第5話 プロローグ ラブコメじゃないです

 ……俺を?キノコ軍に?入れる?


 奴隷ってこと?



 いやでも、努力を評価するって書いてあるし…前向きになっていいやつなのか?



 裏には入団手続きがある。これをポストに入れれば、俺はキノコ軍に入団するのか…


 いや、別に拒否してもいいのか?


「ーーー」


 冷静になる。

 まず、入団すれば命の危険がある。これがデカい。何故死にに行かなければいけない?


「ーーー」


 考える。でも入団すれば力がついて生きていける可能性が…何をいっているんだ、自分は



 そもそも、俺はもう死んだって対して…

 …でも、タケノコ軍に殺されるのはやっぱ嫌だ。


 筋トレ、始めようか?


 


「ーーーーーーうおおおおおおおおおおおおあああああはああああ!?!!??わ?!!!!!!?!!!!!!!!!!!!!!!!、?!?!?!?!?」



 今年一番だと思う絶叫。

 信じられない。軍への入団っては厳しい訓練や資格が必要だ。それをハルは何もしていない。

 一級レイ 何を考えている?


 次に、あの時の一級の優しい顔が浮かぶ


 …でも、入るべきなのだろうか。命を助けられた。恩返しを、するべきだ。


 キノコ軍に入って、やるだけやって、死のう。戦う理由なんて無い。だから軍の人間とすれ違って、俺は孤立するんだろうか


 それでもいい。これはチャンスだ。そうチャンスなのだ。


 この曇の人生に、一か八かの大チャンス。


 引く理由は どこにもない





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おっねがいしまぁす!!!」


 一ヶ月後、ハルは最初の色々な手続きを済ませ。キノコ軍に入団した。

 文章にすると簡単に見えるが、手続きまでに実際に剣を持ってみたり、軍服のサイズを測ったり。

 何か訳のわからない物を書いたり。一ヶ月本当に大変だった。


 今の大きな声も一ヶ月の間に培った発声練習である。我ながら完璧だ。


 今の状況はこう。今日は新人が入団するひ。そのタイミングでハルも入団した。


 広いグラウンドのような場所に今日から入った新人が集められ、入学式みたいな物が開かれている


「え~今日は…」


 三級 パアワが前にたって歓迎の言葉を言う。

 が、慣れてないのかタジタジだ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 次は自分の部屋へ行く。キノコ軍は寮がある。

 皆はここで過ごし、タケノコ軍襲来にそなえるのだ。


「俺の番号は…115と」


「おい、そこは俺の部屋じゃねえのか」


「ふぉぁっ!!!」


 肩を掴まれる。まあまあの握力で

 振り返ると目つきの悪い同い年くらいの男がそこにたっていた


「あっあれぇ…?すみません!すみません!

 間違えてました!俺は114号室ですねははは!」


「……いや別にいい、同じ階級何だから敬語いらねえよ、気持ち悪い」


「でっでも…先輩でしょ?」


「お前年は」


「18…」


「おんなじじゃねえか」


「あ、やっぱり同い年…じゃなくて、でも軍にいた歴はちがうでしょ?俺は今日が初めてで…」


 敬語なのかタメ口なのかわからない。


「俺が入ったのも半月前だ。そう変わらねぇ」


 じゃあ、と言って115…隣の部屋に消えてく


「この人が隣の部屋で生活かぁ…怖い…」


 そういって114号室をあける。中にはベッドと壁に机が固定されていて、まあ、ホテルのような感じだ。


「綺麗…」


 それは当たり前だろ。と自分で突っ込む。

 ボロ家に住んでた自分にとって、ここは豪邸だ。


「ああ~ここでの生活、始まったなぁ…」


 精神的につかれた。


 その瞬間、ドアが叩かれる。


「あっ、、はい」


 ドアを開けると、謎の女がたっていた。


「あっ…あの!部屋、どういう感じにしたんですか?私も同じ新人で…どんなふうにしたのかなって…」


 

 何歳だろうか。明らかに軍に入るようなキャラじゃない美女が目の前にいる。

 この人、今から人を殺す勉強をするんだ。


「あ~…僕いま部屋に入ったばかりで…まだ何もしてないんですよね。」


 コミュ力が泣き叫ぶと思ったが、新人なら気が楽だ。普通に喋れる。


「そうなんですか?遅いですね、ふふ」


 うわあかわいい、この人タケノコ軍殺すのか

 そうだ。やっぱり出会いを大切にして、ここから何か一緒に行動でもするか?なら…


「そ、そうなんですよね、よければ部屋作り手伝ってくれませんか?」


「ーーーへ?」


「ーーーへ?」






 あっ



 やばい、という感情



「あっあいあいあいあ、違いますよ!なんか、出会いを大切にしようと思ってとっさに出てきた言葉がそれで、決して変な意味では……」



「…ふふ」


 だからかわいい。なんでこんな血みどろ臭い軍に萌えキャラが交じるのか


「いいですよ!手伝います!私、シズっていいます!これも何かのご縁です!協力しましょう!」


 えっ…俺のダサい服と、あと下着とかみられる?


「あっ…」


「あっ、服は自分でやってくださいね!」


「ふぁっへい!」




 ー同じ部屋に男女が二人。何も起きないわけがなかった。

 手をかざして自動で出る水道をハルが知らなくて

「シッ…シズさん!なんか水が止まらないんですけど!!!」

 とか言ったり

「この冷蔵庫、上と下でなんの違いがあるんですか?」とか言ったり


 それにシズは悪戦苦闘しながら教えた。教えまくった。


 気付けば

 ハルに現代社会を教えてばかりだった。


 二時間後



「…とりあえず。ハルさんの普段の生活水準がしれてよかったです。」


「はは…世界は便利だね…」


 なんとか部屋がまとまった。といっても、シズがほぼやってくれたが、物を自分の近くに置く癖があるハルは、シズの説教に焦りに焦ったのだった。


「まあでも、そんな人も楽しいです。」


「え?」


「私、兄妹が沢山いるんですよね。だから自分の周りにいろんな性格の人がいて…ハルさんみたいな変な人、ちょっと次男ににてましてして。」


「うぇへ…どうも」


 フレンドリーな性格の元はそれだったのか


「あと、その調子だと……普段食生活は?」


「えっ……あ~。朝に一度に食べて後は食べない感じ…お皿洗いたくないから…」


「ーーーー」


 ついに怒号すら飛ばなくなった。だって食費かかるのやだもん。貯金したいもん。


「じゃあ、私が今日は作ってあげましょう!」


「ええっ、マジですか!!」


「そうですよ!私の持ってる食料で、です!こう見えて、得意なんですよ!料理!あと掃除とマッサージと耳かきとお絵描きとごっこ遊びが得意です!」


 疲れた両親に、遊び盛りの兄妹たちによって培れたであろう特技が繰り出される。

 この人にマッサージされるとか天国かな?う~む



 ーそして色々あって、113号室、シズの部屋で料理が行われ、後ろでハルが机に正座している。


 最初はタダ飯ラッキーとしか思ってなかったが、

 女子の部屋で女子の手料理を食べるとは。嬉しいよりも気まずいくらいだ。


「はいいっ!できますた!」


 出てきた料理は超一般的で。超普通に美味しそうな米味噌汁野菜おかずだった。


 生まれて多分初めてこんなの食べる。


「ぅっうおおお、」


 思わず声が出る。ありがたいどころの話じゃない。これに何円かかってるんだ。普通外食くらいの料金かかってるんじゃないか?


「さーどーですか!凄いでしょー!」


「す、凄いです!まじで!初めて食べる!」


「あ、れ?へへ…そこまで言われる…ほど?」


照れた。かわいい。けど俺が照れさせたのか、この俺が、うえ気持ち悪い


「ま、まあ兎に角食べてくださいよお!」


シズも床に座り、食べ始める。


「う、うおおおお!?なんですかこれ!オイシィ!」


絶品である。絶対この軍にいないほうがいい。


「凄いでしょ!!ねえ凄いでしょ!!」


「はい!なんかもう普通の米なのに別のものみたいにおいしくて!多分初めて食べます!これ!」


「そうでしょー!!よく私が兄妹達に作ったんですよぉ~~!」


相当料理には自信があるらしく。自画自賛しまくる。そんな笑顔もかわいい。なんだこの人。


軍にいるべきじゃないだろ絶対


「ま、全員死んだんですどね」



「…………え?」



沈黙、それに気づかずシズは食事を続け、5秒沈黙が続いた後、シズが慌てて喋りはじめる。


「あっ!!うわあ…!ごめんなさい!つい口から出ちゃって!気にしないで!忘れて!本当に!」


「あっあ……っと」


ここで忘れて食事するやつがいるか


「何というか…誰かに向けてその事を話したくて、それで思わず言ったんだとおもいます…

はなし、聞きますよ?」


「うぇ…?」


それからシズは泣きながら言った。10人家族の裕福な家庭だったこと、3年前の戦争で3人死んだこと、2年前の戦争で兄妹が皆死んだこと、

今年の戦争で、皆死んだこと。一年鍛え続け、

タケノコ軍を恨み続け、ついに今日キノコ軍に入ったこと、死んだ次男を思い出して自分に話しかけてきたこと、これまでずっと一人だったこと、自分と話して心が少し報われたこと、一年ぶりに幸せな時間だったこと。


最後まで言う頃には、言葉を聞き取るのが困難なレベルだった。泣き声で埋め尽くされていた。

これが、彼女の心の中なのか。


「うぇぇぇええええ…会いたい…皆にぃぃぃ!」


半ばハルに抱きつくような形で、泣き叫ぶ。


しまった。言って終わりだと思ってた。言った先を考えてなかった。自分は最低だ。言わせておいて何も返さないなんて


何と返すのが最適だろうか……考える、考える


そうしてでた返答が


「じゃあ…せめて次男でも、思い出すために、俺に…会いに来て下さい」








「…………え?」


キモい 気持ち悪い、殴りたい、蹴りたい、吐きたい、吐かせたい!なんだそれ!俺は次男じゃないのに!俺が何でも救う 風にいって…


何を言ってるんだ俺は!?最低だ、気持ち悪い!不謹慎だ、人間のクズだ



「ふ…ふふっ」


だが、シズの返答は


「はは!ははは!キモい~!!

ぎゃははははっ!」


それまで涙していたことを忘れるほど笑ってくれた。


「じゃぁー これからもハルさんに、甘えさせていただきますね?」


「はぁっ………!はい………!次男の変わりと思って見ていただければァっ……!」


「ハル さんに、甘えさせていただきますね?」


「えっあ…はい。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


初日から凄い出会いをしてしまった。10人家族が自分以外全滅したなんて、なんて壮絶な話だろうか。


タダ飯の事を考えていた自分が馬鹿みたいだ。

まあ、あの人が変わるきっかけになってくれたのならよかった。


これからも、いい関係を築いていけたら













そのうち、眠りについた。

人なんて、少し突けばすぐ消える。



ハルはまだ知らない、ここは交流の場では無いことを、明確な命のやり取りをする場所ということを


血で血を洗う世界だということを



何もかもすべてが、報われない世界だということを



まだ、何も知らない

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