第60話 蒼き命脈は誇りを繋ぐ・3
【Side サレ冒険者】
龍――ドラゴン。ランク分けで言えばS級魔獣に分類される最強生物だ。
俺は何回か戦ったがドラゴン、というかS級の魔獣というのはどいつもこいつも厄介だ。
なぜなら奴らはデカい体か強力な大規模攻撃……またはその両方を持っているからだ。
「ほんとマジでふざけんなよバカが……!」
そんな奴らと戦うたびにいつも思うが、奴らは存在がおかしいと思う。それは目の前のカリナにも同様だ。
俺の眼前には、空を埋め尽くすほどの氷の槍が広がっているのだから。
「串刺しになれ、忌々しい人間!」
「そんなんで済むかッ! 規模がちげぇ――だろうがよォ!」
氷の槍が……いや、槍ってサイズじゃない。
一本一本が長さ十メートル、直径一メートルはくだらない。まるで城の柱が何十本と降ってくるよう。
絶対貫通で済まない。まともに受けたら風穴どころかペシャンコだろうが!
「逃げ場はないわ。……これで、終われ!」
空から一斉に降り注ぐ氷の柱。
確かにとんでもない数だ。逃げ場なんて皆無。
「でもなぁ、逃げ場がなくてもやりようはあるんだよ!」
こんなとき、ハズレは後ろ、アタリは前だ!
一本目の氷柱を前に踏み込むことで躱し、空に舞い上がったカリナ目掛けてひた走る!
「うざ、ってぇなぁ!」
大きさに反して、矢のような速度で迫る氷柱の狙いは乱雑だ。俺一人に狙いを絞れていないのが逆に煩わしい。
「こんなもん斬ればいいんだよ!!」
ヒードライズを点火。眼前に迫る氷柱に対して、走り出しながら叩きつける――!
「《
莫大な熱力が一気に膨れ上がる――瞬間、爆発。
斬りつけられた巨大な氷柱は付近の氷柱も巻き込んで粉々に吹き飛んだ。
「ッし、脆いなァ!? 《
前に飛ぶと同時に、ブレスレイトから風の刃を伸ばして周囲の氷柱を薙ぎ払う。
「なっ、ワタシの氷を軽々と……!?」
「数はあっても密度が無い! さして硬くもねぇんだよ!」
魔法による事象の強度は、込めた魔力の密度に比例する。この氷はスッカスカだ。
魔力制御が大したことない証拠だな。
氷の龍翼で宙を舞うカリナを目指し、風魔法で空を駆け、時には飛んでくる氷柱を踏んで、飛ぶ。
「《
「なっ……くゥ!」
「やっと同じ目線になったなァ!? ずっと見下しやがってよぉ!」
背を押す風によって加速した俺は、ヒードライズとブレスレイトを思いっきり叩きつけた。
――が、カリナはそれを生身の腕で受け止める。
《龍魔法》による人化は元のスペックからだいぶ性能が落ちる。だがドラゴンは元の硬さが半端じゃないからなぁ……人間態の生身でも、ただ斬りつけるだけじゃ斬れないほど硬いんだ。
だが……ヒードライズの燃える刃は、ほんの少しカリナの皮膚に埋まった。
「熱っつ……! 離れろ!」
「離れてもダメなんだなぁこれが!」
カリナは腕を振り回して俺を弾き飛ばすが、そんなものは何の意味もない。
数メートルの距離なんて、俺には無いも同然だからな。
「水ってのはこう使うんだよ――《
瞬時に右手のヒードライズを収納の指輪『白幻の宝物庫』に収納し、左腰の青い魔剣を抜き放つ。
同時、波打つ刀身から延びた水の刃が、彼女の胴を逆袈裟に斬り裂いた。
「これ、は……ッ! 御婆様の、力! 人間如きが!」
「くれたモンなんでね、ありがたく使わせてもらってるよ!」
「この……!」
「遅いッ!」
返す刀でもう一閃。カリナには二本の
「結構ばっさりイッたな!? 人間態なら龍ってのも案外柔らかいもんだ!」
「はぁ……!? こんなもの、薄皮一枚よ――!!!」
折角斬ったというのに、瞬時に傷が再生してしまう。龍ってのは本当に面倒くさい奴らだ……!
激昂したカリナが鳥に似た氷の翼をはためかせ、急加速して突っ込んでくる。
速い――が!
「おいおい、素手で接近戦とはいい度胸――」
「シャァアアア――――!!!」
龍の、刺すような鋭い咆哮。
それと同時に、彼女の爪から長く鋭利な爪が伸びる。
短剣ほどもありそうな、氷の爪だ。
「この手で引き裂いてやる!」
ヒステリックに叫びながら、龍の身体能力で氷の爪を振るってくる。
エルミーの《神速剣》よりかは遅いが、それが二本。あらゆる角度から襲い来る。連携も大したことないのに、あまりの速度に何本にも分裂しているようだ。
さながら乱舞。氷爪の鋭さも相まって、間合いに入ればたちまち細切れにされてしまうだろう――俺以外は。
「舐めんなよ。――ここは俺の距離だ!」
「クッ……!?」
踏ん張りの効かない空中。圧倒的な膂力の差。あらゆる条件がアウェー……。
それがどうした。
「こ、っいつ……! なんで、一回も当たらな……!」
弾き、流し、いなし、斬り返す。
俺を世界最強の剣士にしているのは、魔剣でもない、魔力でもない。
三年という死に物狂いの旅の中で磨き鍛え、練り上げた剣技だ!
カリナのどんな攻撃も無力化し、次々と反撃を繰り返す。さらに――
「《
「キャッ……!?」
当然、魔法も絡めるけどな。
カリナの背後で発生させた風の刃が背中に当たる。かすり傷にもならないが体勢は崩れ、その隙に通した斬撃はカリナの頬を斬りつけた。
――だが。
「よくも……けれど! オマエ、その剣で魔法を使ってるんでしょう!!」
顔の傷も、体中の傷も瞬時に治る。
何をやっても振り出しに戻るのにうんざりするな。しかも、俺の欠点に気付きやがった。
「よくわかったな、魔力制御が子供レベルなら及第点だ」
「いちいち癪に障る……ッ! けれど、それならッ!」
魔力が興る。
カリナから発せられた莫大な魔力は、俺との斬り合いを続けながら周囲を猛吹雪で包み込んだ。
「同時に三つ目は使えない! 腕は二本しかないでしょう! そのまま凍え死ね!」
「ちっ、たしかにこりゃキツイ……!」
考えやがったな……! 左手のブレスレイトで風の制御はできても、ヒードライズじゃなきゃ寒さはどうしようもない。
氷龍のカリナなら涼しいだろうが俺にとっては極寒だ、動きが鈍くなる。すぐに暖まりたいが――。
「持ち替える隙はやらないわよッ!」
「だよなぁ! 俺と戦う奴はみんなそうしてくるよ!」
さらに激しくなる氷爪による攻撃。
俺に魔剣を持ち替えさせないように、怒涛の攻撃を仕掛けてくる。
こうして戦術を考えてくるようになったってことは、俺のことを敵として認め始めてきているのか――。
「――僥倖!」
「は?」
「二回目の、舐めんなよ、って話だ……!」
一歩、風を踏んでふわりと踏み込んだ。
半身の構えになり、右手のグランシャリオを大きく振りかぶり――
「また御婆様の……は? それは――」
「《
カリナに叩きつけた
「かっは……! オマエ、なんで……!」
「なんて魔剣が変わってるか、か?」
なんとか空中に留まったカリナが聞いてくる。
ヒードライズの熱気で暖まりながら、俺はゆらゆらと右手に持った赤い魔剣を揺らした。
右手の指に嵌っている指輪を見せつける。
「この
「な……!」
この機能があれば、やったことはシンプルだ。
振りかぶるのと同時に剣を俺の体で隠し、その間にグランシャリオを仕舞ってヒードライズを手の中に出現させた。
白幻の宝物庫があれば、剣を持ち替える隙は無い。
「文明の利器ってやつさ。お前がバカにしている、人間のな」
《
「――この指輪、クリム婆は凄い凄いって言ってたよ。生活にも便利で、戦いにも役立つ」
「……ッ!」
「お前は人間なんて眼中にもないかもしれないけどさ。クリム婆の興味に少しでも目を向けていれば……」
「うる、さい……うるさいうるさいうるさい!」
だが、カリナは耳を塞いで聞いてくれない。
「御婆様のようになるためなら! そんなことしている暇なんて無かったのよ!!!」
叫びと共に、カリナは再び猛烈な速度で突撃してくる。
「……ったく」
悔しかっただけだろう。
大好きな自慢の祖母が、自分が興味のないものを面白がっていたもんだから。
へそを曲げて、趣味に誘われてもそっぽ向いたんだろう、カリナは。
想像がつく。似たようなことを子供の頃に元・婚約者もしていたぞ?
「ガキだよな、そういう感性は」
怒り任せの突撃なんて宝物庫を解禁した俺には通じない。
カリナの爪による攻撃を蒼氷剣で受け流し、業炎剣で爆破し、穿風剣で絡めとり、三色の魔剣で波状斬撃を繰り出す。
「なっ、くっ、あが……ッ!?」
斬りつける直前まで持っていた魔剣とは違う剣による攻撃で意表を突く。
出納を繰り返し、攻撃した右手に持っていた剣を左手に持ち直し、また斬りつける。
一手ずつ変わる変幻自在の攻め手の多さに、カリナは追い詰められていく。
「くっ、このォ!」
「だからこそ――そのままじゃ、クリム婆みたいになんてなれるかよ!」
「ッ! 死ね!」
俺が大上段に振りかぶった瞬間を突いて、カリナは爪を向けてくる。
その攻撃を
「がっ……ぁぁあああ、っぐう……!」
その斬撃によって、ずっと空を飛んでいた氷龍はようやく地面に撃墜させられた。
「自分が、傷つきながら――!?」
「ちょっと怪我するだけでドラゴンを斬れるなら、安いもんだろ」
凍った海に着地し、《回復魔法》で左肩を治しながら言い返す。
無属性の《回復魔法》はエネルギーを使うから乱用はできないが、十分おつりがくるさ。
俺は殺気と共に、剣を突き付ける。
「来いよクソガキ。叩き直してやる」
「クゥ……! オマエが、死ね!」
怒らせろ怒らせろ、そして完全に屈服させろ。
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ブーメラン×2がぶっ刺さってるぞアベル君。
どうも、宣伝の赤月ソラです。
近況ノートにSS【ミリアの日記】を公開しました。
物語のサイドストーリー的フレーバーテキストとして書きました。
初めてのサポーター限定とさせて頂きます。
ギフトをくださった方に少しでも還元できれば……!
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