『少女の手には呪いの本』感想

タイトル:少女の手には呪いの本


作者:七海 司


作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817139557229921434


キャッチコピー:書いてある物語が現実になる本を借りてしまいました


あらすじ:

 友達がいない日色雪菜は、クラスの中心にいる枝折夏海に密やかな憧れをいだいていた。

 

 そんなある日、雪菜は影たちの裏図書室から物語が現実になる本を借りてしまう。


 物語通りにいじめっ子たちは、夏海を加害していく。


 雪菜は呪われた物語を最後まで読み切れるのか。


読了時の文字数:23000文字完結済


送った星:☆☆☆


送ったレビュー:『最後まで読み終えなければいけない。物語を止めると心臓が止まる』

控えめな文学少女『日色雪菜』と、雪菜にとって憧れの少女である『枝折夏海』との関係性、二人に待ち受ける運命について描かれた、秀逸なホラー×百合短編でした。

単体の百合モノとしても素晴らしいですが、何より物語に仕込まれたギミックは、読了後すぐに読み返したくなるほどです。

約2万文字とは思えないボリューム感や満足感でありながら、結末が気になってラストまで一気に読み進めてしまうパワーを持っています。

面白かったです。



感想

別に私が百合好きだからって、百合作品なら無条件で高評価しているわけじゃないですよ。ちゃんと公平かつ公正な目で読んで、その上で面白かったから「面白かったです」と言っているのです。信じてよ!


地味で大人しい文学少女『日色雪菜』は、読んでいる本に書かれていた都市伝説的・学校の怪談的な『裏図書室』への行き方を試し、実際に足を踏み入れる。

その裏図書室で借りた一冊の本をきっかけに、雪菜にとって憧れのクラスメイト『枝折夏海』との関係、夏海の周りにいる女子達の闇、物語と夢と現実が交差し、誰も予想できない結末へと転がり落ちていく――。


約2万文字という短編作品ですが、『裏図書室』や雪菜が借りた本の設定、ストーリーの途中で挟まれる勇者と魔王の物語、雪菜と夏海の百合関係など、本当に個性的な要素が詰め込まれていて、非常に読み応えのある作品でした。並盛かと思ったらご飯ミッチミチに詰まってるよコレも。


背筋が凍るようなホラーストーリー……というほどではないですが、日常の中に潜む悪意や不穏さがジワジワと這い寄ってきて、良い意味で『気味の悪さ』が上手く表現されています。

そしてその不穏さや『苦さ』の中で、今まで直接的な交流がなかった雪菜と夏美が接近し、互いに深い間柄となっていく。百合好きも大満足な展開や『甘さ』が味わえます。


何よりも、作品全体の構造・構成というかギミックが秀逸で、日常・夢・物語が絡み合うことで、象徴と抽象が効果的に描かれています。あんまり説明するとネタバレになってしまうので、フワッとしたことしか言えないですけど。

百合、裏図書室、予言の書、合間合間に挟まれる勇者の物語、夢と現実……それらの要素が、下手をするとてんでバラバラにとっ散らかって「何をしたいのかよく分からない話」と低評価に繋がるリスクも孕んでいたと思います。

しかし『少女の手には呪いの本』は、全ての要素を相互にリンクさせ、上手く絡み合い、どのパーツも作品にとって欠かせない構成要素にしています。素晴らしいです。


強いて気になった点を言うなら、雪菜のですます調で語られる一人称視点が、文章に少し癖があり、人によっては好みが分かれるかもしれません。

しかしそこは好みの問題なので、欠点というほどではないです。


読み終わった後は「あぁ~そういうことだったの!?」と驚きがあり、もう一度最初から読み返したくなってしまいます。そういう意味では、ショートミステリー的な要素も若干含んでいるのかなと思います。

読了後も思わず読み返したくなる、何度でも読み返せる内容の物語というのは、良作・名作の一つの条件だと個人的に考えています。


サクッと読めるけど面白い、内容が詰まった良作です。ネタバレなしで是非最後まで読んでいただきたい。オススメです。

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