ある鳥の、幸せになる権利

灯トモル

ある鳥の、幸せになる権利

「ちょっと神様、聞いてください」

 一羽の鳥が山の上にある神社の社殿に向かって問いかけた。


「人間たちが、誰だって幸せになる権利を持っているんだって話していましたけど、それって本当ですか。だって幸せじゃない人間もいるじゃないですか」


 鳥は、片方の翼を振り上げ、あきれたというポーズをとって見せる。


「本当にそうならみんな幸せになってますよね。やっぱり違いますよね」


 鳥は名探偵風に翼を顎に当てて境内をトコトコと歩き回っていたが、しばらくして、ポンと手を叩くように両の翼を合わせた。


「もしかして権利に違いでもあるのですか。生まれたらすぐに使えるものとか、苦労の末に使えるものとか、ある年齢になるまで使えないものとか、それからそれから」


 鳥はジリジリと社殿に歩み寄るが、神様は何も答えない。


「もしそうなら不公平ですよね。誰だって苦労のいらない権利が欲しいですよね。でも、お前も権利を持っているから今は我慢しろ、って言うんですか」


 鳥は首をかしけながらその場をぐるぐると歩き回っていたが、はっとしたように社殿を振り返った。神様が驚いたかのように社殿からガタンという音がしたが、鳥は気にせず話し始める。


「神様、わかりました!苦労とセットの権利は、それを使った時の幸せが他より大きいんじゃないですか。だって公平ってそういうことですもんね」


 神様は答えない。

 きれいに掃除されている境内は、しんと静まり返ったままだ。


 鳥はうなだれて、もっと頑張って考えてみますとつぶやき、来た道を歩いて帰っていった。



 社殿に続く階段は長く、「飛べない鳥」にはつらい道のり。

 だが、羽を痛め飛べなくなった鳥に仲間はいない。ひとりで歩き、わからないことは神様に問いかけるしかない。

 どんなに遠い道のりでも、こうして毎日階段を上る。


 そんな鳥を、社殿の陰からもう一羽の鳥が見つめていた。

「まったくあいつは、滑ってケガでもしたらどうするんだ」


 飛べない鳥はまだ知らない。

 もう一羽の鳥が毎日階段の落ち葉を掃き、飛べない鳥の歩く道を整えてくれていることを。


 飛べない鳥が幸せになる権利を使える日も、きっとやってくる。

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