黒の執行者‐BLACK EXECUTER‐
黒陽 光
Chapter-01『舞い戻る執行者、交錯する運命‐Guardian Angel‐』
プロローグ:運命の夜
プロローグ:運命の夜
「この
それは、雨の降る夜の出来事だった。
しとしとと細やかに降り注ぐ雨粒がそっと肩を叩く、そんな雨の夜のこと。薄暗い路地裏に踏み入った俺が出くわしたのは、奇妙な出で立ちの女の子だった。
雨に濡れた地面に、傷付いた身体を横たえている少女。短く切り揃えた、綺麗な銀色の髪は雨に濡れていて……瞼は重く閉じている。かなり小柄な体格で、その細い身体に纏っているそれは……忍者装束だった。
一見すると、少し変わった和服のようにも見える黒い装束。しかし
でもそれ以上に、俺が彼女を忍者だと直感できた理由があった。
それは――――彼女が背中に背負った、一振りの刀だ。
小さな背中に背負っているのは、刀身の真っ直ぐな日本刀。その形も
確信を持って言える。この銀髪の少女は――――忍者に間違いないのだと。
「何がなんだってんだ、この
俺は右手に持っていたピストルを懐に収めながら、倒れている少女に近づいてみる。
すぐ傍にしゃがみ込んで、首元に指を当ててみると……ひとまず生きているらしいことは分かった。真っ白い肌に触れた指先からはとくん、とくんと細い鼓動が伝わってくる。雨音に混じって、僅かだが呼吸も聞こえてきた。
「にしても、随分とやられたみたいだな……」
近くで見てみれば、少女が満身創痍なことは一目で分かった。
身体のあちこちに浅くだが傷跡が見えるし、横たわる地面には……赤い血の色が、ほんの少しだが雨溜まりに混ざっている。
どうやら忍者装束が防弾か防刃繊維かで出来ているおかげか、致命傷は負っていないようだが……傷だらけなことには変わりない。
静かにだが苦しげに呼吸が荒くなっている辺り、衰弱は相当なものか。
とはいえ、彼女は間違いなく生きている。この銀髪の少女は……傷だらけになりながらも、まだ生きているのだ。
「一体何がどうなってやがんだ、コイツは。ヘビーな状況なのには間違いないが」
でも分からないのは、この状況だ。雨の降る路地裏に、傷付き倒れている忍者の少女。改めて見ても意味の分からない状況にも程がある。
一体全体、どうしたものか。
困り果てた俺が戸惑っていると、すると少女は意識を取り戻したのか、重たそうに瞼を開けた。
「…………う、あ」
声にならない、苦しそうな声を上げながら、少女はすぐ傍に居た俺の顔を見上げる。
そうして、少女と目が合った瞬間。
「っ――――」
――――――綺麗だな、と思っていた。
ぱっちりとした瞳は、ルビーのように輝く赤い瞳。潤んでいるのは降りしきる雨のせいか、それとも痛む傷口のせいか。どうしてだかは分からないが……少なくとも、俺はそんな彼女の瞳に、どういうわけだか心奪われていた。
「………………っ、と」
そんな少女の瞳に俺が釘付けになっていると、俺の方に手を伸ばした少女が震える唇で何かを紡ごうとする。
ハッとした俺が「どうした、何があった!?」と呼びかけると、すると少女はふっと儚げな微笑を浮かべて。
「やっと……見つけた……――――っ」
そう呟いて、またがっくりと倒れてしまう。
倒れ込む少女の身体を「おおっと!?」と俺は慌てて抱えるが、しかし少女はそれきり何も言うことはなく。傷だらけの身体を俺に預けたまま……ただ、静かに肩を揺らしていた。
「お、おい! しっかりしろっ!!」
呼びかけてみても、応答はない。はらりと重力に従って垂れ下がった銀色の髪は、雨粒に濡れるだけ。どうやら再び意識を失ったらしい。
「何だってんだよ、一体……」
どうしたものかと、俺は一度そっと雨模様の夜空を見上げて。それからまた、腕の中で眠る少女に視線を落とす。
「君は……探していたのか、この俺を?」
――――それは、雨の降りしきる夜のこと。
まるで見えない糸に導かれるように、俺は――
夜の街を包むしめやかな雨が、俺の肩を……そして彼女の銀髪をそっと濡らす。まるでこれから始まる壮絶な戦いを、二人に予感させるかのように。そっと静かに……雨は、降り続いていた。
(プロローグ『運命の夜』了)
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