0008 痕跡の追跡
「うーん…良い案だと思ったんだけど…」
恐らく一番音を上げるのが早いだろうと僕の予想していたエリーが机上の用紙を巻き上げながら倒れ込む。そして腕をじたじたしだしたせいで部屋がやや騒がしくなった。
「名探偵つまんなーいーっ!!」
「名探偵さんならこの僅かな情報からでも手掛かりを見つけるものじゃないのか?」
「判ってないわレシュノン君!そういう小さな手掛かりを本で見つけるのはいつも助手の方なんだからっ!
はっ!?つまりシノが全部悪いって事じゃない…っ、これが名探偵の勘っ!?」
「…悪いのは少なくとも、この状況を作り出した元凶の方だと思うけど。」
僕は言いがかりを付けて来る微少女聖女迷探偵オーレリアの言葉をテキトーに流しながら作業を続けてると、横からクゥの抑えた笑い声が聞こえて来た。
「っふふ…あ、ゴメンナサイ。
…でもエリちゃんとそこまで親しい会話が出来るのってシノちゃんくらいですから、やっぱりエリちゃんの人を見る目は確かですよねっ」
「親しくなんかな…」
「そうでしょそうでしょー? シノったらこれでも、2人っきりの時はべったべたに甘えてくるんだからね?」
「うぇっ!?そうなんですか!?」
いつものように調子づいたエリーは僕の言葉を遮ってありもしないことを言い始めたので、僕はポケットからあるものを取り出しながら口を開いた。
「な訳無いだろ…だったらさっき二人で校舎内を見回っていた時の音源でも今、聴こうか?」
「えっ!なんで、いつの間にそんなことを!?」
エリーはまるで僕が犯罪者みたいに詰め寄ろうとして来たので、その顔を押し退けながら彼女に負けないよう声を張り上げた。
「この異常事態でちゃんと情報を聞き逃さないように念のため録音を掛けておいたんだ。
…でも君の証言を確かめるには、丁度いい機会なんじゃないか?」
「あーっ!ダメなんだからっ!ダメったらダメ!返してっ!」
「元々きみのじゃ無いだろ!」
エリーが僕の手元にある小型レコーダーを奪おうとしてくるので椅子から立ち上がろうとすると、人の目もはばからず彼女は僕に抱き着いてそれを止めようとしてくる。
こんなでも聖女なので僕はコレを蹴り飛ばすことさえ出来ず、どうにかこの場を凌ぐ方法は無いかと辺りを見回すと…。
「ミハエルが!」
「え!?」
「あ…」
偶然ミハエルがこっちを見ていたので僕はエリーの意識を彼女に向けることで気を逸らせて、その内に用意しておいたダミーを窓の外に向かって放り投げる。
「あーっ!?」
…よし、バカがっっ!!!
窓辺から首を出して外に飛んで行ったものを眺める素っ頓狂な声のエリーを見て僕は内心、スポーツマンが自己ベストを更新した時に引けを取らないガッツポーズをした。
そしてミハエルに振り返ると僕はまるで何事も無かったような素振りで彼女にさっきの話を続けた。
「ミハエルのその分けてある用紙はどうしたんだい?」
「これは…えっと。……その前にアレ…大切なものじゃ、無いの…?」
「そうよシノ、誤魔化さないでよ!ゴミじゃ無くてもポイ捨てしちゃダメなのよっ!!」
「エリー、煩い。」
「…っ、うぇえ…シノが怒ったぁ…!クゥちゃ〜ん〜〜…!」
「ああ……もう、駄目じゃないですかシノちゃん。ここまで意地悪すると、後で拗ねてからが本当の面倒になるんですよ…?」
「今はそれでも良い。僕らがバカやってる間、こうしてミハエルは真面目に作業を続けてくれていたみたいだからね。
…不真面目で嘘吐きな誰かよりは彼女の方が優先されて然るべきだろ?」
「シノの言うことは真っ当だけど、そんな言い方してると嫌われるんだから………私にっ!!」
クゥに抱き着いたまま涙目で訴え掛けてくるエリーに、なんで僕の方が謝らなきゃならないんだと少しだけ思いながらも。
僕の方も強く言い過ぎたと、そこだけは本心で謝りエリーに赦して貰ってから、全員でミハエルの見つけた手掛かりらしき紙を覗き込んだ。
「えっと…なになに…『雨の降ってない日に突然雷の響いたような音がした』…うん?」
「これ、怪談話じゃないですか!?」
「怪談話って言うより、これはクゥの仕業なんじゃと僕は思ったけど…」
ミハエルが分けて纏めていた用紙に書いてあるのはどれも、この学校で起きた不可解な現象に関するものだった。
そのできごとがいつ起きたのかもついこの数日の話だったり、昔のものでは一年以上前と思ったよりもこの学園での異変は身近なものらしいことが分かる。
まぁ…目の前にいる同級生が異変扱いされているかもしれない現状では、何が異変と言われてもおかしくないような気もするが。
「レシュノン君、これなんかどう?…『夜中の学園で怪物の咆哮が聞こえた』!」
「どうせ夜勤の先生がいびきをかいてたってオチじゃないかなぁ…」
「なんでそんな夢の無いこと言うんですか!?」
「え!…クゥもそっち側なのか!?」
「…怪物、おっきかったら戦い甲斐がありそう…!」
「ああ……」
ダメだ、四人中の二人が戦闘狂じみてるせいで収集を付ける役が僕しか居ないぞ…。いや、四人中の三人が向こう側ということは向こうの方がまともな感性だと言えてしまうのか…?
「じゃあ今度はこれねっ!『誰もいない音楽室からクラシック音楽』が鳴った!」
「あー定番のやつですねーっ!」
結局、その日は生徒から集まった様々な情報を確認している内に日が暮れた。僕はこんなよく分からない空間でも日が暮れるのかとも思ったが、そもそも昼間の光源からしてどうなっていたんだ……?
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