第30話 雪野が目指すこと


 や、やりたいって……一体なにを……?


 雪野は真剣な眼差しで俺を見つめて来る。


 や、やりたいこと……か。


『温森くんと……楽しいこと、ヤりたいな♡』


 あざとく笑う雪野の妄想が脳裏に浮かぶ。


 ……い、いや、それはないない!


 刹那的によこしまな事が浮かんだことは言わないでおこう。


「あのさ、雪野がやりたいことって……?」


「わたし……温森くんと一緒に"部活動"やりたい」


「ぶ! 部活!?」


 雪野は突然『部活がやりたい』と言い出した。


「ちょ、ちょっと待て。何を急に」

「わたしたちの二人時間は、わたしの病気のためって名目でやってるけど、きっと部活動にもなると思う」

「何で急にそんな提案を……」


 俺は雪野が楽しんでくれてるだけで、この二人時間には意味があると思っていた。

 病気に関してもこの活動を通して力になれればと思っていたが……雪野から部活動にしたいなんて言うとは思ってもみなかった。


「わたし、部活動が……ずっと憧れだったから」


 そうか……雪野はこれまで普通の学園生活をしたことが無かったんだっけか。


 雪野にとって、部活動が憧れだったのか……。

 万年帰宅部の俺には考えられないが、俺にとっての当たり前が、雪野にとっての当たり前ではないことをしっかり理解しないと。


「……分かったよ。じゃあ俺たちの活動を、高校の部活動として認めてもらうために少し頑張ってみるか?」

「ほんと?」

「だって雪野は、この二人時間がナルコレプシーのためだけじゃなくて、部活動としてもやってみたいんだろ? それに部活にした方が色々と高校公認でやれることも増えそうだしな」

「高校公認でやれること?」

「ほら、部室がもらえたり部費がもらえたりするだろ?」

「部室……っ!」


 雪野は強い反応を示す。

 惹かれるのが"そっち"なのが金持ちらしいというか……。


「二人で部活、やりたい……二人時間部」

「な、なんだその名前」

「とても良き……センス◯」


 俺からしたら△なんだが。


「明日一緒に生徒会に行こ?」

「そう簡単に行かないと思うが……まぁ、やれるだけやってみるか」


 こうして俺と雪野は俺たち二人の時間を部活動にするために動き出すのだった。

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