第61話 空に手をかけて 【エルミー Side】
【Side 純情剣聖】
あちこちから悲鳴が聞こえる。
敵味方問わず血が流れ、争う音が聞こえるその様は、まさしく戦争だった。
そんな氷海の真っ只中を、ボクと双子姉妹は魔獣を薙ぎ倒しながら駆けていた。
「もう、これじゃまるでスタンピードよ!」
「また出てきた! まったく、モグラ叩きみたいね……!」
「魔獣同士も争い合ってるから、数の負担はまだマシだね!」
「それだけが救いよ!」
つい二週間ほど前に経験したカーヘルでのスタンピードを思い出す。まあ、あれほど地獄じゃないけれど。
スタンピードは種族の違う魔獣でさえも一丸になって行進したけど、今回は魔獣同士も争っているから。
「ここに住みたいんだもの。自分以外の外敵は排除するに決まってるわ。わたしたちと同じでね」
「も~、なんで引っ越しなんてするのよ! 今まで住んでたところでいいじゃない!」
「たしか、周りの魔力を吸収して強くなれるから……とか言われてるよね」
「クリムさんから魔力が発散されてる
いわば、これは人間も参加している「縄張り争い」。
ボクたちの目的は魔獣に『ここはいいところだけど危ない』と認知させて、寄り付かなくすることだね。
だけど魔獣はいつだって、一筋縄じゃいかせてくれない。
「うわぁあああ! 出た! クラーケンだ!」
「A級の『トビザメ』だ! 避け……ああぁああっ!!」
「フォルトレスホエールも飛んできたぁ! 逃げろ、どうにもなんねぇ!」
前に戦ったクラーケンと、巨体と風魔法を操るフォルトレスホエール。
……そして、翼のようなヒレを使って高速で飛行するサメの魔獣『トビザメ』。
強力な魔獣たちが氷に空いた穴から次々と出てきて、冒険者たちを次々と襲い始めた。
「一気に来たね……! ちょっ、なんでA級の魔獣は争い合わないのさ!」
「後回しにしてるか、同格の相手には手を出さないようにしてるのかもね。あたしたちが相手しないとかな?」
先に安い方からお片付け、ってわけだ。強い魔獣って知能が高くてうんざりするよ。
「そうね、ここは手分けしましょう。相性的にエルミーがクラーケン。マリアがトビザメ、わたしがフォルトレスホエールかしら」
「それが順当だろうね」
「でも姉さん、ソロで大丈夫? A級って本来はパーティー単位で当たる目安じゃない」
魔獣につけられたランクというのは、対応するランクのパーティーで戦うことが前提だ。ソロで戦うとなるとリスクはある。
「大丈夫よ、最悪倒せなくても足止めしてれば御の字だしぃ――レイちゃんに鍛えてもらって、みんな強くなれたもの」
愛用のハルバードを肩に担いで歩いていくフレイ。
「それに。あっくんに付いていくには、これくらいソロで殺れるようにならないと……ね♪」
「「――――っ!」」
フレイのウインクしながらの言葉に、アベルと一緒にいられる嬉しさを思い出して、ボクたちの心は一気に沸き立った。
そうだ、好きな人と肩を並べるために。……アベルを一人にしないために!
「――そうだね。A級くらい、ぱぱっと倒せるようにならないと!」
「アベル君と一緒にいるためなら、なんだってできるわ! でも姉さん大丈夫? フォルトレスホエールって、あの中じゃ一番強いんじゃない?」
マリアが姉に向かってからかうように聞く。それに対して、フレイは「ふふっ」と笑った。
「任せて。わたし、みんなのお姉ちゃんだもの!」
そう言って、真っ直ぐ駆け出して行った。
「お姉ちゃんって……頼りにはしてるけどなんの関係が……」
「ま、姉さんなら元から心配してないけれど」
マリアは持っていた得物を、連結剣に換装する。
「あたしたちも、負けていられないわね?」
「そうだね。修行の成果、発揮してやる!」
アベルに追い付くために、強くなったんだから!
ボクとマリアはそれぞれ、
・ ・ ・ ・ ・
『お前はスキルを多用する節があるな。《剣聖》のスキルは強力だが負担もデカい。連発してもからっけつにならない体力は評価するが、燃費が悪いのも事実だろう』
スパルタなレイナーレが、三人まとめてボコボコにしてからボクに指摘したのはそれだった。
『無理なステップをするから足への負担も大きい。長時間戦闘は苦手だな』
スタミナ問題。ボクが抱える悩みを的確に突いてきた。
「――《
全身に強化を施す。
クラーケン……八本もある足と水魔法が厄介なA級魔獣。これまでだったらパーティーで挑んだ相手に、真っ向から懐に踏み込んだ!
『アベルが仕込んだ《回復魔法》で足へのダメージを軽減すれば、魔力の消費が増えるぞ。どうすればいいか――そうだな、攻撃スキルを減らせ』
「一撃……ッ! 《
三日月の軌跡を描く渾身の一撃をクラーケンに叩き込み――足を切断する。
普段ならここで切り返してもう一回スキルで攻撃するけど、今回はしない。
斬り抜けると同時にそのまま前方の、クラーケンの頭上に跳んだ。
『攻撃スキルを減らすことで消費する体力を温存し、余らせた魔力を回復に回す……さて、ここでさらに提案だ』
足場のない空に跳ぶなんてボクにとっては自殺行為だ。だからずっと地に足つけて駆けていた。
だけど今なら……レイナーレに教えてもらった
『お前の最大の強みは魔人とも渡り合った速度……それを、もっと強くしてみないか?』
ほんの少し勢いが落ちて、落下が始まった頃――ボクは空を踏みしめた。
「《
次の瞬間にはクラーケンの死角から突っ込み、斬撃を叩き込んでいた。
「(~~~~~!!!)」
突然の斬撃に身を震わせるクラーケンの脇を、突っ込んだ速度を生かしたまま駆け抜ける。
「隙だらけ! これならスキルでなくても!」
太いタコ足だけど剣を二回も振れば両断できる。さらに二本を断ち斬ってから、クラーケンの巨体を足場に高く宙返り。
空中に跳んだボクを《水属性魔法》で狙ってくるけれど――水の槍が貫いたところには、もういない。
「なんで斬られたのか、避けられたのかわからないでしょ……ボクに追いつけていないんだから!」
その時には既に二回空を蹴り、クラーケンの背後に回り込んでいる。
『オレの知っている速度に秀でた強者は空も足場にしていた。お前もそれをできるようになればさらに速度という武器が活きるだろう』
レイナーレに教えてもらった《無属性魔法》の《
空中に足場を生み出す魔法で、難しいけど魔力の消費が少ない。
アベルと訓練してて、強化スキルと同時に魔法を使えるようになっててよかったよ!
「聞いたこともない魔法だったけど、さすが《始祖》。年の功は凄いね!」
恐いから本人の前では言わないけどね。
空に跳んで重力で勢いを殺しながら方向転換したり。
無理のない角度で跳べるから速度を落とさないし足への負担も減った。
なにより三次元的に動くことで、相手をさらに翻弄できる!
「《剣聖》の速度で、空も舞台にした三次元戦闘……これがボクの新しい力だ!」
これならきっと。
空で戦うアベルにも、追いつけるかな――!
「《
そんな理想を抱きながら、巨大な斬撃をクラーケンに向けて放った。
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どうも、今回は短めな赤月ソラです。
~作中裏事情~
水棲の魔獣は難易度の高い水中戦が前提となるので、ランクが高く見積もられていたり。
例えば足マグロはギルドではB級として登録されていますが、陸上ならC級となる。
たま〜に陸でマラソンをするマグロは(倒せるなら)、鍋の上で走ってる具材のようなもんです。
新たな性癖です。高機動力キャラの三次元戦法突入、いいよね……!
先日、近況ノートにてサイドSS【ミリアの日記】を公開しました。
物語のサイドストーリー的なフレーバーテキスト。初めてのサポーター限定とさせて頂きます。
強く興味が湧いたら、どうぞ。
https://kakuyomu.jp/users/akatuki-9r/news/7667601419945619504
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