青春ミステリィ・ゾーン
コーシロー
第1話 異界の教室
プロローグ
夏休みが明けた9月の始まり。朝の光が校舎に差し込み、生徒たちの元気な声が響く。新しい学期の始まりだ。教室では友達と久しぶりの再会を喜ぶ声や、夏休みの思い出を語り合う声が飛び交っていた。
高橋一郎(たかはし いちろう)は、普通の高校二年生だった。友達と談笑し、授業を受け、部活に励む。特別目立つわけでもなく、目立たないわけでもない。そんな彼の日常が、ある日突然変わり始めた。
第一章 - 始まりの違和感
9月の最初の月曜日。一郎はいつものように教室に入り、友達の佐藤(さとう)と話していた。「昨日のドラマ見た?」と佐藤が聞いてきたが、一郎の目は教室の後ろの席に向かっていた。
「あれ、ここ誰の席だったっけ?」一郎はつぶやいた。
「ん?ああ、そこ?知らないな。もともと空席だったんじゃないか?」佐藤は気に留める様子もなく答えた。
でも一郎は違和感を感じた。確か、ここには誰か座っていたはずだ。しかし、クラスメートの誰もがそのことを気にしていないようだった。先生に聞いても、「最初からその席は空いていた」と言われるだけだった。
授業が始まり、一郎はなんとか気を取り直そうとしたが、その違和感は一日中頭から離れなかった。放課後、部活の時間になってもその思いは消えず、ついには帰り道でもそのことを考え続けていた。
「何かおかしい。絶対におかしい。」一郎は自分自身に言い聞かせるように呟いた。
第二章 - 消えるクラスメート
その日以来、一郎は違和感を抱えたまま過ごしていた。しかし、それは始まりに過ぎなかった。数日後、また別のクラスメートが消えた。その席もまた空席になり、誰もその存在を覚えていない。
「おかしいよな。絶対、誰か座ってたのに。」一郎はそう思いながらも、自分の記憶が間違っているのかと不安になり始めた。
一郎は同じクラスの友達に確認してみたが、誰もその席に誰が座っていたのか覚えていなかった。まるで、その生徒が最初から存在していなかったかのように。
「ねえ、佐藤。ここって、もともと誰が座ってたか覚えてる?」一郎は再び佐藤に尋ねた。
「いや、最初から空席だった気がするけどなぁ。」佐藤は首をかしげた。
しかし、一郎はどうしても納得がいかなかった。その日もまた、一郎は家に帰るまでそのことを考え続けた。
第三章 - 知られざる記憶
一郎は決心した。この不可解な現象の真相を突き止めるために。まず、彼はクラスの出席簿を調べることにした。しかし、そこには消えたクラスメートの名前は一切記されていなかった。まるで最初から存在していなかったかのように。
「これはどういうことなんだ?」一郎は自問自答し続けた。
その日、一郎は校庭で見知らぬ女生徒と出会った。彼女は黒髪で、小さな眼鏡をかけていた。「君も気づいているの?」その女生徒が突然話しかけてきた。
「君は...?」一郎は驚いた。
「私も同じクラスの生徒が消えていることに気づいているの。私の名前は田中(たなか)美咲(みさき)。一緒にこの謎を解明しよう。」美咲の言葉に、一郎は心強さを感じた。
「でも、どうやって解明するの?先生も誰も気づいていないみたいだし...」一郎は不安そうに言った。
「私たちで調べるしかないわ。」美咲は真剣な表情で答えた。「まずは、学校の過去の記録を調べてみましょう。」
第四章 - 二人の調査
一郎と美咲は、放課後に図書館で調査を始めた。学校の過去の記録や新聞記事を調べ、何か手がかりを見つけようとした。すると、一つの古い記事が目に留まった。
「この学校で、過去にも同じような現象があったみたいだ。」一郎が言った。
「1980年代に、同じように生徒が突然消え、その後誰もその存在を覚えていなかったと。」美咲は記事を読み上げた。
その記事には、当時の校長が「異界の教室」という言葉を使っていたことが記されていた。どうやら、この現象は一度きりではなく、周期的に起こっているようだった。
「異界の教室って、いったい何なの?」一郎は疑問を抱いた。
「それを解明するために、もっと調査が必要ね。」美咲は決意を新たにした。
第五章 - 教室の謎
二人は、さらに深く調査を進めることにした。美咲が「異界の教室」という言葉に引っかかり、古い教室の一つが鍵を握っているのではないかと考えた。その教室は現在使われていない旧校舎にあるという。
「今夜、旧校舎に行ってみよう。」一郎は提案した。
「怖いけど...一緒なら。」美咲は頷いた。
夜、二人は学校に忍び込み、旧校舎の教室を探した。薄暗い廊下を進み、ついに目的の教室にたどり着いた。扉を開けると、そこには古い机と椅子が並んでいた。
「ここが...?」美咲が呟いた。
突然、教室の中央に立っていた黒板が異様に光り始めた。二人は驚いて後ずさった。
「これって、もしかして...」一郎が言いかけたその時、黒板の光の中から一人の生徒が現れた。
「君は...!」一郎が叫んだ。
第六章 - 異界の存在
現れたのは、消えたクラスメートの一人だった。彼の名前は山田(やまだ)健太(けんた)だった。「君は...!」一郎が叫んだ。
「僕は...ここに引きずり込まれたんだ。」健太は苦しそうに話し始めた。「ここは異界で、僕たちはここで囚われているんだ。」
「どうやってここから出られるの?」美咲が尋ねた。
「方法は一つ、全てのクラスメートを見つけて、元の世界に戻るための扉を開けること。」健太はそう言い残し、再び光の中に消えていった。
二人は、健太の言葉に従い、消えたクラスメートを見つけるために異界を探索し始めた。異界の教室には、不気味な雰囲気が漂っていた。教室の壁には奇妙な文字が刻まれており、窓の外には現実の世界とは異なる風景が広がっていた。
「ここが異界の教室...?」一郎は呟いた。
「きっと、ここには他のクラスメートも囚われているはず。」美咲は決意を込めて言った。
第七章 - クラスメートの救出
一郎と美咲は、次々と異界に囚われたクラスメートを救出するために動き始めた。異界の教室には、過去に消えた生徒たちも存在していた。彼らと協力しながら、二人は一つずつ異界の謎を解いていった。
まず、二人は教室内をくまなく探した。健太以外にも、数名のクラスメートが見つかった。彼らは全員、異界の中で囚われていたが、救出されると元の教室に戻ることができた。
「ありがとう、君たちのおかげで元の世界に戻れたよ。」救出された生徒たちは、感謝の言葉を述べた。
しかし、異界の教室にはまだ多くの謎が残されていた。二人は更なる調査を続けた。ある日、美咲が古い日記を見つけた。それは、1980年代にこの学校に通っていた生徒のものだった。
「ここに、何か手がかりがあるかもしれない。」美咲は日記を開いた。
日記には、当時の生徒たちが異界の教室について書き残していたことが記されていた。異界の教室に入る方法や、そこから抜け出すための鍵についても書かれていた。
「この日記があれば、全てのクラスメートを救出できるかもしれない。」一郎は希望を感じた。
第八章 - 教室の謎の核心
日記には、異界の教室に囚われた生徒たちが協力し合い、元の世界に戻るための方法が詳しく記されていた。二人はその指示に従い、次々とクラスメートを救出していった。
「ここに書いてある通りにすれば、きっと元の世界に戻れるはず。」美咲は言った。
一郎と美咲は、他のクラスメートたちと協力し、異界の教室の謎を一つずつ解いていった。異界の教室には数々の試練が待ち受けていたが、二人は力を合わせてそれらを乗り越えていった。
そして、最後のクラスメートを救い出したとき、異界の教室の扉が大きく開いた。その先には、元の教室が広がっていた。
第九章 - 戻りし日常
全員が元の世界に戻り、教室は再び賑やかになった。しかし、誰もが異界での出来事を覚えていなかった。唯一、一郎と美咲だけがその記憶を持ち続けていた。
「私たち、本当に戻れたんだね。」美咲が微笑んだ。
「うん、でもまた同じことが起こらないように、気をつけなきゃ。」一郎は頷いた。
それから数年後、一郎と美咲は大学生となり、それぞれの道を歩んでいた。しかし、二人は時折、あの異界の教室のことを思い出し、再び起こることのないようにと願っていた。
普通の日常が戻った教室。しかし、その裏には、知られざる異界の存在が隠されていた。人々が忘れた記憶の中で、今も異界の教室は静かに息づいているのかもしれない。
エピローグ
それから数年が経った。一郎と美咲は大学でそれぞれの道を進んでいたが、彼らは時折、あの日々のことを思い出していた。大学のキャンパスで再会することもあり、二人はその度に微笑み合った。
「元気にしてた?」美咲が一郎に声をかける。
「うん、君は?」一郎は笑顔で応える。
「私も元気よ。あの時のこと、忘れないようにしようね。」美咲はそう言って、一郎の手を握った。
「もちろん。あれがあったから、今の僕たちがあるんだし。」一郎も握り返した。
二人はこれからも、異界の教室での経験を胸に、それぞれの人生を歩んでいくのだった。日常が戻った教室。しかし、その裏には、いつか再び異界の扉が開かれるかもしれないという不安が潜んでいる。だが、二人はその時が来ても、きっとまた立ち向かうことができるだろう。
第1話・完
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