魔王討伐済みの世界に転生した僕。

音羽

Ep1 転生

 青い空。白い雲。どこか中世を彷彿とさせる建物群。大通りのド真ん中を歩いている僕の隣には、剣士らしき風貌をした細身の男と、純白の修道服を着た、見るからに慈悲深そうな女がいた。

 通りの端っこでは、いかにもモブキャラって感じの見た目をした町民たちが、「ついにあの魔王を…」「さすがは勇者さま」なんて話している。その様子はまるで、RPGのゲームクリア後のエンディングのようで。

 お か し い

 確かに僕はついさっきまで、自分の部屋(無論建物も中世ヨーロッパ風ではなく、現代的なごくありふれた家)でスマホを見ていたはず。それで、うっかり自分の顔面にスマホを落として、気がついたらここにいた。歩いている感覚は確かにあるから、これは夢ではない。

 一応言っておくが、僕の昨日までの人生で、勇者だの魔王だのといったものを見たことがない。中世の街になんか行ったことがないし、市民はこんなにあからさまなモブ顔をしてない。

 

ってことは、あれだ。異世界転生ってやつだ。


 数年前に流行ってたアレ。「絶対ありえねぇ」とか思ってたものに、まさか自分が遭遇するとは。

 そりゃ僕だって、ゲームの中の勇者に憧れたことはあるよ。でもさ、実際にそれになるのは、なんか違うじゃない。はっきり言って、帰りたいよ。まじで。いつも通りの僕の部屋に返してほしい。

 とは言っても、なっちまったもんはしょうがない。こういう異世界転生ものって、魔王をぶっ倒せば帰れるのがベターだよね。たださ、僕たちの周りに群がっている町民の表情も、剣士の明らかにズタボロな鎧も、せっかく白いのに泥がつきまくって汚れている修道服も、

そのすべてが、「僕たちはボス戦に勝利して凱旋している勇者パーティーである」と物語ってるんだよね。

 とりあえず今わかっている情報を整理すると、

・なぜか僕は勇者に転生してしまった。

・こういった転生ものでは、魔王を倒して元いた世界に戻るのがベター

・でも魔王はついさっき倒したばっか

ってことだ。これが何を表しているかって言うと、僕は


 お う ち に 帰 れ な い 。


 達成感と感動に満ち溢れた仲間に歩調をあわせながら、僕は、どうしたらこの世界から脱出できるか、悶々と考えていた。

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