第6話 僕と貴女との邂逅


「見ろよ!俺の魔力値『11500』だってよ!

 すげーだろ!」

「バーカ、プラマイ2000程度は誤差扱いだよ」


「うう、あたし『7000』……」

「大丈夫だって!受付でも言われたでしょ?

 『魔力値』は『勇者』の素質とは違うって!」


「うおお!見ろよアレ!『20000』だぜ!」

「アイツ確か、『魔法師』候補として注目されてた奴じゃなかったか……?」


「ん?あのチビ……

 ははっ、見ろよ!『100』だってよ!

 ははは………はぁ!!!???」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


ここは受付から少し離れた場所にある広大な広場。

例の巨大建造物はここからもう1,2キロ先という位置関係だ。


今この広場には今日までに来た入学希望者全てが集まっている。

あと少しで1次募集は終了し、もうすぐ入学の挨拶が始まる運びとなっているらしい。


集まっている人達は皆一様に受付で行われた『魔力値』検査の結果について話し合っている。

平均値以上の数値を自慢する者、低い数値に嘆く者……

そして並外れた数値に注目を浴びる者……


僕もある種その一人ではあるが向けられる視線に含まれている感情は僕のみ大きく意味合いが異なっている……


ちなみに受付で渡された用紙に書かれている『魔力値』は他の人からも丸見えだ。

何故かというと数値が紙から空中に向かって赤い光として浮かび上がっているからだ。


なんでも受付のお姉さん曰く、

「『勇者』となるからにはこの世界の人々から沢山の注目を集める存在となることでしょう。

 それはただ賞賛を浴びるという意味だけでなく、自らの素性や能力、人格や私生活に至るまで暴かれ、覗かれることになるかもしれない、ということでもあるの。

 その覚悟を問う一環として自らの『魔力値』を他人の目に晒すという行為を入学挨拶までの間行い続けて頂くわ。

 数値が低かろうが高かろうが、どれだけ他人から注目の目を浴び、如何なる評価がなされようが、決して揺るがない意志で自らが次世代の『勇者』であるという気概を示してもらう……

 それこそが本来は無いはずのこの学園の入学試験と言えるかもしれないわね」

とのことだ。

……余談だがお姉さんからは最後に「だから……その……あなたもその数値でも決して嘆くことなく……いや、ある意味凄いことなんだし……」と遠慮がちに言葉を投げかけられた……


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


――ザワザワ……ひそひそ……


「おい、なんだよあの数値……

 おかしいだろどう考えても……」

「確か日常生活で最低『200』の魔力が使われるって……

 あれ?俺の聞き間違い?」

「ねぇ、大丈夫なの?あの子……

 次の瞬間急死したりしないよね……?」


痛い………

周りからの視線が痛いぃ…………!!


僕が広場に着いてからほんの僅かな時間で僕は注目の的となった……

当然、マイナス方面な意味でだ……

その視線に含まれる感情は僕の数値を馬鹿にする嘲笑……ではなくむしろ不安や恐れといったものの方が近い……

単なる『魔法』の才能に恵まれない奴、という水準を遥かに下回る生命に関わるレベルの数値を見せられれば無理もないだろう……

いっそのこと数値の低さを笑い飛ばしてくれた方がまだ気が楽になるぐらいだったが、周りの人達も流石にそれは憚れる、という感じだった………


いや、もう誰か馬鹿にしてくださいいいいい!!

この重病人を見ているかのような視線に耐えられそうにありませんんんん!!!


だが、僕のそんな心の叫びが誰かに届くようなことは―――




「あらあら、これはまたとんでもなくお粗末な『魔力値』をお持ちの方がいらっしゃったものですわね」




「うおおおお!!ありがとうございます!!!!」

「いや何故ですの」


その言葉はまるで砂漠の中でようやく見つけたオアシス!

この誰もが不安と心配の視線を送る中で容赦なく罵倒を浴びせることが出来る胆力の持ち主に僕は全力のお礼を申し上げた!


そこにいたのは……


「全く、このような者まで入学できてしまうとは『勇者』の称号も甘く見られたものですわね。

 やはり入学試験ぐらいは導入するべきだと進言を申し上げた方がよろしかったのでしょうか」


綺麗な銀髪の縦ロールに精悍さと美しさを両立した顔立ち。

正に絶世の美女、という言葉を体現したかのような女性がそこにいた。

ついでに物凄く胸も大きい。

胸の谷間が強調された真っ白なドレスはつい目のやり場に困ってしまう……


そんな人がティーカップを片手にとても豪勢な装飾を施された椅子に優雅に座っていた。

その近くにはこれまた豪勢なテーブルまで置いてある。

勿論そんな椅子やテーブルは元々この広場に用意などされていない。

どうやらこの人が自ら持ち込んだもののようだ……


更に彼女の近くにはこれまた物凄く美人な3人の女性が寄りそっていた。

1人は彼女が座っている椅子の後ろに立ち、

1人はテーブルの近くでティーポットを持っており、

1人は彼女の隣で日傘を差し出し、彼女を太陽光から守っている。

おそらく彼女のお付き……だろうか?

誰もが一目見ただけでとてつもなく高貴な身分の人だと判断できる出で立ちだった。


「あの……貴女は……?」

「貴様、無礼だぞ。

 この方は貴様如きが気軽に話しかけることなど許されぬ立場にあるお方だ」


椅子の後ろに立っている高身長、褐色肌で薄い紫のロングヘア―の女性から鋭い目つきと共に低い声で咎められ、僕は思わず萎縮してしまった。


「この大陸に住みながらこのお方の名を知らないなんて……

 とんだ不心得者がいたものね……」


続けてティーポットを持っている先程の人とは対照的に小柄で透き通ったような白い肌の金髪おかっぱの女性から静かな、それでいて確かな憤りを感じさせる声がかけられる。


「即刻この場より消え失せよ。

 さもなくば……」

―――チャキ……


最後に日傘を持っている平均的な身長の黒髪ポニーテールの女性から警告のようなことを言われる。

あの顔立ちはたしかこの大陸の外……東洋って所から来た人の特徴だったはずだ。

っていうかちょっと待って何あの日傘!?

柄を握っている両手が少し動いたと思ったらなんか鈍い銀色が!?


「構いませんわ、ファーティラ、ウォッタ、花鋏カキョウ

 この程度で気分を害する程狭量でもないつもりでしてよ。

 それに、無知なる者に正しき知識を教え授けるのも我がガーデン家の……

 ひいては『勇者』の役割でもありますわ」

「ガーデン家……?」


なんとなく聞いたことがあるような、ないような……


「では、お聞きなさい。

 そして永久とわに記憶なさい。

 いずれはこの世界の新たな『勇者』となり、人々を導く存在となる者……」


彼女はティーカップを置き、僕の目を正面から見据えて言った。


「アリスリーチェ=マーガレット=ガーデンの名を」


僕はその宣言に、彼女の絶対の自負と強靭な意志を感じた。

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