第16話
「馬鹿みたい。」
冷たい声が
「典型的な庶民の馬鹿騒ぎね。低レベルだわ。昇、そんな人達と話をしたら、レベルが下がるわよ。類は友を呼ぶっていうの。品がない。」
つん、と冷たい目で
「花月…! 失礼でしょ! 謝りなさい。」
アリアが
「ママはいつも、正しいと思うことをしなさいって言う。わたし、その人達と付き合わないことは、正しいことだと思う。だから、わたしは悪くない。」
アリアが一瞬、目を見開き言葉を失った。その間にさっさと花月は廊下の奥に行ってしまう。
「ごめんなさい。最近、あの子、ずっとあんな調子なの。わたし、自分があんなにおませじゃなかったから、戸惑ってて。」
「あ、大丈夫です、気にしないで下さい。女の子って、おませな子は、あんなもんですよ。わたしの同級生にもああいう子、いましたし。大丈夫です。」
アリアと貴奈はそんな会話をしている。
勇太は黙って花月を見ていたが、ふと思ったことがあった。小学生の時、急に仲の良かった友達の態度が変わったことがあった。どうしたのかと思っていたら、いじめに
いじめている相手が金持ちの家で、威張り散らしている家の子だったので、勝ち目がないのは知っていたから、そのままにさせた。というのも、家で母の
母が見ていたドラマなんかも目にして、そういう戦いで勝ち目はないと分かったので無理して戦わなかった。
勇太は友達には学校では無視していいと伝えた。その代わり、学童では一緒に遊ぼうと。友達は泣きながら
「本当にごめんね。」
「お姉ちゃん、夏休み前からずっとだよ。学校に行く前に、コンビニに寄り道するの。」
「え!? あの子、そんなことしてるの?」
アリアがびっくりして立ち上がった。
「ねえ、ママ、この蒸しパン、食べていい?」
「ちゃんと手洗いとうがいをしてからね。ほら、しに行くよ。」
昇の背中を押してアリアが出て行く。だが、出て行こうとした昇と、戻ってきた花月がぶつかりそうになる。花月の奥には千哉がいた。きっと花月は、勇太達に対する態度について、言い聞かせられたとすぐに分かった。
花月の表情は不満そうな上にとても暗い。仕方なさそうに、勇太と貴奈の前にやってきて不承不承口を開いた。
「………さっきはすみませんでした。ごめんなさい。」
「あ、いいのよ、全然気にしてないから。大丈夫。」
貴奈は急いで言った後、黙ったままの勇太を慌てて振り返った。
「ほら、あんたも何か言いなさいよ。」
勇太は花月を見据えた。
「お前、悪かったって思ってないだろ。口先だけで謝ったって意味ないぞ。」
花月の顔が強ばった。顔色がかなり悪い。図星だったのだろう。
「ちょっと!」
慌てる貴奈をアリアが引き止めた。
「それに、お前。学校でいじめられてんだろ? いじめられてるから、学校に行きたくなくて、行く前にコンビニに寄ってんじゃないの? いじめる奴らが、お前に平民と付き合ったらレベルが下がるって言って、お前をいじめるんだろ?」
花月が勇太を見つめた。大きな目を丸くして勇太を呆然と見つめる。
「どうして、知ってるの? それに、いじめられてない。」
顔色の悪いまま、花月は言った。
「いじめないと、いじめられるんじゃないのか? 参加しないと自分が標的にされるから、いじめるんだろ? でも、本当はしたくない。仲の良かった友達が標的で、普通の家の子なのか?」
花月が震えた。両目に涙が浮かぶ。
「……なんで、分かったの?」
小さな声で花月は聞いた。
「簡単。俺も小学生の時、いじめの標的にされた。だからさ。そうなんじゃないかって。」
勇太の答えを聞いて、花月は泣き出した。
「花月、今の話、本当なの?」
アリアが急いで花月に視線を合わせて尋ねる。
「うえーん、ママ、ごめんなさい……怒らないで。」
「怒らないわよ。ママの方こそごめんね、全然気がつかなくて。辛かったでしょ。もしかして、レイちゃんがいじめられてるの?」
「………うん。いじめないと、もっとひどくいじめられるの。アレルギーが出るキウイを食べさせられちゃうから……。
それで、わたしに石鹸をレイちゃんの給食に入れてって言われて、でも、入れたら食べられなくなっちゃうから、入れなかったの。でも、他の子が入れちゃったの。食べないと石鹸を入れるって言われるから、この間、レイちゃん、キウイ食べたの。そしたら、発疹が出て次の日休んだの。」
「なんですって!?」
下手をしたら死んでしまう。殺人だ。子供達はきっと、そこまで深刻だと思っていないだろう。かゆくなったり、発疹が出たり苦しんでいる様子を見て、面白がっているだけのはずだ。
「ごめんね、斉藤さん、近田くん。ちょっと向こうに行くね。」
アリアは花月を連れて向こうの部屋に行った。一旦、手洗いとうがいをさせた昇を千哉が連れてきて、勇太と貴奈に預けると自分も一緒に話に行った。
「ありがとう、近田君。それと、二人とも昇を少しの間、頼むね。」
「はい。」
こうして、二人は山岸家と馴染んだのだった。
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