第6話

 部屋の片付けが少しは進んだところで、勇太は段ボールを資源ゴミに出すことにした。だが、ゴミステーションに捨てる時、雨だったらビニール袋に包まないといけない。それで、テレビをつけて天気予報を見ることにした。

 最近、つけてなかった様子のほこりまみれのテレビをつけると、ちょうどニュースの時間だった。

「今日も全国各地で飛行機の墜落事故が起きました。今日だけで三機の飛行機が墜落しました。○○空港近くと……。」

「三機って多過ぎだろ…!」

「…また、タンカーと商業船の座礁事故も五件起きました。東京湾と瀬戸内海……。」

「はあ!?」

「……さらに医療事故も多発しています。今日だけで十三件起きています。重大な医療ミスも同様で……。交通事故も頻発しています。今日だけで死亡事故が全国で十六件起きました。都心を走る首都高速でトラックが横転し……。」

「……。」

 もう、この国は終わった。きっとそうだ……。『あなただけ♡』なんていうゲームに滅ぼされたんだ……。勇太が思っている間に、リポーターが何か言っていた。

「事故を起こした人が全員、恋愛ゲーム『あなただけ♡』のことを考えていたと答えています。その上、経済活動の低下も深刻です。サービスの低下も指摘されており、全てにおいて、影響していると言わざるを得ません。政府与党はなんらかの対策を取る必要があると野党の質問に答えています。

 しかし、外国ではゲームの規制について、人権の侵害だと訴えるデモが起きており、慎重にならざるを得ないという意見もあります。

 今後、どのような政治運営をしていくのか、以前よりも国民の意識が政治に無関心になって、ほぼゼロになっている今、早急に対策を講じる必要があります。以上、国会前からお伝えしました。」

(この人はゲームしてないんだな。真面目に終わったじゃん。)

 勇太が感心していると、早口でリポートを終えたリポーターは、画面が切り替わる前にスマホを取り出した。そして、言ったのだった。

「マリーちゃん、おまたせ♡ 遅くなっちゃった……。」

 少しして画面が切り替わる。

「お見苦しい場面がありました。大変、失礼致しました。」

 とアナウンサーが重々しく謝罪した。

 勇太はテレビを消した。なんだか、妙に悲しかったし、むなしい気分になった。面倒になって、天気予報を見ずに資源ゴミを出しに行った。すると、自治会の口うるさいおばさんがやってきたのだ……!

(し、しまった! 怒られるか!)

 だが、何事もなく通り過ぎた。しかも、小走りで通り過ぎた。

「早く、早く、たー君に会わなくっちゃ♡」

 という独り言も聞こえた。

 勇太は家に帰り、スマホを見つめた。電源を入れてリセットのアイコンを押す。面倒な動画を早送りして最後まで送った。

『誰かをリセットしたいですか? はい、いいえ。』

 そんな文字が出てきた。はい、を勇太は押した。

『本当ですか?』

 はいを押した。その時、貴奈からLadder(ラダー・電話やSMSサービスの通称)が来た。


――リセットやってみる?

――ちょうど、押してたとこ。

――待って、わたしもやる。そっち、行っていい?

――いるとこねえ。ゴミ屋敷。

――じゃ、ゴムン(Go Moonという世界的なカフェのチェーン店の略称)に    行く?

――家の前でよくね?

――あっそ。分かった。


 数分後、貴奈がやってきて、二人は家の玄関前でスマホを見つめた。玄関前の階段に座る。激しく家の中が汚いため、汚いとか思わなかった。

「お前んち、どんな感じ? なんかさぁ、母ちゃんがそこにいるのに、ずっと無視されててさ。なんか、思ったんだよ。最初に俺がゲームにはまってさ、一番最後がたぶん、母ちゃんなんだよ。

 母ちゃんもこんな気分だったのかなって。俺に無視されてさ、たぶん次が父ちゃんで。父ちゃんにも息子にも無視されて、とうとう母ちゃんもゲーム始めたんだろうなって、そんなこと思ったんだ。」

「……うちも、たぶん、そんな感じだと思う。それに、わたしも勇太の気持ち、分かるよ。最初はわたしも、そんなに本気じゃなかったんだよ? でもさ、唯ちゃんの方が先にはまっちゃってさー。なんか、話しかけても上の空になっちゃって。

 それで、学校行っても他の友達もみんな、あなただけ♡をやってるでしょ? なんか、わたしだけ取り残されるって思ったし、それに、寂しかったのもあると思う。そしたら、気づいたらはまってたっていうか。」

 しみじみと貴奈も同意した。

「あ、これ、本当ですかって、確認されるんだ。」

「たぶん、興味本位とかいるんだろ。」

 勇太は答えながら、はい、を押した。いくつか質問に答えていく。

『あなたは学生ですか?』

 はい、を押した所で貴奈が気がついた。

「これ、チャットになってるんじゃない?」

 そのようだった。チャットでも何でもいい。とにかく、二人は家族をリセットしたかった。夢から覚めて欲しかった。

「なんか、学校近くのゴムンで待ち合わせになっちゃった。本当に相手がいるんだね。何か実感沸かないな。」

「そうかな。チャーパー(Chirper・短い文章を投稿できるサービス)でも同じじゃん。ネットの繋がりって。」

「そうだけどさ、わたしが言いたいのは、言わば謎の組織じゃん。そんな人と本当に繋がっちゃったっていうか、そういうこと。」

 言いたいことは分かる気はした。確かに謎の組織だ。そんな人と接触する。確かに不安はある。でも、それよりも、勇太はおかしな現状を少しでも変えたかった。

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