魔族の少女ココ編③

 夜が明け、私達は再び出かける支度を始めた。ルリィさんとサレサさんは、眠りから覚めるとすぐに既に先に起きて支度を終えていた光矢の事を見て驚いていた。


「殿方様! お体の方は……?」


「……!?」


 しかし、光矢は心配する彼女達に対していつも通りの調子で答えていた。


「……あぁ、平気だ。体の方も心配いらない。……お前達には、どうやら色々と心配かけたみたいだな」


 光矢が、そうして軽く頭を下げるのを見てルリィさんやサレサさんは、急に照れくさそうにし始めていた。


「……そっ、そんな! 大切な方の体の心配をする事は……当然の事ですわ!」


「同感……!」


 すると、次の瞬間にサレサさんは、頬を赤らめたまま光矢の体に勢いよく抱きついた。少しびっくりした様子の光矢が、少しの間固まっていると、抱き着いたサレサさんは光矢の胸元に顔を左右に擦りつけながら告げた。


「……私のせいで、いなくなっちゃうのかと思った。……感謝の言葉も、謝りたい気持ちも伝えられないまま……。だから……怖かった」


 サレサさんの目からは、涙が流れていた。彼女の頬を伝って下に落ちた涙が、ポタっ……ポタッ……と音をたてて、零れ落ちている。


 そんな彼女の言葉を聞いて光矢は、固まっていた口元が少しだけ動き、フッとクールな微笑みを浮かべだした。


「……すまなかったな。もう大丈夫だ。心配かけてすまんな……」


 彼は、優しくサレサさんの頭を撫でてあげる。……すると、途端にサレサさんの涙が止まって、彼女は光矢の胸元に顔を埋めながらジッと彼の体を抱きしめていた。後ろからその様子をぼーっと眺めていた私には、見えた。サレサさんの尖った耳がピコピコ跳ねている姿を。それは、まるで嬉しい時のうさぎや犬のようだった。


 ――エルフの耳があんな風になるなんて私は、初めて見た。


 しかし、そんなような事をうっすら思い浮かべていると、今度はサレサさんの後ろからルリィさんがひょっこり姿を現す。


「……サレサさん? 貴方、殿方様に対しては特にそのような感情は抱いていないと……昨日、仰っておりましたわよね?」


「……!?」


 ――ギクッ!? と、まさにそう言っているような反応をするサレサさん。彼女は、すぐに顔を光矢の胸元からルリィさんの方へ向けて告げた。


「……そっ、そんな事……言った……かな……?」


「誤魔化そうとしても無駄ですわよ。私に嘘は、通じませんわ」


「……」


「……」


 両者、まるで戦場で睨み合う決闘中の魔法使い達のようだった。しかし、そんな中で最初にその引き金を引いたのは、意外にもサレサさんだった。


 彼女は、再び顔を光矢の胸元に埋める。


「……先手必勝」


「あっ! こら! ズルい! 私にもやらせてぇ!」


 だが、いくらルリィさんに引っ張られてもサレサさんは、決して手を離さない。彼女は、顔を埋めた状態で、大きく深呼吸する。


「……良い匂い」


「あああああああああ! ずるいですわ! 1人だけ殿方様の匂いを味わうだなんて! 後輩のくせに! 先輩の言う事を聞きなさい! アタシが、本来一番乗りなはずですわ!」


 サレサさんとルリィさんは、そんな風に言い合いを始める。


 ――というか、それなら一番は私なはずである。


 そんな様子を困った様子で見守っていた光矢。最早、この状況で何も言えない様子の光矢だったが、するとそこに今度は、彼の後ろから肩を人差し指でちょんちょんと触って来る男が現れた。


「……おやっさん?」


 光矢が、きょとんとした様子で後ろを振り返って見ると、そこには悔し涙を流すヘクターさんが立っている。彼は、言った。


「……なぁ、ジャンゴよ。俺は、お前に……この世界での生き方のようなものを色々教えてやったのかもしれない。……いわば、俺は……お前にとってこの世界での親に当たる存在かもしれない」


「……お、おう?」


「けどなぁ……ジャンゴや。……俺は、テメェに女の遊び方なんて1つも教えたこたぁねぇぞ!」


「おやっさん!?」


「くぅぅぅぅぅぅぅぅ! 羨ましい野郎だ! そこを変わりやがれ! このバカジャンゴ!」


 すると、ヘクターさんは急に何処から持ってきたのかよく分からない剣を1つ手に持って、鞘から抜くと光矢に斬りかかろうとした。そんな彼の姿に慌てて光矢は、サレサさんを引きはがして、逃げ始める。だが、ヘクターさんは光矢を逃がさない。彼は、何処までも剣を持った状態で追いかけるのだった。


「おやっさん! 待ってくれ! 落ち着いてくれ!」


「うるせぇ! 俺だって……素敵なおじ様と言われながら……若い女の子にチヤホヤされてぇんだ! 畜生!」


「おやっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 私は、そんな彼らの楽しそうな会話を寝たふりをしながら聞いているだけだった。


                       *


 少ししてから出発する準備を終えた私達は、ヘクターさんの家の前に立っていた。もうすっかり元通りの元気な様子の光矢が、去り際にヘクターさんと握手をしていた。


「……それじゃあな。元気でやれよ?」


「おやっさんこそ。元気でいて下さいよ」


「あたぼうよ。……そうだ。念のため言っておくが……この先は、たまに魔族も現れる危険地帯でもあるから……本当に気をつけろ」


「ありがとうございます。それじゃあ……行ってきますね」


 光矢は、そう告げるとヘクターさんの手をギュッと握ってから歩き出した。私達も先を行く光矢の後を追いかけるように進んで行く。


 そうして、しばらくしてヘクターさんの家がかなり小さく見える位置まで来た所で突如、一緒に歩いていたサレサさんが口を開くのだった。


「……ありがとう」


「ん?」


 その突然の発言に驚いていた光矢が、見てみると彼女は彼の傍まで歩いて来て小さい声で告げた。


「助けてくれた事、とても感謝している。それにごめんなさい。危険な思いをさせてしまって……。マリアさんも……改めてごめんなさい」


 彼女は、私に対しても謝ってくれた。だが、私は……。もうとっくにそんな事は許しているつもりだった。だから、あえて彼女に対して微笑み返すだけだった。光矢は、私がどう思っているのかを察した様子で告げた。


「あぁ……その事か。別に大した事はない。気にするな。それよりも、お前までどうして俺達と一緒に旅をしようって思ったんだ?」


 すると、サレサさんは少し言いづらそうに下を向いた。しばらく何も言わないで口の中をモゴモゴさせているだけだったサレサさんだったが、彼女は告げた。


「……私は、あの森を追い出されてしまった。人間達には、最後まで認めて貰えなかった」


「……そうか」


 光矢は、帽子で目の辺りを隠した。……その仕草を後ろから見ていた私は、彼がサレサさんに対して同情しているというのを理解した。帽子で顔を隠し、下を向いていた光矢に対してサレサさんは続けて言った。


「……私は、人間という生き物についてもう少し詳しく知りたい。でも、あの村の人達が私を否定するのなら……あの村で過ごす事はもうできない。だから……貴方達と共に旅に出る事にした。いつか、あの森に帰って来た時、変わった私ともう一度仲良くしてくれたら……嬉しい」


「そうか」


 光矢の口元が少しだけ笑っていた。サレサさんの本心を聞けて嬉しかったのだろう。私も嬉しい。ルリィさんも何処か嬉しそうだった。


 しかし、そんな風に場が和み始めた頃――。


「……それに、貴方にも恩返しがしたいと思った」


「……? 俺か?」


 帽子を被り直して目元が見えるようになった光矢が、振り向くとサレサさんはコクリと首を縦に振ってから告げた。


「……そう。命を救ってくれた貴方には、お世話になった。言葉では、感謝しきれないくらい。……だから、恩人である貴方に恩返しがしたい」


「……恩返しだなんて、別にそんなのしてくれなくて良いんだぜ? 敵は、マリアとルリィがやったんだろ? なら、俺に恩返しする必要なんてないんじゃないのか?」


「そんな事ない。貴方がいてくれたから敵を倒す事ができた。……だから」


「ん?」


 突如、サレサさんの頬が赤みを帯びだした……気がする。彼女は、少し照れくさそうな様子で両手を組んでモジモジし始める。そして、少し間を置いてから彼女は、口を開いた。


「……貴方の旅に私もついていきたい」


「そうか。……お前がそうしたいのなら俺にお前を止める権利は、ない。好きにしろ。サレサ……」


 光矢は、そう言うとこれで、この話はおしまいにしようという様子で隣を歩いているサレサさんよりも少し早歩きで進みだした。しかし、そんな彼の様子の変化にいち早く気づいたサレサさんは、すぐに歩幅を彼に合わせて早歩きを始める。


「……それなんだけど、私は……貴方の事をこれからなんて呼べば良い?」


「呼び方なんて何でも良い。他の奴みたいにジャンゴと呼んでくれれば良いし、俺が分かる呼び方をしてくれればどうでも良い。気にしない」


 しかし、サレサさんの言った言葉の重要性にいまいち気づけていない様子の光矢は、どうでも良さげにそう告げて、真っ直ぐ前を向いたまま歩き続ける。


「……他の人と同じ呼び方じゃダメだから聞いてるのに……」


 サレサさんは、小さい声でそう呟いた。……彼女のその言葉は、顔の向きなどのせいで絶妙に光矢には届かない音量だったが、真後ろを歩いていた私とルリィさんには、丸聞こえだった。


 彼女は、少し悩んだ様子で、考え事をしていたが、少ししてサレサさんは、改めて光矢の方を振り向くと頬を赤らませながら彼に告げた。


「……じゃあ、その……前の世界では……何て呼ばれてたの?」


「……佐村光矢だ」


 光矢は、いつもの感じで自分の名前をサラッと言ってのけるが、当然サレサさんには、彼が言った言葉の発音が分からず、困惑してしまう。


「……ム・ゴーイヤ?」


「あぁ、この世界の人間には、俺の名前を発音する事は、できないみたいだ。どうも俺の元々いた世界の言葉は、ここの世界の人達には、発音がしづらいらしい……。今も転生した時に授けられた翻訳魔法でお前達と会話ができているんだからな。マリアが、特殊ってだけだ。……まぁ、だから無難にジャンゴで……」


 と、彼が言いかけた次の瞬間だった。それまで頬を赤くしてモジモジした感じのサレサさんが、ここで感情を爆発させたようなこれまでよりも少しだけ大きな声で言った。


「……じゃあ! ”ムーくん”って呼ばせて!」


「……は?」


「……ムー・ゴーヤのムーからとった。これで、私にも……私だけの呼び方が……!」


 なんだか、とても嬉しそうにしているサレサさん。しかし、彼女達のここまでの会話を全て後ろから聞いていたルリィさんが、とうとう我慢の限界と言わんばかりにサレサさんの背後からゆっくり近づく。


「ねぇ? 後輩さん……貴方、ちょっと殿方様と近づきすぎじゃありません? さっきから話を聞いていれば……アタシの後釜のくせに……アピールし過ぎですわ」


 すると、サレサさんの顔中が真っ赤に染まり、途端に彼女は私やルリィさんの顔ですら見れない感じにそっぽ向いてしまった。


「……べっ、別に……アピール何かしてない。これから一緒に旅をする仲間として……これくらいは、普通……」


「普通? そんな恥ずかしそうな顔で、よくそんな事が言えますわね! 貴方の思っている事なんて全て

お見通しですわ。……どうせ、殿方様と……」


「そ、そう言うわけじゃ……ない。ほんとに……ほんとにほんとにち、違う……」


 本当に説得力のないサレサさんの言葉。本人は、必死に隠しているつもりなのだろうが……表情を見ても、仕草を見ても、声を聞いても……間違いなくそうだとしか思えなくなってくる。


 ――というより、普段が抑揚をあまり感じない声をしているからか、余計にこういう時、少しでも緊張が混じると、凄く分かりやすく聞こえてしまうのかもしれない。


 そんな恥ずかしそうに下を向いているサレサさんの目をジーっと見つめるルリィさん。


「ほんとにぃ~? どうも怪しいですわね。貴方は特に……想像以上に殿方様にグイグイ来るし……厄介な人を仲間にしてしまいましたわね……」


「だっ、だから……違う!」


「違くありませんわよ……」


 サレサさんが必死な様子で言い返すもルリィさんは、少し呆れた様子で言い返した。


 2人の女は睨み合い、しばらく火花を散らし合っていた。そんな女同士の修羅場が繰り広げられている中、1人先へ歩いて行っていた光矢が、遠くから私達に大きな声で告げてきた。


「おい! お前ら、ちょっと来い」


 そう呼ばれてたちまち、私達は走り出した。誰が先に光矢の元へ辿り着けるか、なんて競争は始めた覚えもないのに……いつの間にかルリィさんとサレサさんが勝手に私の知らない所で勝負を始めていたが、私はそれを無視して普通に一番最初に彼の元に駆けつけた。


「……やはり、やりますわね……。先輩は……」


「同感。……流石……最初の人は違う」


 後からゴールしたルリィさんとサレサさんは、そう言うが……私にとって今、そんな事はどうでも良かった。


「どうしたんですか? 光矢」


 尋ねてみると、彼は少し深刻そうな顔になって双眼鏡を1つ、私に渡して告げた。


「……向こうを見てみてくれ」


 彼に言われた通り、双眼鏡で向こうの景色を見てみる。すると、レンズが映している遠くの大地で動いている何かを私は見つけた。


「あれは……!」


 その動いている何かは、動物とは違う。二足歩行で明らかに人か魔族のような後姿のように見えた。驚いていると、隣からサレサさんが双眼鏡を貸して欲しいと手を伸ばしてくるので、私はすぐに彼女に渡してあげた。


 その間に私と光矢は、少し目が合ってしまう。光矢は、告げた。


「こんな広い荒野で迷子になるなんて……不幸な奴もいたもんだ……」


 心配になった私は、胸の前で両手を組んで告げた。


「……あの子、見た感じ……凄く小さい。子供みたいだった。今にも力尽きそうな感じで……フラフラしてた」


 心配……だった。あれだけ小さい子供が、この荒野を1人で生きていけるとは、思えなかったから。だから、自分に何かできるのなら……何とかしたい。


 それを彼に伝えようとした次の瞬間、隣に立っていた光矢が私の肩に手を置いた。彼の顔は、既に私の気持ちを分かっているような感じで、私の本音を待っているようだった。


「どうする?」


「……助けたい……です」


 すると、光矢は優しい微笑みを浮かべて告げた。


「……オーケー」


 そして、私達はすぐに双眼鏡の見えた先を目指す事になった。双眼鏡で見た時にかなり小さく映っていた事からここから歩いて目指していくと、かなり時間がかかってしまう可能性があると判断した私達は、ルリィさんに龍の姿になってもらい、彼女の背中に乗せてもらう事で子供の元へ直行した。


 すぐに歩いている子供の姿を見つけた私達は、ルリィさんに伝えて下におろしてもらった。


 私達が下へ降りたのと、ちょうど同じ頃にその子供は、地面に倒れた。慌ててすぐに駆けつけると、その子供の頭の上には、犬の耳のようなフワフワしたものが生えており、お尻の上にはモフモフした尻尾もついていた。子供は、女の子でまだ幼い。身長から察するに……6~8歳くらいだろうか?


 倒れた少女の頭を抱えて、肩を揺すりながら光矢が少女に呼び掛ける。


「……おい! 大丈夫か! おい!」


「……ん……」


 しかし、少女の意識は途切れ途切れと言った感じで、細い目を何度も閉じたり僅かに開けたりしながら私達の事をぼーっと見ていた。


 光矢が、少女の額に手をあててみる。すると彼は少し慌てた様子で近くにいる私とサレサさんの事を見て言ってきた。


「……まずい。かなり熱い。マリア……この子の体を冷やしてあげられる事は、できるか?」


「熱を出した人を治す時にやった事があります!」


「よしっ! じゃあ、首の右と左、それから両脇に両足の太ももの付け根の辺りを集中的に冷やしてくれ! サレサ、水の魔法は使えたりするか?」


「植物を育てる時に使った事がある」


「よしっ! それなら……俺の水筒の中に水を入れてくれ。その際、水にほんの少しばかり塩分を含ませろ」


「分かった……」


 光矢が、そう言い終えたのと同じ頃にルリィさんも駆けつけた。


「……どういたしました?」


「ルリィ! ……風を起こしたりはできるか?」


「え? えぇ、まぁ……」


「よし、それなら……すぐに風を起こしてやってくれ。うんと涼しいのをな!」


「わっ、分かりましたわ」


 ルリィさんは、そう言うと再び龍の姿に戻り、大きな魔法陣を空に展開する。そして、そこから涼しい風を吹かせるのだった。


 少女の事を心配そうに見ていた光矢が小さな声で告げた。


「……まだ間に合うはずだ。頼むぜ……」


 そうして、私達はこの小さな女の子を救うためにそれぞれが持っている魔法を駆使して対処に当たった。


 そして数分後、あらかた終えた私達は、光矢の指示の元、少女の近くにスタンバイする形で立っていた。ただ1人、ルリィさんだけ涼しい風を巻き起こし続けている。そんな中で、私は彼に尋ねてみた。


「……光矢。凄いですね。どうして、こんな的確な指示を……?」


「……まぁ、前の世界じゃ、夏場はよくこう言う事があったからな」


「え……?」


「俺のいた世界では、熱い季節になってくると蒸し暑さが酷くて倒れてしまう人も多いんだ。そう言った症状の事を熱中症と呼ぶんだがな。……さっきのは、教員時代のくせみたいなものだ。あの子の体を見た時にすぐ分かった。マリアの治癒の力は、傷を治したりするのには使えるが……熱中症や脱水症状みたいのには……使えるか心配だったしな。まぁ、完全に熱中症でくたばり切る前で良かった……」


 一呼吸している光矢の横からサレサさんが尊敬の眼差しを向けて告げてきた。


「……すっすごい。ムーくん、流石……」


「凄くないよ。……俺の世界じゃ、子供の頃に皆習う。それくらい、熱中症は身近で怖い病気だったんだ」


 光矢の顔は、辛そうだった。本当に……前の世界では、色々な辛い思いを経験してきたのだろう。顔を見ただけで私には、伝わってきた。


 と、そんな頃だった。私達が見ていた大きな耳のついた少女が、目を覚ましてゆっくり起き上がろうとする。少女は、まだ少しフラフラした様子だったが、辺りを見渡して困惑しているみたいだった。


「ここは……?」


 私は、そんな少女の傍に駆け寄って優しく少女の顔を見ながら告げる。


「……もう大丈夫だよ。私達がついてる。貴方、さっきまでここで倒れていたんだよ。でも、もう平気。さっ、もう少しゆっくり休んでなね」


 しかし、そう言った直後、少女は急に瞳の中に涙を浮かべだした。少女は、うるうると涙を零しながら……やがて、私と光矢の事を見て、恐怖で怯えた様子で少しだけ後ろに下がろうとしながら告げてきた。


「……いや」


「え……?」


「いや! 来ないで! 人間、怖い! いやぁ! ……殺さないで!」


「どっ、どうしたの?」


 声をかけてみても少女は、変わらず告げた。


「……来ないで! パパとママは何処……? どうして……ココは、1人ぼっち?」


 すると、この直後に大きな耳を生やした魔族の少女は、大泣きし始めた。少女の大粒の涙を見ていた私は、余計に心配な気持ちでいっぱいになった。


 この子に一体何があったのか……? どうして、1人で荒野を歩いていたのか? 色々謎だったが、しかしこの子の事を見ていると、何とかしてあげたいと思ってしまった。

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