風に揺らぐ宿木の影は邪を映す

ニラたま

第一話

これは、勇者一行と魔王の戦いが起こる前のお話…


ゲホーデン「うう…うぅ…う…?」

魔王「…目覚めたか。近頃のお前はうなされる事が増えたな…何か嫌な夢でも見ているのか?」

ゲホーデン「あ…いえ…大丈夫です。それよりも、何か御用ですか…?」

魔王「うむ。明日から修行を深夜3時から始める事にする。良いな?」

ゲホーデン「え…?それでは6時間しか…」

魔王「構わないだろう?次期魔王として、これまで以上に力を付けてもらわねば困るのだ。という訳で今の内から6時間睡眠に慣れておけ。」

ゲホーデン「…分かりました。お父様…」

魔王「ああ。しっかり寝るんだぞ。」


ギィ…トタン…


ゲホーデン「私…本当は魔王になりたくないのに…私はただお友達を作ってお友達と遊んだり…お喋りして毎日楽しく過ごしたいだけ…でも、私は魔王の子だから魔王の座を継ぐ事が決まっている…はぁ…もうこんな毎日嫌だ…朝から修行で…昼から勉強…それに最近は変な夢のせいで満足に寝られないし…ちゃんと休めるのは夜の数時間だけ…は〜ぁ…」


大きなため息をつき、再び横になる。次の日…


魔王「お前の力はそんなものか!」

ゲホーデン「はぁ…まだ…です!はっ!」


不規則な軌道で火球を3つ放つ。


魔王「…狙いは良い。だが…ぬぅん!」


ブォン!


ゲホーデン「あ…火球が…!」

魔王「肝心の威力が伴っていないな。」

ゲホーデン「く…ぅ!」

魔王「どうした?もう音を上げるのか?」

ゲホーデン「…はぁりゃりゃりゃりゃ!」


小さな火球を無数にどんどん放っていく。


ゲホーデン「塵も積もれば山となる…はず!」

魔王「…間抜けめ!ずぁっ!」


バギィッ!


ゲホーデン「うぐぇっ…」

魔王「避けるまでも無い弱さだ!もう良い!今日は夕飯抜きだ!」

ゲホーデン「う…ぐっ…うぐ…」

魔王「次期魔王とあろうものが涙を流すなァ!全くお前には覚悟が無い!もし明日もそんな調子が続くようであったら、お前の事を殺す!良いな!?」

ゲホーデン「っ…!………っ…!」


何かを訴えかけようとするが、言葉にならない。


ゲホーデン「…もう…嫌だ…何もかも…」


それから、毎日少しずつ修行は過酷になっていき…勉強量もどんどん増やされていった…そんな毎日が続けば、どうなるかは想像に難くない。気付けば、10年の月日が経っていた…そして…


魔王「…何のつもりだ?」

ゲホーデン「…もう良いよ。もう良いの。お父様はもう必要無い。力も知識も十分蓄えた。」

魔王「そうか。では最後に良い事を教えてやろう…お前に魔王としての素質は無い。」

ゲホーデン「…それでも構わない。私はお父様とは違います。力で統率する事はあっても、魔物たちを縛り付けるような事はしない。」

魔王「ふっふっふ…お前は何も分かっていないな。力や恐怖を植え付けて魔物を縛り付けておかないといつか魔物に反逆されるぞ…?」

ゲホーデン「そうなったら反逆した魔物は容赦無く殺し、見せしめとします。」

魔王「…ククッ、結局お前は力や恐怖に頼らないと生きられないのだ。実に愚か…!」

ゲホーデン「…お父様、あれから私、不思議な力に目覚めました。この力で今からお父様を殺します。覚悟してください。」

魔王「…ほう、やれるものならやってみるが良い。全て未熟なお前がこの私に勝てると言うならな!」

ゲホーデン「…呪え。ダイウィルース。」

魔王「…?それがお前の力か?期待外れだな…!」

ゲホーデン「…いえ、私の勝ちです。」

魔王「何を言って…ぐふっ!?ほっ…はっ…!」

ゲホーデン「…これは死ぬまで咳が止まらなくなる呪いです。例え敵がどんなに強い生物だとしても、咳が止まらなくなれば身体は衰弱し死に至る。」

魔王「ゲホォッ!ガファ…!」

ゲホーデン「…安心してください。ここで慢心せず修行は続けて更なる高みを目指します。」

魔王「グホァッ…ゲホァッ…ハッ…ァ…」

ゲホーデン「…側近!魔王の側近よ!ここに!」

魔王の側近「お…お呼びでしょうか?」

ゲホーデン「今より、私が魔王の座を継ぐ!その旨を世界中に伝えるのだ!」

魔王の側近「はっ…承知…」

ゲホーデン「それと、清掃係も呼ぶのだ!死体清掃をするよう伝えよ!」

魔王の側近「し、承知いたしました!すぐにお呼びいたします!」

ゲホーデン(…私は父を超えるんだ。超えなければ意味が無い。魔王として相応しい存在でなければ…もっと強くなり、もっと学ばなければ…)


ここに、魔王ゲホーデンが誕生した。


次回に続く

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