旅方方方旅

くらげマテリアル

月海山


私は、とある温泉街に旅行にきていた。

今は9月で、別段旅行シーズンでもないのと、少しさびれた街で活気もないので人はかなり少なかった。


私としては久しぶりの旅行だったのがうれしくて、浮かれて下駄なんて買ってしまった。

「温泉街を歩くなら下駄じゃないとな」なんて思って買ったが、歩きにくいし、ただただ石畳を鳴らす音がひびくだけだった。


温泉に浸かった後、夕食前までにお腹をすかせておこうと思って温泉街を散歩していた。石畳をカタカタならしながら歩く。本当に人がいなくて、まるでゴーストタウンのようだった。風にゆられる木々の音と私の下駄の音しか聞こえないのがなんとも不気味だった。


私が歩いているところは坂になっていて、両端に古びた木製の家が立ちならんでいる。

坂の上までのぼれば、風にあたりながら美しい景色がみられるんじゃないかと思ってとにかく坂をのぼっていた。


上の方までのぼりきると、山への入口になっていた。展望台のようなものもなく、景白もそんなに良くはなかったので損した気分になった。


山なんて虫も多いし疲れるし、入ろうなんていつもなら絶対に思わない。

でも、その時は何故か少し入ってみようなんて思って、吸いこまれるようにフラフラと山に入ってしまった。


看板には、「月海山」とかかれていたが、それ以外の情報は一切なかった。

その上、道も整備されていなかった。

私はすぐにひき返そうと思ったけど、遠くの方で水の流れる音が聞こえて、それが妙に気になってその音がきこえる方へ歩きだした。


下駄を履いていることすら忘れていた。だから登り始めてからは、なんで登ろうなんて思ったのだろうと毎秒自分を責めずにはいられなかった。


数分、足の痛みに耐えながら歩くと、その音を発していた川に辿り着いた。その川はかなり大きくて、ゴツゴツと生えた岩に綺麗ですき通った水が流れていた。

気づけば夕方になっていたので、川は夕日に照らされてテラテラとかがやいていた。

その景白が美しく、いつまででも見ていられそうだったので、近くの大きめの石に腰をかけて、川の流れる音をききながらずっと眺めていた。眺めていて気づいたのは、この川は泡が多いということ。なんでかは分からないけど、一粒一粒がきれいな形をした泡が流れてきていた。


そんな感じで長い間川をながめていると、私の心まで流されていってしまいそうな感覚になった。それがここちよくて、気づけばねむっていた。


目が覚めると、辺りは真っ暗で、目が覚めたか分からないくらいだった。有一の手がかりは川の流れる音がまだ聞こえていることだった。


どうやって帰ろうかと悩んでいる時、川に流れている泡が光っていることに気づいた。さっきまでは明るかったので、元々光っていたのかもしれないが、とにかく光っていた。

それがとても不思議で、少し触ってみようとして近づいた。


すると、その泡がぽこぽこと宙に浮かびはじめた。宙に浮かんだ泡からは足が生えてきて、次々とクラゲに変わっていった。


その光景は、冥界に来てしまったのではないかと錯覚するほどだった。こんなものが見られたならもう未練なんてない。そんなことを思いながら川の中に入っていった。

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