第2話 僕と君との出会い


「「「ウォオオオオォォォオオン!!」」」

「ぐああああああ!!!」

「下がれ!!ヘルハウンドの群れだ!!!

 囲まれたら終わりだぞおおお!!!」


「キシャァァアアアアアアア!!!」

「上だ!!ハーピィがいるぞおおお!!!」

「弓だ!!弓兵を寄こせぇええええ!!!」


「グオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「ゴーレムだぁあああ!!」

「大槌持ってこい!!

 全員でかかるぞおおおお!!!」

「「「うおおおおおおおお!!!!」」」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


うん、無理。


「いやいやいや!!

 諦めるな自分っ!!

 何のためにここまで来た!?」


木の影から戦いを見守っていた僕は思わず声を上げてしまった。

ここはかつての街まで大通りだったらしく、どうやらかなりの広範囲が戦場となっているようだった。


僕はというと………

道の脇に生い茂っている森の中に早々に逃げ込んでしまったのだった……

いやでもメッチャ怖い。

先程の震えがすっかりぶり返してしまった。

むしろ数段震えのレベルが上がっている。

今の僕がノコギリを握って木に押し当てれば勝手に切り進んでいくのではないかと思えるほどだ。


「ううぅ………

 こ、このままじゃだめだ……

 僕も、僕も戦わなきゃ……!」


そう意気込んで戦場を覗いてみるものの、やはりどう考えても僕が手を出せるような領域ではない……

勢い勇んで突撃しても嵐の中に舞う木の葉の如く命を散らしてしまうことは請け合いだ。


せめて……

せめて僕でも戦えそうな魔物がいれば……


そんなことを考えていると―――


――ガサガサ……


「ぱゅぃ!?」


すぐ近くの茂みからの物音に思わず発音不能な叫び声をあげてしまった。

僕は即座に冷静になり、木剣を構えた!

剣身部分を掴んでいたけど!!

そしてその音の元には――


「んん?これは……」


「きゅきゅるっ?」


なんか変な鳴き声を出すぷるぷるした半透明の白い物体が。

えっと、確かこれって――


「スライム……だっけ?」


魔物にあまり詳しくない僕でも名前だけは聞いたことがあった。

世界中に生息していて、基本的には弱い。

生息域によっては強力な毒や強酸を持つものもいるが通常の環境なら戦闘経験のない者でもほぼ勝てる。

ただし油断してると粘液で出来た身体で顔を覆われて窒息されてしまうこともあるので数が多い場合や体積の大きい個体などに注意、だったっけか……

でもどうやら目の前のスライムの周りに他の個体は見られないし大きさもかなり小さい。

背の小さい僕の膝下くらいしかないほどだ。


なんでこんな所に……?

僕が言えた義理じゃないけど……どう見ても場違いだ。

なんとなく震えてるような……まぁ元からぷるぷるしているだけかもしれないが。


「きゅきゅう……」


向こうは僕のことを見つめたまま動かない。

いや目が無いからホントに見てるのか分からないけど。

こちらを警戒しているのか……


「いや、でも……これなら……

 僕でも………?」


僕は剣を構え直しながらじりじりとスライムに近づいていく。

どうやら向こうも逃げ出す気はないようだ。

僕と同じくこちらへとにじり寄りはじめた。


お互いの距離が徐々に縮まっていく。

僕は思わずゴクリと唾を飲んだ。


そして――

その距離がほぼゼロにまで近づいた時――


「っ!やあああああ!!!」


僕は叫び声を上げながら剣を振り上げ、スライムに向けて渾身の一撃を放った!!


――ポコン

「うきゅる?」


軽快な音と共にスライムが僅かにへこんだ。


「………」

「………」


……気まずい沈黙がその場を満たした。


こ、これは……効いてるのかな……?

い、いや効いてる!

多分効いてる!

きっと効いてる!!

なんかこう、衝撃が内部へ向かってどうのこうので!!


そんな言い訳めいたことを考えていると――


「きゅきゅるっ!」

「!!」


向こうからの反撃が来る!!

その小さなぷるぷるの身体でこちらへ向かって飛びついてきた!!


――ぽよん

「いたっ!」


くぅ……痛い……!

枕を強めに投げられた時ぐらいに痛い……!

村の子供たちでお泊りした時の枕投げで集中攻撃を受け泣かされた時のことを思い出してしまう……!!


「………」

「………」


再びの沈黙……


いや、まだまだ戦いはこれから!!

今度はまたこっちからの攻撃だ!!


「てぇい!!」


先ほどと同じ様に剣を振り上げスライムに向かって振り下ろす!

だが今度は相手も攻撃を見切ったのか横へ飛んで避けた!!

くっ……やるな!!


――ベチャン!

「きゅっ!?」


あ、避けた拍子に木に当たっちゃった。

……なんかさっきの僕の攻撃よりもダメージを受けてるように見えるのは多分気のせいだろう。


「きゅる……きゅうぃっ!」


再び向こうからの攻撃!!

僕も避け――うおぉ!?


「だぁっ!?」


こけた!!痛ったい!!

でもそのおかげで攻撃を避けられた!!

多分そのまま攻撃受けた方が痛くなかったとか考えない!!!


「きゅべっ!」


あっ、向こうはまた木に当たった!

よし!これでダメージを受けた数は向こうの方が上か!


「…………………」

「…………………」


「うおおおおおお!!」

「きゅきゅるうううううう!!」


それはまさに一進一退の攻防!!

凄まじい剣技と強靭なアタックの応酬!!!

お互いに死力を尽くし合い、この戦いは激化の一途を―――




「ギャオォォォォォオオオオオオ!!!!」

「デス・レッドドラゴンだああああ!!!」

「こいつの炎を浴びちまったら燃え尽きるまで消えねぇぞ!!

 死んでも避けろおおおおおおお!!!!」

「魔法師を呼べ!!!

 風魔法で炎の向きを変えるんだ!!」

「おいやべぇぞ!!森に火がっ!!!」

「ええいくそっ!!

 爆発魔法で吹き飛ばして延焼を防ぐぞ!!

 全員離れろおおおお!!!」


「ひいいいいいええええええええ!!!」

「きゅるううううううううううう!!!」


僕らが低レベルな戦いを繰り広げている間に向こうの戦場は拡大していた!!

僕はスライムを脇に抱え猛ダッシュでその場を離れる!!

あっ、とっさに抱えちゃった。

いやそんなこと考えてる場合じゃない!!

早く逃げないと!!


―――ドオオオオオオオオオオン!!!


うおおお!!背後で物凄い音と振動が!!

さっきまでいた場所がどうなったのか恐ろしくてとても振り向けない!!!


「もっ!

 もう少し離れた所で戦おう!!ね!!」

「きゅい!!!」


腕の中でスライムがコクコクと首を縦に振るかのように動く。

こっちの言うこと理解できてるのかな……?

そんなことを考えながら走り続けていると―――


「あっ!ちょうどいい感じの広場が!

 よし!あそこなら―――」


―――バササ…


「ギョオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「おい大変だ!!

 コッカトリスが出たぞ!!」

「何っ!?最優先で倒せっ!!!

 あいつの毒息で全滅しかねないぞ!!!」

「最大火力をぶっ放せええええええ!!!」


「よし、もっと離れよう!!!!!」

「きゅきゅるっ!!!!!」


これまでの人生で最大の全速力だった!

とにかく怪物の咆哮や恐ろしい爆発音から遠ざかろうと必死に走った!

でもどれだけ駆け回ろうがどこもかしこも戦闘戦闘戦闘の嵐!!

気が付かないうちにこの森一帯は既に戦いの場と化してしまっていたのだった!!

やばいやばいやばい!!

どうする?どうする!?


「あっ、あれは!」


僕の目にあるものが映った。

それは水が枯れ、廃棄された古井戸だった。

かつてここの近くにも村があったのだろう。

僕は何かを考えるよりも先にその井戸に向かって一目散に走った!

そして!


「うおあああああ!!!」

「きゅううううう!!!」


その井戸の中へ飛び込んだ!

井戸の深さとかはこの際考えていられない!


「うわあああああ!!!」

「きゅきゅううう!!!」


落下の感覚に僕は思わずスライムを強く抱きしめ叫び声をあげる。

その直後―――


―――ドチャア!


「いぎっ!!」

「きゅむっ!!」


…………どうやら井戸の底に着いたようだ。

結構な距離を落ちた気がしたけど幸運にも底に泥が溜まっていて衝撃を吸収してくれたようで大した怪我はしなかった。


「うえ……ぺっぺっ……

 泥が口に入っちゃった……」

「きゅるる………」


腕の中のスライムも無事のようだ。

いやスライムの怪我の具合とかいまいち分からないんだけど。


―――ドオオオオン……!!


「うおおお……………」

「きゅるう……………」


井戸の外では未だ激しい戦いが続いているようでここまで轟音が聞こえてくる。

でも、少なくともここなら巻き込まれることはないだろう……


「と、とりあえず一時休戦ってことで……」

「きゅい……」


スライムは素直に頷くような動作を見せた。

っていうかやっぱりこっちの言葉が分かるのか?このスライム……

とにかく外の音が止むまでここで大人しくしていよう、そうしよう……

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