第29話 夕焼けに染まる天使


 たい焼きを食べ終わると、また谷中銀座を歩き出す。


「ちょっと食べすぎちゃったかも」


 あれだけ食っておいてちょっとという感想が出る天使は彼女だけであろう。


「まだ食べるとか言わないよな?」

「言いたいところだけど……お母さんから食べ過ぎ禁止令出てるから」


 もうその禁止令ぶち破ってると思うのは俺だけだろうか?


「お母さんと約束したんだな?」

「うん。今日のわたし……ちゃんと守ってエライ」


 おーい、違反しまくりで追放ものだぞ。


「今日は結構歩いたね? 少し疲れたかも」

「そうか。まぁここがゴールだったし、ここからは日暮里駅から高校まで戻るか?」

「本当は歩いて来た道戻りたかった……」

「無理すんなって。それより眠気の方は大丈夫か?」

「うんっ……大丈夫」


 本当にお出かけ中は眠くならないみたいだ。

 この前も浅草も含めると、俺とのお出かけ中は数時間くらいナルコレプシーの症状が見られていない。


 歩いたら疲れるし、食べ歩きしたら満腹になって眠気が来ないか心配だったが……意外と雪野は体力があったし、眠くもなさそうだ。


「あ、雪野。二人時間の記録を残したい所があるんだ」

「写真を撮りたい場所ってこと?」

「ああ。すっごい綺麗な場所なんだよ」


 俺たちは誘惑だらけの商店街を通り抜けて、日暮里駅方面の門へ到着する。


「目的はこの先にある階段なんだよ」

「階段?」


 俺は谷中銀座の門の先にある階段を指差す。


「ここは谷中銀座の象徴といえる『夕やけだんだん』っていう、夕日が綺麗に見れるスポットなんだよ」

「夕やけだんだん……?」

「階段を登ってみれば分かるよ」


 俺は雪野と一緒に階段を登り切って振り返る。

 すると目に飛び込んだ茜色の夕日。

 そのサンセットがノスタルジックな谷中の街をさらにノスタルジックな光景にさせて、初めて見るのに懐かしいと思わせる。


 こんなに景色に夕陽が溶け込んで美しく映えるスポットは、東京には珍しいと思う。


「なんか……落ち着くね」

「ああ」


 雪野は階段から夕陽を見て優しく笑った。

 そうだ……写真。


 俺はスマホを取り出すと、雪野にカメラを向ける。

 サンセットをバックに夕やけだんだんの上から谷中銀座に目を向ける天使。


「……綺麗だな」


 カメラに収めたのが奇跡のように思えるほど、この写真は撮りながら自分でも感動してしまっていた。


「温森くん……」

「写真、撮れたよ。ありがとう雪野。これで今日のお出かけは終わりだな」

「うん」


 どこか寂しそうに頷く雪野。

 まぁ、名残惜しい気持ちはわかる。

 俺ももう少し雪野と一緒に街歩きしたかった。


「……ねぇ、このお出かけをしてて、ちょっと思ったことがあったんだけど」

「ん?」


「一緒に……やらない……?」


「え?」

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