第2話 汝は人間なりや?

 ソレを私が見つけたのは、地面に横たわった男にとっては幸運だったのかもしれない

 ジャムに使う木の実を入れていた背負いカゴを下ろして、男の首筋に指を添える。

 ほんのわずかに動くそれを感じてから、足に力を入れて持ち上げる。

 パキンという折れた音を響かせた足元など気にも止めずに男を背負うと、たいして物も入っていなかったカゴの背負いひもを持って村へと向かった。


 太陽が、まだ空の真ん中を横切っていた。



 うぅ・・・と呻くような声に、本を読んでいた私の目がベッドへと滑る。


 目線の先ではさっきの男が頭を押さえながら体を起こしていた。

「ここは・・・」

「私の家よ。森の中で倒れてたから、連れてきたの・・・体の調子はどう?」

「あぁ・・・大丈夫です。」

 背中から入る夕焼けが照らした顔は、とても線が細く、整っていた。

 この村の男衆は粗野でがっちりとしたものばかりだから新鮮だ。

「助けてくれてありがとうございます。」

 男は頭を下げながら言った。

 上げた顔で、仕切りに何かを探しながら男は続けた。

「それで・・・私の荷物は。」

「ベッドの脇よ。」

 辺りが暗くなってきたから、近くのランプに火をつけながら言う

「近くに転がってたバッグパック。あなたのよね。」

「あぁ、これです。命だけでなく荷物までありがとうございます。」

ベッドの横を見て男が言った。

男は、そのまま荷物を漁り出す。






「中に入ってた銃は折って捨てたわ。側面にいろいろ刻んであった、銀の弾丸もね。」

羽織っていたマントを脱ぎながら、なんでもないかのように言えば、男の動きがギクリと止まった。







窓の先で、満月が昇り出す。

 本に添えた手が、指が毛深くなり、爪も合わせて細く伸びる。

  座ってた椅子がギシリと音を鳴らし、私の脚も同様に太くなるのを伝えた。


   伸びたマズルが男の臭いをより強く感じる。私たちが嫌いな玉ねぎの臭い。


    色の薄くなった視界には、苦々し気に顔を歪ませる狩人の顔があった。




「あなた、人間でしょう?


ようこそ、人狼の村へ。」

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