見えてきましたね、あれは……キングオーク!? い、いや、それよりも、後ろに誰か……」



 そうして走った先で見つけたのは、本来こんな浅い階層に居るはずのない、オークの王『キングオーク』であった。


 しかし、それよりも私の目を引いたのは、キングオークに追い詰められている様子の見覚えのある制服を着た金髪の女の子と、その後ろで怯える小さな女の子であった。



「制服着た女の子と……子供? なんでダンジョンに?」



 そして、そんな景色を前にして一瞬体が固まった私を見た制服姿の彼女は、焦った様子を見せながら私に向けて口を開いた。



「た、助けて下さい!」



 その彼女の言葉を聞いた瞬間、私の体は無意識に動き、キングオークの方へと向かっていた。


 そして、その勢いのままキングオークの頭上に向かって飛び上がり、キングオークの背後から手に持ったナイフで脳天から足元に向けて一閃。


 それと同時に私に視線を向けたキングオークは何もできないまま倒れ伏し、すぐに塵となって消滅した。



「よ、よし。これで大丈夫……だよね?」



 そうして、念の為に周囲の安全を確認した後にナイフを鞘に戻した頃、金髪の女の子が明るい笑顔を見せながら駆け寄ってきて感謝を伝えてきた。


 ……私の両手を握って。

 


「ありがとうございます、めっちゃ強いですね! てか、同い年くらいだよね! あたし感動しちゃった!」



 そして、彼女に手を握られるその瞬間と同時、私は彼女の正体に気づいてしまった。



 (ひっ……! この人ギャルだ! 距離近いし、金髪だし、赤いカラーコンタクト入れてるし、なによりスカートが短い! 絶対にギャルだ!)



 ギャルなんて私からすれば、教室から廊下に出たい時にはあえて避けて通るくらいの存在である、圧倒的な上位者!


 きっと毎日スタバ行ってるんだ……! 怖い……! 今すぐ逃げなきゃ!

 


 (というかこの人、同じクラスの『奈良咲明日香ならさきあすか』さんだ! でも気づかれてなさそう……?)



 あ、そっか。光の世界に住むギャルからすれば、日陰に住む私なんて低次元の生物だから、存在すら認識されてないんだ。


 ……現実が残酷過ぎる。もうだめだ、今日はお家に帰ろう。


 でも、まずは手を離してもらわなきゃいけないよね……言わなきゃ『手を離して』って言わなきゃ……!



「あっ、あ……て、てっ、手……」



 どうしよう……手を放して欲しいのに、声が出ない……!



 あ、キングオークの牙ドロップしてるの今気づいた……でもギャルの後ろにあるから取れないぃ……


 陽キャ怖いよぉ……いや、大丈夫、私ならできる! がんばれ私、声を振り絞れ! 勇気を出せ……私!



「あ、あっ、えっと、じゃあこれで失礼します……あっ! こ、これ『帰還の指輪』です。指にはめると地上に帰還できる指輪です、使えばダンジョンから出れますから二人分置いておきますね。そ、それではさよなら!」


「えっ!? そんな一息でっ……って、ちょっと待って……ってかコレ! ここにドロップアイテムあるよ! ほら、おっきい牙!」



 なんか言いたい事全部出た……! 一人で喋りすぎて引かれてた気もするけど、よくやった私!


 よし! 自分の人差し指に指輪をはめて……起動! そして配信も切る! 見てくれてた一人のリスナーさん、ごめんなさい!


 次はちゃんと終わりの挨拶するのでまた見にきて下さい……って心の中で伝えながら、ダンジョンを脱出した。








 ――そして、ワカナがダンジョンから脱出した後、取り残された金髪ギャルが小さく呟いた。


「行っちゃった……てか、あの子どっかで見た気が……?」


 そうして、一人でに呟くギャルが頭を悩ませていた頃、背後にふよふよと浮かぶ配信カメラを通して一連の流れを見ていたコメント欄の民達は、突如現れてはギャルを救った強者の登場に大いに湧き立っていた。


 そして、この出来事がワカナこと、仁堂若菜の配信者人生を大きく飛躍させる事を、彼女は翌日知る事になる。



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