三十路のギルド嬢は、異世界転生してきたメスガキを粛清したい!

米太郎

第1話 ギルドにやってきたのは、メスガキだった。

「デコトラを愛でる人の気持ちはわからないですが、自分で作ったプラモデルを塗装して、改造して、よりリアルに近づけたりする行為はわかります。それをしたいという気持ちも、それにかける情熱も私は持っています」


 昼下がりのギルドに、いきなりやってきた女性がそんなことを言い出した。

 堂々とした態度で背筋を伸ばして、真っすぐに私のことを見てくるが、見た目はまだ子供。背丈は小さめだし顔も幼いし、多分未成年なんじゃないかな?

 派手な服を着ているところからしても、大人の女性というよりは、女の子と言う方がしっくりくる子だった。



「ゴーレムというものを組み立てるために、素材を集めるクエストを受注したいんです」


 子供らしい可愛い声でしゃべる女の子。

 瞳をルンルンと輝かせて、肌もつやつやに輝かせて。私が失いつつある若さというものを見せびらかしてくるような気さえしてくる。

 いつもは、中級者ハンターのおじさんばかり相手しているから、相対的に若く見られがちだけれども。こんな初々しい子と一緒の画角に入ってしまうと、私がおばさんだと言われているみたいに感じるわね。

 私だって、まだまだ若い二十台なんだぞ……?


 まぁ、誰にでも若い時代はあるわけだからね。淑女として対応してあげますわ。



「お嬢ちゃん、もしかしてギルドが初めてだったりするのかな?」

「当たり前じゃないですか。見てわからないんですか? 私、見るからに若いですよね?」


 プチプチと音を立てて、何かが切れそう……。

 近くにスライムが転がっていたら、ひっ捕まえて、じり切って殺していたところだわ。

 可愛い声で罵りやがって。小娘。


 けど、ここで目くじらを立てていたら、私自身をおばさんと認めたことと同義。こんな小娘に腹を立てたおばさんだなんて思われることは、絶対に避けたい。

 周りを見ると、静かなギルド内にはいつも見るようなハンターが見える。常連の中級者ハンターさんだって何人か見ている。よくよく考えれば、裏に行けばマスターだっているし。慎重に対応しないと。

 こんな時は、大人らしい対応をして、大人の女性の品格というものを見せてあげるのが良さそうね。


「初めてだとしたら、まずはハンターライセンス登録からしなくちゃいけないんだよ? ここにある登録用紙に、名前と連絡先とどんなクエスト情報が欲しいかを書いてくれるかな?」

「はい。わかりました。私の名前は、リナって言います」


 眩しい笑顔を浮かべるリナ。

 その場に立ったまま手を動かさないで、私の方をニコニコと見てくる。私もその笑顔に応えるように、営業スマイルを顔に張り付ける。そして、しばらくの間、目を合わせていた。

 リナは一向に登録用紙に書こうとはしないようだった。なぜだかずっと私を見つめている。私、登録用紙に名前を書いてって言ったと思うんだけども?……この子は話を聞いていないの?


「えーっと……、この用紙に名前と連絡先を書いてね?」

「だから、私はリナ! 住んでるところは無いの。気付いたらこの街にいたし。連絡先も無し。あなた、ベテランそうな見た目していると思ったんだけど、無能なの? そういう時の対処わかるでしょ?」


「……えっと、そうなんだね? 大変だねー……」


 なんで私が責められる立場なんだ……? これだから、若い子は嫌なのよね……。

 人の話を聞かないし、すぐに人に責任転嫁してくるし……。

 こういう子は、ちょっと懲らしめてやらないと、いけないわね。大人として。ここで甘やかせたら、図に乗るでしょうし。

 このまま、迷惑系ハンターになってしまったら、ハンター協会として未来の損失を抱えることになるわ。


 私もギルドに所属するものの端くれ。こういう子は、厳しく粛清してあげなくちゃね!



「お嬢ちゃん、ギルドっていうのは子供の遊び場じゃないの。家へ帰って!!」



 私がそう言うと、ふてぶてしい態度をしていたリナは、口を開けて黙ってしまった。

 ふふふ……。私だって、可愛く見えても、言う時は言うんだよ? 若いメスガキは、さっさと帰れ!



「おばちゃん。セリフ古いし」

「え……、おば……、ちゃん……?セリフ……、ふるい……?」


「今時、どこの世界でも、そんな啖呵切る人いないですよ? そもそも、そのセリフってハラスメントですし。今の言葉を聞いた証人の方も何人かいますし、後でハンター協会に訴えておきますね」


 ニコニコとした顔に戻るリナ。その顔とは正反対に、私は引きつった顔をしているだろう。



 のどかな昼下がりのギルド。

 先ほどまでは、そうだった場所。


 何も変わらないように見えるけれども、変わったことがある。


 私の顔に一つ、深いほうれい線が刻まれたことだ。

 リナに対して、無理に営業スマイルを浮かべたせいだろう。目一杯力を入れないとスマイルができなかった。私の面の皮が厚かったとしたら、ベコッと音を立てて深いほうれい線が刻まれたことだろう。


「あなた、リナっていうのね、しっかり覚えたわよ? お望み通り、名前書いておくね……」


 このメスガキ……。

 絶対に。ぶち殺……。


 おっと……、脳内でも言葉に気を付けなくてはいけないわ。

 淑女として、心を乱してしまってはダメよ……。


 この、リナという子。

 私のギルド人生を全て懸けてでも、徹底的に粛清して差し上げますわ。

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