没原稿(書きかけ)『男女の友情を許さないのは当事者じゃなくて外部の目だろ』
【プロット】
男女の友情だけを描く。
優吾と彩はお互いに気を許せる関係だが恋愛には相手を結びつけていない。同性の友人のようにいたいだけなのに変な噂を立てられたり変な目で見られたり小言ばかり言われる彼と彼女は、世間の目から逃れたくて仕方ない。彩も優吾も曲者で、日常を描きながらその人物像を解体する。
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【本文】
「昼飯食いに行こーぜ」
「分かった」
気前のいい彩の誘いに二つ返事で乗っかり、彼女の提案から駅前の新しく出来たヴィーガン向けハンバーガーショップへ足を運ぶ。
「お前何注文する?」
「そうだな……。☆(スパイシー系のハンバーガー)かな」
「うわ美味そう。えー、私何にするかな」
彩が楽しそうにメニュー看板を睨みつける。そんなに選択肢あるか? 飯を食いに行くと毎度こうだ。即決で選ぶ俺と対照的に優柔不断な彩。知り合って間もない頃は律儀に彼女の選択を待ってあげていたが、彼女の人となりが知れた今ではそのような気遣いをするだけ無駄だと理解をしたので先に列に並ぶ。
待ってるから。と声を掛けると、ぉいすー。と彼女は空返事をした。
それから彩が俺の待つ席へ来るまで、調理時間を含めて四分ほどの時間が経過した。今カノとのメッセージを閉じて目の前の彩と手付かずのハンバーガーに向き直る。
「お待たせ」
「何にしたんだ?」
「☆」
「無難なやつにしたのか」
よっこらせ、とジジ臭い発言をしながら腰を落ち着けた彩が俺のプレートを指差して当たり前のように口にする。
「祐悟のやつと半分こしよ」
「嫌だ」
すげなく断ると彩はテーブルに突っ伏した。リアクションが騒がしい。取り付く島があると思われたくはないのでそそくさとハンバーガーに口を付ける。諦めたように彩は姿勢を正すと「いただきます」と律儀に手を合わせてから食事を始めた。
「美味い」
「美味いな」
「辛い?」
「そこまでは。癖のある香辛料が効いてる印象かな、想像してた味ではない」
「わぁ〜。無難なやつにしてよかった」
「失礼なやつだな。不味くはないよこれも」
「リピ有りですねこの店」
「……俺的には物足りないけどな」
大豆ミートでできたパテは本物の挽肉でできたパテよりも深みがなく口当たりは優しい代わりに口内で広がる肉の香ばしさがない。香辛料の刺激で誤魔化しが効いているが、店の看板商品はきっと俺の口には合わないだろう。彩が来てみたいというので付き添ったが、俺のなかでこの店に二度目はない。
「やば。リップ移る。マスクあるからいっか」
彩の口は小さいが、豪快な食い気をしているのでしばしば口の端が汚れやすい。小指を拭いながら化粧崩れを気にする反応を見せるが、彼女の言葉は基本的に自己完結をするので普段から俺は聞き流すようにしていた。
もそもそと食事を済ませ、季節限定のストロベリーシェイクを飲む。
「美味い?」
「美味い。お前は? 何にしたんだ?」
「生クリームたっぷりカフェモカ」
やはり、無難だ。毎度ながら。彩はメニュー選びに悩むが、最終的に安牌な選択肢を取ることが多い。元が偏食なところがあるので、味の想像が付く料理でないとお残しすることが怖くてなかなか挑戦出来ないのだと聞いた覚えがある。
対照的に俺はなんでも食べる性格だ。良い意味でも悪い意味でもこだわりが強い彩に対して、俺は好きも嫌いも等しく消化する。結果として、こういった場では俺のほうが珍しいものを口にする機会が多い。毒味のつもりでも被験体のつもりでもないが、俺が食べたものは彼女のなかで選びやすい択となるようだった。
とはいえ、だからと言って口に付けるものを率先してシェアする思考はなく、俺の挑戦も彼女のためというよりかこだわり持ちの彼女に対するマウンティングとして機能していたりする。物珍しさは話の種となるのに、安牌な択に逃げる彩を軽視していた。
「もう食べ終わってる。はっや」
「腹減ってたから。別にゆっくり食べてていいよ」
「じゃあ面白い話してよ。優吾の漫談が聴きたい」
「俺がそんな器用に思えるか?」
呆れたように頭を振って話を止めにする。その振りに答えるのは無理がある。
退屈しのぎに彩は脈略もなく俺に問いかける。
「そういえば最近カノジョとは上手くいってる?」
「いや、喧嘩中。別れようかなと思ってる」
「あらま」
彩が意外そうな顔をする。続けざまに「そりゃまたどうして?」と質問を投げかけてくるが、俺は沈黙を返答とした。
その沈黙を汲んだ彩が、空いた隙間に言葉を埋める。
「誰とでも上手く付き合えそうなのにね」
「束縛が面倒くさい」
「なるほどね」
狙いすましたかのようにスマホが震動する。通知の相手は、返事を返さない俺に業を煮やした今カノからだ。
「ほら」
「……なるほど」
頷いた彩が苦笑する。
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