第十六話 誓いの輝剣:2
「強くなったお姉さんをよぉ〜く見ててね、アベル君!」
盾を利き腕の右手に、左手には短めの杖を持つ珍しい組み合わせ。
エルミーとフレイ、二人がスキルをメインに立ち回るタイプなら、マリアは魔法を軸に戦うタイプだ。
「《
マリアが掲げた杖の先端から空に向かって雷撃が放たれる。
一拍おいて、天からの雷撃は血に飢えた魔獣に降り注いだ。
「「「グギャウッッッ!!!」」」
速度の速い雷の広範囲攻撃魔法は、俊敏なブラッドウルフでも外さない。
だがオオカミというのは群れで連携をとる獣だ。それから派生した魔獣であるブラッドウルフも言わずもがな。
攻撃を受けた仲間を囮にして、魔法を撃った直後のマリアに飛びかかった個体がいるが――
「《インパクトバッシュ》! と、《カウンターバースト》!!」
右手に持った、マリアの体の大半を隠すほどの盾での
「うわー……盾からの衝撃波に、衝撃反射のスキルだっけ? 面白いくらい飛んだなー」
「かなりシビアみたいよ〜? タイミング外すと《インパクトバッシュ》だけで吹っ飛んじゃうし、《カウンターバースト》は相手の芯を捉えないといけないから、難しいんだって。
近づいてくるブラッドウルフを薙ぎ払いながらフレイが教えてくれた。
そんな高等技術ができるからこそ、マリアもAランクってことだろう。
エルミーとフレイの強襲によって散り散りになったブラッドウルフの群れ。
依然として俺たちに襲いかかってくるが、奴らは四方八方に散っている。
そんな奴らをマリアは取りこぼしのないように魔法で仕留めていく。
マリアのジョブは《魔戦士》。
スキルによる武器の攻撃と魔法を高い水準で両立した強いジョブだ。
どちらも強くなければ中途半端になるジョブだけど、両方それなりに強くなれば近中遠距離の隙がない。
そして鍛え上げた《魔戦士》は、スキルに魔法を両立し始める。
「まだまだ、こんなものじゃないよ〜!《バスターソウル・ボルト》!」
女性的な魅力の溢れるマリアの体を、雷が迸る黄色い魔力が覆っていく。
魔力を纏った彼女は、襲いかかる魔獣を手にした盾で軽々と殴り飛ばしていった。
「身体強化系のスキルか、魔法の属性も載ってるな。打撃の瞬間に雷が弾けてる」
俺もヘッドロックしたブラッドウルフの頭を締め潰し、飛びかかってきた奴を殴り飛ばす。
魔法でスキルをさらに強化する。これが《魔戦士》の強さだ。
そのとき、マリアが装備していた盾と杖を、自身が持っていた
魔法の威力を増幅する杖を仕舞い込み、そうして取り出したのは。
「えっ、なにあれ?」
一本の剣だった。
だけど普通の剣じゃない。いくつかの刃が連なったかのような、肉厚な剣だった。
「あれ? アベル君は知らないんだっけ。あたしの新しいスタイルだよ〜!」
つい呟いた言葉にマリアが手を振りながら答えた。
まあ、戦ってるのは格下の群れだからいいけど……気をつけて欲しい。
それはそうと、マリアが新しく取り出した剣を振るうと――ジャラリ。
「折れた? いや、分離し……伸びた!? なにあれ凄い!」
なにあれ凄い!
あとで貸してもらえないかな。
思わずそっちに目を取られていると、オオカミを斬殺してきたエルミーが隣に立っていた。
「連結剣って言うらしいよ。何個かの刃をワイヤーで繋げて、伸びて鞭みたいに使える剣なんだって」
「へえぇ〜……でもソレってまともに切れないんじゃ?」
突き刺すくらいはできるだろうけど、刃が全体を覆ってるわけじゃないから斬ることはできないだろう。
そう思って見ていると……彼女の体を覆っていた魔力が、剣を伝い始めた!
「そうか、スキルで刃を作ったり操ってるのか」
「ドワーフの集落に行った時に作ってもらったの! あたしが使う前提の専用武器だよ!」
ジャラジャラと刃のパーツがワイヤー伝いに分離していき、伸び――延びる。
まるで蛇のようにうねり、マリアが振るえば連結剣は火花を散らして目にも止まらない速度でブラッドウルフを斬り刻む。
鞭の先端は音速を超えるというが、それに近い剣でスキルの強化込みであれば――
「三人とも跳んで! 一掃するから! 《
雷速、一閃。
跳躍した俺たちの下を薙いだ長く長く延びた剣身は、まばらに残ったブラッドウルフを真っ二つにしたのだった。
これが、若くしてAランクに登り詰めたパーティー『誓いの輝剣』。
必殺の剣でもあるエルミーが崩して隙を作って、一点の突破力に優れるパワーを持つフレイがブチ抜く。
遠近万能なマリアが後詰め、サポートとなる。
時には盾を使うマリアが前に出て、総合的な火力の高さで押し潰す。
強くなって、彼女たちの強さを理解すると同時に、あの頃からさらに強くなっているのがわかって、なんとなく嬉しくなった。
「ふぅー、終わったね。何匹いたかわかる?」
「だいたい七十頭くらいじゃないか? 普通の群れ八個分ぐらいだな」
「Aランクじゃないと厳しいわね。依頼を受けたのがわたし達でよかったわ、ギルドに伝えておかないと」
「結果オーライだったね、アベルもいてくれたし。さ、片付けよっか」
倒したブラッドウルフの死体を解体、売り払う素材を集めないと。
辺り一面血塗れだ。こういうときは臭い消しの粉を撒きながら血の匂いに釣られる魔獣が来ないように処理をしないといけない。
三人がブラッドウルフを解体しながら素材を集める横で、右腰のブレスレイトに手をかけて風を集中させて空中を踏む《
「わっ、凄い! アベル君、それ風の魔法でしょ? 見たこと無いけどオリジナル!?」
「ああ、まあな。結構上手くできてると思うんだけど、マリアから見てどうだ?」
「あたしよりできてると思うよ! やっぱりアベル君は魔力の操作が凄いね!」
そのちょっと見せた魔法に、輝剣で唯一魔法メインのマリアが食いついた。
魔法を使う人は魔法の知識に貪欲だからな。
スキルはその行使にジョブと鍛錬が必要だが、魔法は学問、研究に近い。
魔法は魔力について学び、訓練と実践で磨く。
そうすれば《身体強化》などの無属性魔法や基本四属性の火、水、風、土属性なら誰でも使えるようになる。
それ以外の特殊な属性や魔法、例えばマリアが使ってる雷属性なら、《雷属性魔法》のような、ジョブに関係なく持ってることがある魔法系のスキルが必要だけどな。
ちなみに魔法系スキルは、その属性魔法の威力や燃費も良くなる効果がある。
魔法というのは、基本はジョブに関係なく強くなれる。それなら、俺のようにジョブが弱い人は魔法を磨けばいい――と思うだろう。
が、ここでも天からの贈り物……才能という壁が邪魔をする。
まず大前提として、魔法を使うためには求められる三つの能力がある。
一つ目は“魔力量“。
まず変換する魔力をその人が持ってないと話にならない。多いほど強い魔法をたくさん使える。
二つ目は“魔力操作力“。
これは上手に魔力を操る力。難しい魔法を楽に使えたり、魔法の精密性や効果・威力が上がる。
そして三つ目は“魔力出力“だ。
変換した魔法をどれだけ強く体外に出せるか、という力。
これが優れているほど、強い魔法をそのまま発動し発射できる。
これらを纏めて、魔法力と呼ばれるものだ。
「マリアって魔法力はどれも平均超えだったんだっけ」
「そうだよ~。今は昔よりもっと強くなってるけど」
「あんなにバランスがよくて理想的だったのに、さらに伸びたのか」
「アベル君はあたしより凄かったじゃない! 魔力量と魔力操作力は昔から化け物クラスでしょー?」
「でも魔力出力がなけりゃ、その二つがあっても意味がないじゃないか」
マリアは魔力量、魔力操作力、魔力出力どれも高いバランスタイプだ。
たくさんの魔法を扱えて、強い魔法をバンバン撃ててる。
魔法使いの一種の理想だな。強くて継戦力もある。
それに対して極端な奴もいたりする。――俺だ。
俺は子供の頃から、魔力量と魔力操作力はAランク冒険者の魔法使いを超えていた。
その二つだけなら《賢者》であるミリアよりも上だったくらいだ。
だけど魔力出力がない。少ないとかじゃない、もうゼロだ、ゼロ。
《身体強化》とかの自分の体の中だけで完結する魔法しか使えず、敵を攻撃する魔法が使えないってことだ。
おかげで余りある魔力量も、無駄に器用な魔力操作力もあまり意味がなかった。
ジョブにも恵まれず、魔法もまともに使えない。あのときは力がなくて絶望したっけなぁ……。
じゃあなぜ今は魔法を使えているのかというと。
「でも今はそれを魔剣で補ってるから、魔法を使えてるってことだよね?」
「そうだな。魔剣を出力の触媒にすれば、俺でも体外に魔法の事象を出せるから。剣技と組み合わせて上手いことやってるよ」
「魔剣をそんな風に使うのって初めて聞いたよ……普通は魔力を流して、あとは魔剣の力に任せる感じだもの」
「でもこうしないと魔法なんて使えなかったしな、それに強い」
俺の使う技は魔法と剣技を組み合わせた――『魔剣術』とでも言うべき技だ。
それぞれの属性を操る魔剣の力と俺の魔力量を合わせ、Sランクに至るほどの技になった。
まあ魔剣がないと魔剣技が使えなくなるから、ただ《身体強化》と回復力が強いだけの《剣士》になるのが辛いところだ。
「気が遠くなるほど難しいし、燃費悪いんだよ、それ。魔力と魔力操作力がどれだけ必要だと――」
「ちょっと二人共ー! 二人の世界に入ってないで片付けしてよ!」
いつの間にかマリアと二人で魔法談義をしていると、エルミーが怒鳴りつけてきた。
「あー、ごめん。すぐにやるよ」
「二人で盛り上がってるからって怒らないでよ〜」
「ちょっ、そういうのじゃなくて! ボクは一般論として!」
エルミーが顔を赤くして何かを言おうとしたときだった。
特に血が溜まっていたところの地面が爆ぜるように吹き飛んだ。
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