第4話

…… 走ると体育館くらいの広さがある大部屋の前にたどり着いた。


 浮きうさが俺の前にぬんと出た。


「予言するよ、ここからは短くて苦しい道だよ。これ以上進めば短期的には苦しい思いをするよ。でももし、長期的に幸せになりたいならここを進んだ方がいいね」

「短期的に苦しいけど将来幸せになる……試練なんて受けたくないけど、戻る選択肢はあるのか?」


「無いね、私にはキャサリンを止められないからね」


『ジョブ経験値を取得しました』


「女神様! 何とかなんない!? 助けてくれ!」


 もふもふもふもふ!


「私にできる事は可愛すぎるこの姿で希望を与える事だけだよ」

「そういうのじゃねえよ! 助けてよ浮きうさああ!!」

「あらあん、止まるのおん? 私の熱いベーゼが欲しいのかしらん?」

「ひい!」


『ジョブ経験値を取得しました』


「もっともおん、魔導士のMPが切れたら危ないわねえん。その時は私の熱いベーゼで癒してあげるわあん」


 後ろに進めばキャサリンにヤラれる。


 負けそうになればキャサリンにヤラれる。


 前に進めばMP切れでキャサリンにヤラれる。


 絶望だ。


 希望が、


 希望が無い。


 駄目なのか?

 もう終わりなのか?

 何か、何か手が……


 何も思いつかない。


:なんだろう、フカシを応援したくなってきた

:フカシ君、頑張って

:フカシ君、かっこいい


:フカシが野生の勘を取り戻しつつある気がする

:追い詰められて頭をフル回転させているよな

:危機回避能力もフル稼働している

:腑に落ちたわ。野生の直感を取り戻しつつあるんだ

:同接1000人越えおめでとう。余裕で収益化出来るね


「10、9」

「やめろ! カウントするな!」

「8、7、6、じゅるり!」


『ジョブ経験値を取得しました』


 じゅるりが怖すぎる


「うああああああああああああああああああああああああ!」


 俺は奥に走った。


「あれ? 何もない?」


 キャサリンを見ると口角を釣り上げる。

 周囲にいくつもの魔法陣が発生した。

 魔法陣、モンスターが出る魔法陣だ!


「フカシ、私の為に前に出てくれるなんてえん。マジ白馬の王子様ああん」


 そう言いつつも帰るための通路をキャサリンが仁王立ちで通せんぼする。


 魔法陣からゴブリンとスライムが出てきた。


「フカシ! 早く倒さないと危ないよ!」

「早く倒しましょうん。MPが切れたら回復してあげるわあん。じゅるり!」


「くそ! ショット! ショット! ショット! ショット! ショット! ショット! ショット!」

「「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」


 目の前にいるスライムとゴブリンを倒した。

 でも新たな魔法陣が増えてモンスターが現れ続ける。

 これ以上増えたらまずい!


「ショット! ショット! ショット! ショット! ショット! ショット! ショット!」


 モンスターは倒せる、でも……

 MPが、持たない!

 キャサリンが口角を釣り上げる。

 恐怖を感じてキャサリンキスの悪夢がフラッシュバックした。


『ジョブ経験値を取得しました』


 まだ戦える!


「うあああああああああああああああああああ!」


 杖で殴り掛かった。


:なんか涙が出てきた。フカシは頑張って生きてるんだね

:フカシが強くなってね? 

:モンスターを倒したんだから強くなるだろ


:いや、それはそうなんだけどモンスターを倒すペースが早すぎる。それに動きが洗練され続けている

:なんだろう、絶望を知ってから必死な感じが半端ない

:フカシは一切ダメージを受けてないよね? そこが異常。普通囲まれた状態であれを普通全部避けるか?

:おお、凄いな。一緒のパーティーだったクズ剣士より強いんじゃないか?


「もう終わりかしらねえん? 熱いベーゼで……あらん」


「ショット! ショット! ショット! うあああああああああああああ!」


:魔法と杖の打撃を使い分けている!

:でも、MPは有限だ

:そこでショットだ! あれ? 使わない?

:使わないんじゃない、使えないんだ。MP切れだ


 俺は必死でモンスターを倒した。


『ジョブ経験値を取得しました』


「MPが切れたのよねん? 熱いベーゼを受け入れなさいん! 私の胸に飛び込んでくるのよん!」

「うあああああああああああああああ!」


 キャサリンの言葉が俺の恐怖に駆り立てる。


『ジョブ経験値を取得しました』


 恐怖が俺に危機感を与える。


 危機感は俺を戦う者へと変えていく。


 MPが無い。


 息が切れる。


 それでもモンスターの攻撃を躱し、杖で返り討ちにしていった。


「私のマジカルキッスならMPも、疲れも、傷も回復出来るわあん」


『ジョブ経験値を取得しました』


「あきらめなさいん。フカシは熱いベーゼを受ける運命なのよおん!」


『ジョブ経験値を取得しました』


「命より大事なものは無いわあん。私の熱い祝福をうけなさあいん!」


『ジョブ経験値を取得しました』


 力が欲しい。

 

 力さえあればこんな悔しい思いをせずに済む。


 理不尽を跳ねのける力が欲しい。


 なんでMPが切れる!


 なんで息が切れる!


 なんで体が動かなくなっていく!


 もっとだ!


 もっともっともっともっとだ!


 俺は、力が欲しい。


『ジョブ経験値を取得しました』


『ジョブ経験値を取得しました』


『ジョブ経験値を取得しました』


「ジョブ経験値が規定値を超えました』


『ジョブ進化を開始します』


 俺の体から黒い魔力が噴き出した。

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