第6話 あやかSide④ 不満

★★★あやかSide★★★


「ふーん」


 隠すんだ。


「その含みのある言い方はなんですか?」


「なんもないって。ただなんとなく怪しいと思っただけ」


「……ヤキモチかよ」


「自意識過剰すぎ。ちょっと気になって聞いただけなのに『ヤキモチかよっ』なんて喜ばれても。自分がちょっと他の女の子としゃべったら私は嫉妬すると思ってるってこと? 何気ない発言から自己評価の高さがバレるから気を付けたほうがいいよ」


 私が素っ気なく返すと、虎太郎は無言で胸に手を当てて苦しんでいた。思ったよりダメージを受けたらしい。

 まあフツーにヤキモチに違わないのだが、面と向かって指摘されると少し恥ずかしい。


 しかし私たちはなんだかんだ似た者同士ではないだろうか。

 私は虎太郎が凛と仲良くしていたらヤキモチを焼くし、虎太郎だって私が誰かに告白されると知ったら気分が悪くなる。

 共依存であることは、関係性を続ける上でよいことだろう。

 私はミルクティーをごくごくと口に含んで、努めて自然に話を続ける。


「凛さー、最近きれいになったと思わない? 昔から見た目は超かわいかったけどさ」


「……まあ、悪くはないな」


 何を思い出したのか、にまにまと気持ち悪い笑みを浮かべる虎太郎。

 悪くないどころではないだろう。

 とりあえず簡単なお化粧のやり方を教えてみたのだが、一度試したらもとの素材が良いせいか怖いくらい美人になった。

 ついでに、今もなお成長期なのか、身体の一部が日増しに大きくなっていくのも怖い。


「男子はああいう子が好きだよね。顔がかわいくて、身体つきがえっちで、おとなしい性格の子」


「……まあな」


 神妙な口上で同意しているが、鼻の下は限界まで伸び切っていた。分かってたけど。だってこの男巨乳好きだし。


「いい子なんだから付け込むようなことしたら許さないからね」


「しねーよ。俺にとっても大事な幼馴染だし。気になるならお前も協力すればいいだろ」


「めんどくさいからパス。決まった時間に予定が入るの、好きじゃないんだよね。私が適当な性格なの知ってるでしょ」


 ジト目で見られる。

 まったく。私の微妙な立場も知らないでさあ。


「そう言うと思ったけど、そうすれば今日みたいに三人で一緒に遊ぶ機会も増えるんだぞ」


「遊びじゃなくて仕事でしょ。なんでじゃんけんに負けたあんたと同じ労働を私がしないといけないのよ。もしかして、雑用係増やしてラクしようとか考えてないでしょうね?」


「べ、別にそういうつもりじゃねーよ」


 どうせ頼んだってやらないだろと虎太郎。

 失礼な。自分の仕事だったらちゃんとやるし、本当に困ってたら助けるよ。


「まあいいけどさ。俺はしばらく忙しくなると思う。みんなが凛の演奏を楽しみにしてきたのに俺が失敗したら凛に恥をかかせることになるし。他に飾りつけの買い出しもあるのかな」


「誰も手伝ってくれないの?」


「会場設営は人数要るけど、他はそうもいかねーんだよ。文化祭当日の警備とか出し物のチェックとか、みんな役割が振られててヘルプ頼みにくいからな。俺が率先してやるのは柄じゃないけど凛に迷惑かけるわけにもいかないだろ? 困った困った」


 口で言うほど困ってなさそうだし、むしろ凛に頼られて内心嬉しいのは分かった。

 なんだかんだ高校生の一大イベントである文化祭のメインに携わることの満足感や充実感もあるようだ。

 それが面白くなくて、ついつい言葉の槍でチクチクと刺してしまう。


「で、虎太郎はこれから私を後回しにするわけね」


「仕方ないだろ。お前も言うように仕事なんだし、お前も手伝ってくれれば丸く収まるけど、どうせやらないだろ?」


「凛は虎太郎を指名したんでしょ。私じゃなくてさ」


「……そりゃお前は文化祭実行委員じゃなかったから」


 ああ言えばこう言う。

 分かっているよ。私がもっとわがままになればいい。二人きりにならないようにずっと監視していればいいんだ。


 でも。

 ――これからの準備期間は二人で活動することが増えそうなのです。

 あんな幸せいっぱいの親友を見て、言えないじゃん。応援するって言っておいて、今日みたいに二人の間に割って入って邪魔するのは難しいよ。


「中学のときもそうだったよね。打ち上げは三人だったけど、実質ほとんど二人でやってた」


 あのときも凛は隠しているつもりだったんだろうけど、虎太郎と一緒にいる口実が出来て喜んでいるのが丸わかりで……やっぱり私は遠慮するしかなかった。

 かといって親友の晴れ舞台をサポートしないのも「なにこいつ」ってなるし。

 やる気ない人アピールして、横柄なキャラ通すしかないじゃん。


「だからなんでそんな不機嫌なんだよ」


 こういうとき、虎太郎は妙に鋭い。

 これから二人で会う時間が増えて、二人の仲は一層深まっていくことを確信したからだけど、そんなことは言えない。


「なんで不機嫌だと思う?」


 答えに困って、私は意味不明な逆質問をした。


「いや……分かんねーけど。俺はお前と付き合ってるから。凛とはいえ二人になるのが嫌、とか」


 当たりだよバカ。


「そう思うってことは、凛のこと女の子として意識してるんだね」


「し、してねーよ!」

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