第12話 諸手続き


 翌日。

 朝一で、商業ギルドに行き、クロウ・レウス・ティガを奴隷にする手続きを行った。


 商業ギルドで担当をしてくれた商人だが、こちらもわざわざギルド長が対応。

 そこで、カエシウス町でのオークション開催についての情報も聞いた。3日後に開かれ、それに参加するために少なくない貴族が現地入りを目指しているらしい。

 そして、逆に伯爵家の現当主と先代当主は、カエシウスでの対応をすることなく、どこかに出かけたということ。


「詳しいな」

「商人にとって、情報は命でございますよ。すでにあの町で、オークションが行われることは宣伝されております。出資者が貴方様であることも……大盤振る舞いをしたことも聞いております。アフェールめが、わざわざオークションの日を早めたとも聞いております故、お耳に入れておこうかと」

「なるほどな。商人は本当に優秀だ」


 俺がキュアノエイブスにて、伯爵家と話し合いをすると決めた日に合わせてオークションを開くことにしたらしい。

 俺と伯爵家の対立から、金銭ではなく、俺の利益になるように日取りを選んだのだろう。メディシーアの特異性でもあるだろうが……商人にとって、金のなる木なんだろうな。

 金銭以外で恩を売っておくことを選んでいる。


 その点は、目の前の商人も同じだが……。


 奴隷契約をするための仲介と契約書の作成の依頼に対し、完璧な状態で行われた。保証人にこの町のギルド長が入ることで、他家が容易には奴隷契約に干渉できない。

 金を返すまで彼らは、完全にメディシーアの物になった。たとえ、他家が奴隷の買取を希望しても本人が望まないなら出来ないという徹底ぶりだ。

 


「見事なもんだ、助かった」

「いつでもお申し出ください。貴方様でも、妹様でも……今後は、パメラ様と同じ待遇を約束致します。奴隷を増やす場合、同じ内容であれば手数料も不要です」

「ああ……まあ、増やすにしても、今回は冒険者パーティーに組み込むからこその条件でもあるからな。次も同じとは限らない」

「承知いたしました。そのように引き継いでおきましょう」


 奴隷商をギルドまで呼び出し、あっさりと手続きは完了した。

 焼き印などもなし……一応、奴隷の証である首輪をつけるんだが、これも洒落たチョーカーのような形にしてくれている。色は指定されている借金奴隷のものだ。

 見る人が見ればわかるんだろうが……美形な3人だけに、一見はオシャレで付けていると思うくらいに似合っている。



 そして、手続きが完了してから、クロウを連れて、領主の館へと向かった。


 今回は、約束していないが、急ぎのようだと伝え、荷物を預けようとしたがすぐにフォルやってきた。ラズの元までさっさと案内をしてくれるのかと思ったが、案内されたのは車寄せ……用意されている馬車に案内された。用意されている馬車は2台。

 だが、随分とその質は違うな。


 そして、しばらくするとラズとお師匠さんがやってきて、馬車に乗ってそのまま出立となった。

 一応、クレイン達には言ってあるから大丈夫だろうが……急に出立するとは思わなかったな。



「それで? グラノス。君、何やったの?」

「売られた喧嘩を買ったな」

「それが、なんで伯爵家からメディシーア子爵家への宣戦布告になるのか、聞いてるんだよ! 穏便にすませるどころか、油注いでるでしょ」


 ラズは、顔を合わせた途端にお怒りだった。

 一応、経緯については伝えようとはしたんだがな……ライチを飛ばそうにもタイミングが悪かったので、伝わってないが。


 どうやら、カイアに伝えた内容をラズにも送って、簡易にだが知らせておいてくれたようだ。



「おや、まあ……グラ坊も、最初から随分と大物を選んだね」


 急でもないが、予定よりは早い時間にキュアノエイブスに向かうことになった。馬車に 乗っているのは、お師匠さんにラズにクロウ、俺の4人。

 つめれば、もう二人くらい乗れそうな気もするが、まあ、4人乗り馬車だろう。

 クッションが欲しくなるくらいには、固い座り心地ではある。


 そして、もう一台の馬車が後ろからついてきている。


「フォルは…………後ろの馬車か。何を運んでいるんだか。いいのか、町を空けて?」

「誰のせい? 僕だって、こんな頻繁に向かうつもりはなかったよ。でも、急ぐ必要がありそうだからね……伯爵家の面子もキュアノエイブスに向かったって情報入ったしね~。父上に無理を言って時間を作ってもらうためにも、一緒に行った方がいいでしょ」

「3日後に話し合いの場なわけだが……馬車なら明日の夜には向こうにつくだろう? 2日もあれば、少しくらいは時間取れそうなものだが」

「伯爵家が明後日には現地入りする可能性があるから、明日しか時間ないよ。調停をするにあたって、どちらかに偏るわけにもいかないでしょ? 先に申し出て面会しておく必要があるんだよ」

「そうなるのか……」

「貴族は本当にややこしいさね……同じ日に入ったなら、家格が上の方から出ないといけないとか、決まり事があるんだよ。面倒なことにね」


 つまり、俺らが面会をするのは、到着した日にそのままするしかない。あとは伯爵家が面会するまで俺らは面会出来ないのか。

 最悪、そのまま話し合いの場に行くことになる。打合せくらいはしたいんだが、嫌でも王弟側からするとそこまで関われないか? あくまでも調停する側だしな。



「実際、パメラ婆様が事前に謁見を願い出てたから、なんとか通したんだよ」

「そうなのか?」

「ちょうど1週間前に、新薬が出来たら献上しようと、ラズ坊に謁見の申し込みを頼んでいてね。王弟殿下への謁見は、2週間待ちとかも普通にあるからね」

「それは……不見識だった、調停を一週間後は無理やり過ぎたか」

「意図はわかるけどね。時間与えたくなかったんだろうし……偶然にも、婆様が前から謁見申出してるから、割りこめたけど。毎回こうはならないからね~」

「反省しよう。今後、そうそうないと思うけどな」



 むしろ、今回見せつけることで、今後の手出しを封じたい。そのための騒動でもある。

 その意図はラズにも伝わっているので、これ以上のお説教は避けられた。そのため、何が起きていたかをラズとお師匠さんには説明しておく。


「一応、経緯の説明だが……。あの冒険者ギルドで、ギルド嬢が、俺の冒険者証を持った盗人と共謀して、手続きをして、俺が撤回を求めたら却下。挙げ句に、ギルド長が家名を名乗って俺を拘束しようとしたので、指示に従った奴が俺に触れた瞬間に宣戦布告と判断する、という宣言をした。流石に、拘束されてしまえば、今後に差し障りがでるだろう?」


 これについては、はっきり言って、あっちが悪い。俺の話を聞かずに、拘束しようとした時点で、アウトだろ。これで大人しく拘束されれば、面子がたたない。

 貴族として、致命的となる可能性があるだろう。まだ、認知されていないからと言って、次期子爵を伯爵家の元三男が無下に扱えるわけではない。


 家の名前を出せば、平民は大人しくなるだろうが……貴族は反発するだろう。


「なんでそうなったか理解できないんだけどね……」

「俺とナーガは、盗人と伯爵家に縁のある証人のおかげで、罰金刑を食らうことになった。これが、その書類だ」


 ぺらりと渡したのは、カエシウスにて罰金刑となるため、正式に決まるまで町を出るなということが書かれた書類。

 法的拘束力はない。そもそも、証言だった、誰が証言したのかは書いてない。だが、まるで正式なものであるようにギルド印がしっかりと押されている。


「なにこれ? この書類に効力ないでしょ」

「一応、勝手に町を出たら指名手配すると言われたんだがな……数年前から、他の地域で活躍している冒険者などに対し、嫌がらせ行為をしていたみたいだな。正式な沙汰もなく、あの町に拘束されて、我慢できなくなるところで、罰金刑になると他の町での活動に影響でるから、高額を収めるならなかったことにするというのが流れだ。情報提供者からの報告だが、俺ら含めて両手の指に足りないくらいのパーティーが被害を受けてるな。こっちが、それをまとめた書類」


 ネビアからの渡された資料のうち、冒険者ギルドの不正をまとめたものをそのままラズに渡す。

 数年前から、あの冒険者ギルドは金に困り、こんなことを繰り返していたらしい。


 他の地域に行けない様に縛り付けてもいるらしい。


「これ、事実なの?」

「君、お坊ちゃんだよな。そもそも、このギルド長、貴族なのに騎士の適性がないから冒険者やって、コネでギルド長になったんだろ? 金に困ったから、平民から取り上げる。受付嬢も平民相手に話はしないと散々言ったということは、平民に対し、常に見下していたんだろうな。あと、金については、先々代伯爵が亡くなったせいだろうな。薬を作るための素材も含め、当時は羽振りが良かったのに、代替わりからいきなり低くなっている」

「はぁ……メディシーアと、伯爵家が争うとなると、各地に飛び火するんだけど」

「ラズ坊。あくまでも、先々代の頃には縁があっただけさね。メディシーアは、何処にも属していないさ。後継者を拘束するような家とは断絶も止む無しさね。それで敵対が増えるとしても仕方ない」


 お師匠さんは、俺の行動を責めはしなかった。爵位が上の相手だからと一度でも引けば、二度、三度と仕掛けてくるだろう。危険に晒されるのは、クレインだ。

 俺の見解を説明すると、大きく頷き、良くやったと褒められたくらいだ。


「わたしは、当主同士の話し合いをするのは、構わないよ。わたしの意志は、グラ坊と一致している。あの子を危険に晒した家と今後の付き合いは控える。それだけさね」

「そうそう。調停を、王家より王弟殿下にお願いしたいのも、高齢な当主を長期間の移動にさせないためだ。どこも可怪しくない。そもそも、本人いないのに冒険者証持ってる奴の希望で、手続きをしている時点で後ろめたいことしてるだろ? 俺の冒険者証がないとクレインをパーティーからは外せない。これ、受付嬢がやったと思うかい? 盗人を加入させるだけでなく、クレインを外すことには、なんらかの指示があったはずだ。金についても、許される範囲を超えてるだろ。問題を起こした冒険者に罰則で、被害者をパーティーに組み込む手続きします、それで加入したからパーティーのお金降ろします? 10万Gだぞ? 今まで無関係だった奴に、パーティーの金をおろすことを平然と許可するか? 明らかに可怪しいんだ。実際に、金はおろされてるらしいが、あの女は拘束した時持ってなかったしな」

「確かに。ある程度調べたこの文書も含めて……まさかの家同士での抗争になる大惨事。で、どこまで要求するつもり? 」


 最終的な決着か。

 後に禍根を残すかどうかってやつだな。俺としては全面戦争してもいいが、王弟派の見解も知りたいところではある。

 俺がやり過ぎたのを見て、王弟殿下が手を引くと言われてしまうと本当に困るからな。



「返金と、対応した受付嬢とギルド長の退職。伯爵家からの誠意のある謝罪。こちらが天秤に乗せるのは……」

「メディシーアとの諍いだ、薬だろう。わたしやひよっこの作る薬を一切領地に入れない。輸送だろうと、あの土地を経由させれば理不尽に奪われることもありそうだからと宣伝もしようかね。冒険者ギルドを信用出来ないと証明したのだから、領地に入れられん。そして、伯爵家が片棒を担いでいないとこんなことは出来ないだろうしね」


 隣の伯爵家の領地は、陸路では要の土地だ。あの領地を避ける場合、川を渡って王都に運んでから、各領地に届けることになるが……各領地を行き来する輸送は、冒険者を通さないと難しくなる。後は家の騎士団が取りに来るとかになるか。どちらにしろ、信頼問題だからな。


 その土地の冒険者ギルドと領主が敵対すれば、通り抜けしないということになる。

 しかし、輸送コストだけでなく、時間もかかり、間に合わない事態もあり得る。


「そういう事だ。すでに、10万Gもの盗難による損害を与えられたのだから、そこ領地に薬を運んでも盗まれるかもしれんからな……謝って終わりにはならんだろ? 王弟殿下の仲裁が嫌なら、王都での裁判だな。全て公表した上でな……ついでに、オークションを開催してもらって、注目も集めてある」

「はぁ……僕よりよっぽど貴族の手腕あるんじゃない? これって、公表をすれば、伯爵家は痛手。国王派にもね~。しかも、公表しなくても、知れ渡っている。……ただ、派閥争い激化が良い状態ではないんだよ、わかってるよね~?」

「だから、穏便に当主同士での話合い、だろ?」



 ラズは今回の件には口を出すことは出来ない。なにせ家同士のことだからな。

 その場にいることが出来るかも分からないからこそ、馬車内で、付け焼き刃でも、振る舞いを指導してもらった。


 ついでに、クロウと俺の衣装についても、ラズから貰うことになった。貸衣装よりはましだという。

ついでに、今回の件を踏まえて何着かは貴族用の服を作るようにとお師匠さんにも言われた。

 まあ、必要なことではあるだろう。フォルにでも、職人を紹介してもらって、次のために仕立てておくか。


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