気まぐれな旅人

マッキー

第1話 出発

少年ミド・クルスは町にある幼年学校に通っていた。

ミドは小さな村、ネラ村の出身である。周りの子供達は学校に通っていなかったが、ミドの家はそれなりに裕福だったので両親は子供のためを思って通わせていた。

ミドは

(学校なんかより村の皆と遊びたい)

両親の気持ちになんてどうでもよかったが。


ミドには才能があった。勉学の飲み込みは早く、運動もある程度は出来る。


だがある日、そんなミドに危機が訪れた。

それは『将来の夢を考えてくる』という宿題だった。


何を馬鹿なことをと思うかもしれないが、ミドにとってそれはとても難しいものである。ミドは無難に『父の仕事を継ぐ』にしようかと思ったが、それは自分のしたいことでは無い。しかし、だからといって何か思いつく訳ではない。ミドは変な所で拘っていた。


…いや、嘘をついた。一つ思いついているものがある。

だけど、

(こんなの絶対父さん達に怒られる)

ミドは自分に少なからずお金がかけられていることに気付いていた。そしてそれが、ミドに安定した職業についてほしいからなのだと言うことも。


「宿題はどんな感じだ?」


「まだ終わってないよ。」

父さんからの問に素っ気なく返す。


「なあ、ミド。将来の夢はちゃんとした職業にしないといけないとか、そんなことは考えなくていいんだぞ。」

「え?」


見透かされていたらしい。


「そうよ。お父さんだって昔は馬鹿やってたんだから。

ミド、私達はあなたがが幸せだったらそれでいいから。」

母さんが言う

「………わかった。もうちょっと自分に正直になってみる。」


「僕の将来の夢はこの世界を見て回ること。旅人になることです。」

                 ☆


旅をするために何よりも大事なものは、力だ。

他にもっと大事な事も有ると思うが、

父さんが

「力だ。圧倒的な力さえあればこの世の問題の九割は解決できる。」

そう言って引かなかったので、そうなのだろう。


後で、母さんに適当なことを言ってたとチクったけど。


まあ、この世界には魔物がいる。自分の身を護れる力があってメリットこそ有れデメリットは無いだろう。


取り敢えず、剣術を習おう。俺はそう思って両親に頼み込んで町の道場に入れさせてもらった。

そこで8才の頃から剣術を習った。

ちなみに流派の名前は、心剣流と言うらしい。


最初は誰にも勝つことが出来なかったが、次第に相手の動きが分かるようになっていって勝てるようになった。

飲み込みだけは誰にも負けないくらい早いからね。俺


同じ道場の人達が物凄く迫力のある目で見てたのなんて気にしてない。


嘘ついた。めっちゃ怖かった。だって皆に勝つ度に眼力が増していくんだもの。

ぽっと出のガキに負けるのがそんなに悔しかったのだろうか?でも、俺だって負けるのは嫌だったし…


そんなこんなで他には魔法の練習をしたり家の仕事を手伝ったりしながら時は過ぎていき、俺は15才になった。



「ミド、そろそろ行くのか?」

「もう少しこの村にいてもいいのよ?」


両親が引き留めて来る

この国では15才で成人した事になる。

十分強くなった俺は、ネラ村を出て旅をする事に決めた。


「……行くよ。それが夢だったからね。」

そう言いながら、名残惜しさを抑える。


「そうか、ならこれをお前にやる」


そう言って父さんが投げ渡してきたのは、1本のダガーナイフだった。


「俺が冒険者時代に使ってた物だ。ミドの戦闘スタイルなら邪魔にはならないだろ。」


そう言って父さんは快活に笑う。

目から塩水が出そうになる。


「えっ!…じゃあ私はこれを」


父さんに対抗するように母さんが渡してきたのは一つの指輪だった。


「これは何?」


「それは魔法の発動を補助する指輪よ。私が昔使ってたんだけど、もう使うこともないでしょうから。」


…………


「おいおい、泣くなよ。」


「泣いてない。」

泣いてないったら泣いてない。これはただのしょっぱい雨だ。


「じゃあ、そろそろ行くよ。こうやって話してたら、永遠にここに留まってしまいそうだからね。」

そう言ってぎこちなく笑う。


すると……

(っ!)

父さんと母さんが俺を抱きしめた。


しばらくして放されると、俺は頬はもう濡れてはいなかった。


「ミド、お前は俺達の自慢の息子だ。頑張れよ。」

「迷った時は自分の心に従うのよ。」



「じゃあ、行って来ます。」


「「行ってらっしゃい!!」」



おそらく俺はこの村に戻ることはないだろう。

両親と会話をするのもこれが最後だ。


それでも俺の足は淀みなく、この旅路の最初の1歩を踏み出した。
















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