タケノコの里とキノコの山

みんと

第1話 プロローグ タケノコの里とキノコの山

 狭い家に日があたり、一日が始まる。うめき声を漏らしながら彼…ハルが布団から出てくる。眠い。とても憂鬱な気分だ。だってそろそろ、戦争が始まるから

「散歩、いきますか…」

 歯を磨き、質素な服を着て日課の散歩のために外に出る。太陽の光が「何だお前」といっているようでとてもつらい

 でもそろそろ最後の戦争から一年がたち、また始まる。頑張って歩くか…




 ここはキノコ村。ここに住んでる人間はキノコ族とよばれる。ここは隣の村のタケノコ村に食料を奪われたり、人を連れ去り使い捨ての奴隷にしたりと散々な行為をされている。そしてニ年に一度、タケノコ軍が「不死鳥様に命を」という大声をあげ、キノコ族を殺そうとしてくる。戦争だ。

 これを黙ってみているわけがない。キノコ族も「キノコ軍」を作り抵抗をしているが、あくまで抵抗に過ぎない。キノコ村は搾取されるだけの残念な村なのだ



 右、左、橋、真っ直ぐ、家

 半ば機械的な動きで散歩をおこなう。散歩を始めたきっかけは約一年前の戦争だった。瓦礫に足を取られ死にかけたのだ。力ずくで足を瓦礫から出し逃げたが、死ぬ

 というのは本当に恐怖だった。足腰を鍛えるために散歩をしているのである

 しかし、ハルは最近散歩を辞めようとしていた。

 一つ目の理由は自分が死んでも悲しむ人がいないこと

 ハルの親は物心がつく前、タケノコ軍によって殺された。だから身寄りなどいないのだ

 2つ目の理由は、見たくないものをみてしまうから

「あっ……」

 見てしまった。右目を揺らすと、キノコ軍とタケノコ軍が揉み合っている。タケノコ軍がキノコ軍の一人を殴る、続いて蹴る、周りにいる市民、自分もだが、もちろん見て見ぬふりだ。

 タケノコ軍の隣にはキノコ族が作ったであろう食料が荷車に積まれていた。奪われるのだろう。

「タケノコ…戦争のとき以外は殺しはしないんだよなぁ…」

 ハルはそうつぶやく

 タケノコ軍はさっき行った通り年に一度戦争に来てキノコ族を殺す

 でもその時以外は殺すようなことは絶対にしないのだ。不気味でしかたがない

「帰るかな…」

 この光景をもう見るのが嫌だった。3日連続で見ている。18歳になった今は少し、人が傷付くのを見るのが楽になってきた。でもやはり見ていて気持ちのいいものではない。もう散歩なんてやめてしまおう。そう思ったその時だった



「襲撃開始 ー不死鳥様に命を」



 18回目の戦争が始まった。





 ・




 それが戦争の合図だと気付くのには時間を要した。困惑の表情を見せる周りのキノコ族に向かって、影に潜んでいたタケノコ軍が突撃してくる。

「ぎゃあああああああああ!?!?」

 一般市民の叫び声に反応してキノコ軍が助けるために走る、だがそれが届くわけもなく市民は剣で惨殺される

「ぎゃははあ!おっくれたなぁぁ!」

 タケノコ軍がそう叫ぶ


モブは何を言っても死ねば許されるもので、叫んだタケノコ軍をキノコ軍の一人が首を跳ねる

 混戦は8秒ほどで村全体に広がり、キノコ軍の本部からぞろぞろと人が出てきた

「まだ朝だろうが!くそっ!」

「遅かったね、とりあえず配置につけ」

「分かってるぜイアン!東はまかせた!」

 二人の男女がそう言い合う、男は軍服に赤色のバッジを着けていて、女の方は青色だ。

「うわぁ…!上級だ!」

 物陰に素早く隠れてやりすごしていたハルは、そう小さな声で叫ぶ。あの二人は上級と呼ばれ、キノコ軍を統率する人物たちだ。生で見たことは殆ど無かったので、こんな時でも驚きを隠せない

「三級のパアワ、二級のイアン…すごい…」

 そう独り言をいったあと、自分の置かれた状況に気づく。自分はいま戦争のど真ん中にいるのだ。少し見つかれば殺される。

 こちらに来るキノコ軍に紛れ、シェルターに向かう。もう慣れたのだ。冷や汗は出ても顔に焦りは見られない。一般市民なのに、我ながら洗礼されたものだ





「出動!!!」

 黒いバッジを付けた女性にのキノコ族が叫ぶ。彼女は一級の

《レイ》キノコ軍最大の統率者だ。

人間とは思えないスピードで駆け回り、襲われた市民を助けながらタケノコ軍を斬り殺す。

「何がしたい!タケノコ族ッ!」

彼女は戦争があるたびにそう叫ぶ。返すものはいない

。いるとすれば

「不死鳥様に命をおおおおおおおおおおおお」

という訳のわからない叫び。くだらない。不死鳥とはなんだ。

ある程度始末したとこで、レイは耳元のボタンをおし

仲間と通信する

「レイだ!そっちはどうだパアワ!!」

『順調っちゃ順調だが…数が多い!なんか!!』

「分かった!そっちに何人か送る!イアンは!?」

『順調ぉ!』

「っし!」

順調順調同じことばかりいって、少しは具体的に説明してほしいのだが。そのとき前方に轟音がした

「……ッ!お前は…アデル!!!」

「おはよう御座います。良い朝ですね。私達にとっては」

「……っ」


前方にいたのはタケノコ軍の二級と言われる人物

名前は<アデル>と呼ばれている。整った顔立ちとれいてつな声、紳士的な振る舞いが特徴だ。

彼は二級。こちらは一級。力の差は多少開いている

レイはアデルへ突進する。まるで忍者のようなその動きに、アデルは安々といなした


「お前たちのこれは…何が目的なんだよ!」


「不死鳥様に命を捧げるためです。あなたは見るたびにそういってますね…」

「いつか聞けると思ってるんだ!!!」


素人から見ればお互い剣を振り回しているようにしか見えないが、2人の剣は一寸の狂いも無いと言って良い太刀筋だ。周りにいるキノコ軍、タケノコ軍も恐縮してその場を避けるように戦う。それをレイは見逃さない。アデルと戦いながらも横を通るタケノコ軍を殺す


「タケノコ軍にも命があることを知らないのでしょうか。いま殺されたのはニグという人物で、若くして…」


「お前らが!!殺しにくるから行けないんだろうが!誰が殺したくて殺してると思ってる!!」


「正当防衛 ですか。では、シェルターにいる命は助

けられるでしょうか」

「は?」


脈略がない


アデルが意味の分からない事を言う。シェルターの場所はタケノコ軍に知られないよう最善の注意を払っているが、何故…


嫌な予感がしたレイはアデルを振り切り、シェルターのある場所に向かう。追ってこられてシェルターの位置がバレたら不味いと思ったが、アデルは追ってこなず、その近くにいたモブのキノコ軍を殺し回る

「ーーレイさんに手間をかけけては効率が悪いのでね…」




ここはシェルター。ハルは端で縮こまっている。

朝方の急な襲撃で混乱が広がっており。いつものことではあるが泣き声が耐えない。それを見ていると家族がいないことも家族を作れるような男じゃない自分も虚しくなる。正直、もう生きていなくていい、頭の中の小さな考えが強まる。


周りにいる人達に比べて、自分というのは何と生産性の無い人物だろうか。もしも、命を使って眼の前で泣いている子を救えたりでもしたら、一石二鳥だろうか、……いや、それは泣いている子の親の仕事か、自分が関わるのはおかしい…か


「へいへいへいへいへーーーーーーいwwww」


甲高い声が響く。シェルターの入口から聞こえたその声は。タケノコ軍3人による物だった。胸元には緑色のバッジをつけている。新人だ。でも刃物をもっているから市民にとっては大ボスだ、というか負け確だ。

「なんで…シェルターの位置がバレてるんだよ!」

思わず叫ぶ。死ぬ事を考えていた矢先にこの発言は痛々しい。


その声のせいで、周りにいた市民が腰を抜かす、逃げ場がなくて泣く、手を挙げて目をつむる、中には下半身を丸出しにして女性に襲いかかる男もいた。全員共通してるのは、もう終わった。それだけだ。

と思った瞬間、タケノコ軍の背後からキノコ軍が剣を突き刺す。後ろからつけていたらしい。


「!!!」


市民から歓喜の声が湧き上がる。この街には第2シェルターがある。生への執着が湧き上がったそのとき、シェルターが崩れ始める。外のタケノコ軍がシェルターを叩いているらしい。壊そうとしているのか、みんな

必死で第2シェルターにむかい逃げる、シェルターが崩れ始め始める。瓦礫に潰され目の前で人が死ぬ。一瞬叫びそうになるが抑える。走る、走る、とにかく走る。だが次の声を聞いた瞬間、その足がとまった

「んえええええ~!」


この声は、先程眼の前にいた子だった。家族は皆死んだらしい。この子一人で逃げられるわけがない、助けようにも距離が遠い。助けに行けばどちらも死ぬ、助けにいかなければあのこだけが死ぬ。今からどうするか答えは一つ、見捨ててにげること、だが


ーー命を使って泣いている子を救えたりでもしたら、


先程の考えがよぎる。もう、自分など、死んでもいいのだ。だが、どうせ助からないどうせ……


次の瞬間足が動いた、子供へ向かって

どうしてそんなことをしたのかは分からない。おそらくは承認欲求だろう。こんな人間でも人を助けようとした、自分はいらなくない、たとえ無意味でも自分はこのよに必要。そんな欲求を証明して死ぬために、走ったのだ。


子供のもとに駆け寄る、子供が泣き止み、自分へ抱きついてくる。以外と人間は重い、抱えてはしりたいが

そうもいかない、この子の期待に答えなければ、 

「おぉっ!おお!おかあざんがあああ!!!!!!ぱぱもおおおおお」

「えっ…あっ~あ」


大人なら何でもやってくれる、成し遂げてくれると思ったのだろう❨自分は18だが❩8歳のころ、12歳が大人だと思っていた時期があった。でも12歳になると、12歳何でまだまだ子供の中の子供だった。そんな経験をしたことがあるだろう。

こういうとき掛ける言葉はなんだ…と思っていたとき


瓦礫が上から落ちてきた。


あっ


死んだ


そう思った。死“ねる“とも思った。でもやっぱり死ぬのは怖くて 


「んぎゃあああああああああああああああああああああああああああ」


抱えた子よりも大きな情けない声を上げて、目を閉じた

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