第3話 僕と目的


「うわぁーーーー!!」


そこはこの街の大通り。

だがその光景は僕の想像を遥かに超えていた。

僕は大通りというと沢山の人々が行き交う大きな道、

というイメージしか抱いてなかった。

しかしここでは行き交っているのは人ではない。馬車だ。

しかも1台だけじゃなく最大3台分の馬車が走れるような幅を確保している。

更に街の中心へ向かうものと街の外側へと向かうものとで分かれており合計6台分のスペースだ。

現在その6台分全ての道が馬車で埋まってしまっている。

こんな馬車の列なんて僕は生まれて初めて見た。

僕の村の近くの街では4、5台ぐらい見かけたら馬車が沢山止まってる、と言っていいぐらいなのに……


「あちゃー、丁度渋滞の時間帯だったか……

 まあ、ここ最近はいつでも同じようなもんだがな。

 殆どが勇者学園入学者用の送迎馬車だ」

「ジュータイ……?」


全く聞きなれない言葉だ……

おじさんの馬車は本通りの道に中々入ることが出来ず、その場で待機していた。


「まぁ、丁度いいや。

 坊主、お前さんはここで降りろ」

「ええ!そんな急に!?」


もっとおじさんとこの街について話しておきたい……

というか怖い!!!

このまま1人でここに放り出されるの怖い!!!


「大丈夫だって。

 さっき言った通り一番デカい建物に向かえばいいんだからよ

 あ、言っとくけど馬車道には絶対出るなよ。

 向こう側に行きてぇなら面倒くさくても歩道橋使え。

 毎年必ず馬車道突っ切ろうとして結局轢かれちまう馬鹿が出てくるんだよ。

 その所為で俺達ゃ無駄に安全確認だのに気ぃ使わなくなっちまってよぉ……

 まぁこっちの不注意で事故っちまうってことも割と多いからそいつらばかり悪く言うのもアレだけどなぁ」

「やっぱりもうちょっと一緒に居てくれませんかね!!!!」


僕は必死に懇願した。


「ほ、ほら!それに!!!

 ここまで乗せてもらったお礼に荷物出しのお手伝いとかしますよ!!!」

「ウチの荷物、一番軽い奴でも20キロはあるけど持てんのか?」

「無理です!!!!!!」

「よし、降りろ」


はい。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「じゃあなー坊主!

 さっきのゼリーめちゃくちゃ美味かったぜ!

 もし『勇者』が無理そうだったら菓子店でも出してくれよな!

 ウチが御贔屓になってやるよ!!」

「はい!励ましの言葉と受け取らせて頂きます!!

 別にホンキじゃないですよね!!!」


おじさんは「はっはっは!」と笑うだけで答えてはくれなかった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


そんなこんなで僕はおじさんと別れ、今は大通りにの歩行者道に1人でいる。

僕はどうしたものかとつい周りをキョロキョロ見渡してしまう。

最初は馬車用の道の大きさに驚いたがこうして見ると歩行者用の道だって相当だ。

10人ほど横に並んで歩いても余裕があるぐらいの道幅で、実際そこらで4、5人くらいの集団が何組か横一列でお喋りしながら歩いているが全く他の人の邪魔にはなっていない。

馬車道と反対の側には果ての見えない道の先までズラリと沢山のお店が建っており、果たして僕が生きているうちにこれらを回りきることが出来るのか?と、そんな詮無いことを思わずにはいられなかった。


先程の集団の内の一組がそんなお店の一つから見たことのないお菓子のようなものを購入している。

クレープ……?初めて見るな……

あれは一体どんな味でどんな調理法を……?

むっ!?あっちには謎の丸い食べ物が!!

『オクトパス・ベイク』……?

何だあの奇妙な8本の触手をもつマスコットキャラクターは……?

新種の魔物か?

くっ……いろいろな意味で気になる………!


僕は当初の目的をすっかり忘れ、その多種多様なお店……

特に料理店や屋台に目を奪われてしまっていた。

だってしょうがないじゃないか!!

これだけの未知の刺激を受けて創作意欲の湧かない料理人がいるものか!!!


『やっぱ君、『勇者』より『料理長』でも目指せよ』

心の中の僕が冷めた目で呟く。

うるさいバーーーカ!!!


そんな風に瞳を輝かせながら周囲に執拗に目を向け続けていると、僕は何か違和感を感じた。

沢山の人々の中に何となく雰囲気が違う人達がいる。

比較的若く、何かこう、野心に燃えるというか、目がぎらついているような。

その人達は皆同じ方へ向かっており、僕は自然とそちらに目を向けた。


そこには……

天高くそびえたつ巨大な建造物が……


「魔王城……いや、勇者学園……!」


そう、この人達は皆勇者学園入学希望者。

僕の様に通常の送迎用馬車以外の方法でここに来て、学園へと向かおうとしている人達だ。


そして、誰も何も言わずともその目が語っていた。


自分こそが、次世代の『勇者』だ……と。


僕は、自然と両拳を握りしめていた。


「………僕も、僕だって………!」


僕は彼らと同じ方向を向く。

そして、ゆっくりと深呼吸をし……


僕の目的を見据え、叫ぶ!!


「キュルル!!僕、強くなるよ!!!」


僕は走り出す。


勇者養成学園『エクスエデン』へと。








僕は、『勇者』になる!!!

絶対に!!!








 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ゼヒュー……ゼヒュー……」


「おい、なんだあのガキ。

 壁にもたれかかって死にそうになってるけど……」

「さあ?

 なんか大声出して走りだしたと思ったら別にそれ程離れてない場所でぶっ倒れて

『人間は失敗を繰り返しながら成長するものだから……』

 とか訳分からんこと呟いてるそうだぞ」

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