Alternation End~最強の勇者は過去を変える~

たかてぃん

第1話 奇跡の二人

「勇者様方の帰還だぁぁぁぁ」

「カノン様ぁぁぁ!!!」

「ミュラ様よ!可愛い!」


民衆の大歓声の中、二人の男女が馬に乗りゆっくりと凱旋する

城のギリギリまで集まることを許された民衆は勇者二人の帰還を大いに歓迎した

彼らは不可能と言われていた魔王アルバレスを討伐し世界を救ったのだ


「カノン、ミュラ、二人ともよくやってくれた」


二人の前には護衛を引き連れた一人の男性が歩み寄ってきた

カノンとミュラは馬から降り、片膝をつく


「エイシェト・ヌニム様、ただいま魔王討伐から帰還いたしました」

「うむ、勇者カノンよ貴殿の剣でよくぞ憎き魔王を屠ってくれた」


カノンは、王の言葉に深く頭を下げた


「賢者ミュラもその魔法でよくぞ魔王軍を退けてくれた」

ミュラもカノン同様に頭を下げた


「ヌニム様、ここではこれくらいにしてこの後は王座の間で」

「おぉ、そうだな、うれしくてここまで来てしまったが、正式な式典はこの後行わせていただく」


カノンとミュラの二人は再び頭を下げて、王を見送る


「勇者様方、お疲れのところ申し訳ございません。すぐに式典をしたいとヌニム様より承っております。王城の客間でお待ちいただければと存じます」


二人は王の従者に従い、客間へと向かう


「では、いましばらくの間このお部屋でお待ちください」


従者は二人を客間へ案内し、部屋を後にした

豪華できらびやかな部屋にあんなにされ、ようやく息のつける時間がやってきた

カノンは、従者がいなくなるとふぅと息をつき、ソファに腰を掛ける


「よぉ~やく、終わったぁぁぁ」

「カノン、いくら誰もいないとはいえ、そんなだらしない姿はいけないわよ」


一気にだらしなくなった、相棒に向かい𠮟咤する

カノンはその姿を眺めていた

その姿はきれいな長い髪、華奢で整ったスタイルはこの世界で一番飾られた部屋すらも額縁としてしまうほどだった。


「ほんと、性格さえよければ結婚相手も引く手あまただったんだろうn…ひゃう!?」

「何か言った?」


ミュラは得意の氷魔法でカノンの背中に氷を潜り込ませる


「すみませんすみませんすみません」

「縁談なんてたくさん来てるから心配は無用」

「来てても結婚まで行けなきゃ来てないようなもんだろ」


カノンは服に入った、氷を出しながらミュラに伝えるが、

ミュラが睨むと脊髄反射で土下座をする


「はぁ、断ってるのよ。相手も私以上に強い人でないと…でないと…」


ミュラのいわんとしていることはわかる

魔王を退けたといえば、世界各国から刺客を差し向けられる

自分だけならいいが、相手を守れるか

答えはノーだ

どんなに圧倒的な力を持っていようが、自分がいないときに相手を守れるか…


「悪い、いやな話しちゃったな」

「大丈夫、それは覚悟の上だったし」


しばらくの沈黙の後、カノンが口を開く


「逆に言えば、自分より強い相手だったら」

「え…?」


再び沈黙が流れる

長く、深い沈黙が…


しかし、二人の口が開く前に部屋のドアがノックされる


「お待たせいたしました。式典の準備ができましたので、お向かいに上がりました」

「行こうか、ミュラ」


カノンは、表情を引き締め王の間に向かう

長く広い廊下を歩いている最中、カノンは魔王討伐の旅のことを思い返していた

17歳からの5年間、天啓を受け王城に呼ばれた日、初めてミュラに会った

見ず知らずの女性との旅、初めはいざこざもあったり、ケンカもあった


いくつもの戦い、時間をともにしていく中で芽生えた安心感

その思いが恋心と気づくのに時間は不要だった

すべてが終わった後に愛する人とゆっくりと生きていきたい

初めてできた夢


「もうすぐでございます」


案内役の声でカノンは記憶の底から帰ってきた

気づいていなかったが、目の前には大きな扉が現れていた


「さぁ、お二方、中へ」


大きく、厳かな扉は開かれ二人は仲に招かれる

開かれた扉の先には大勢の人たちで溢れかえって…


…いなかった


中にいたのは王とその従者二人のみ


「これは…」

「さぁ、こちらへ来られよ」


ヌニムの声に従い二人は警戒しながら近づく

なぜ、誰もいないのか、なぜ、式典がこんな帰還直後にあるのか

疑問は降って湧いてくる

だが相手は国王である。従わないわけにはいかない


「カノン…」


ミュラも不安を隠しきれていない

無意識にカノンの服をつかみついて歩く


王の前まで続く長く不穏な時間

魔王と対峙するときとは別の恐怖を感じながら歩みを進める

額には汗がにじむ

得体のしれない恐怖に体の中から鼓動が大きく聞こえる


「二人ともよく来てくれた、そして、ありがとう」

「…」


ヌニムは手に持つ物を見る


「これが魔王の心臓らしいな」


その指輪は帰還前に魔王討伐の証明として、王都に送った魔王の心臓だった


カノンとミュラは何が起きるか一瞬で理解した

王の愚行を止めるため、全力で距離を詰めるが間に合わなかった


ヌニムは静かにその心臓を飲み込む


「これが魔王の心臓か…力が…力がみなぎる!」


ヌニムから禍々しいオーラが溢れ出る

そして、魔族の証である角と羽が現れる


「王よ!魔王の力に当てられたか!欲におぼれたか!ミュラ!」

「わかってる」


ミュラはカノンの言葉の前に魔法を展開していた

~第十階層魔法 聖霊降臨~

召喚された聖霊はヌニム向かって進む

…が全てを打ち消される


「噓…」


魔王相手にも通った魔法がいとも簡単に打ち消されたのだ

ミュラは言葉を失った

ヌニムは、右手に黒くよどんだ力を溜める

そしてその力を開放する

~覇道のレクイエム~


「ミュラ!」


ミュラに向かう黒き一閃

その間に割り込むカノン


「来い!聖剣 干将・莫耶かんしょうばくや!」


自身の持つ最強の聖剣を召喚し、それを防ごうとするがヌニムの力の前には無力だった

聖剣の力もヌニムの力の前には赤子同然であった

聖剣をはじかれたカノンは大きな扉に打ち付けられる


「カノン!」


ヌニムを睨むミュラは湧き上がる疑問を投げかける


「魔王の力を得たとしてもその力は…あなたの力は!」

「フハハハハ!賢者ともあろうものが知らなかったのか!魔王の心臓は喰らった物の力を蓄積していく、前魔王より強くなるなど当たり前だ!」

「それでもそこまで強くなるなんて!」

「当たり前だ!貴様らは分かっていない!王というものは知力、筋力、魔力、運、権力、全ての力を持ってこその王なのだ!元から強いものが力を得たらどうなる?」


国民はおろか、この場にいる二人ですら、王の力を推し量れていなかった

それもそうだ、王にあったのは出立前、その時の二人では力を推し量れるわけもない

加えて、王というのは守られるべき存在という認識だったからだ


「力…の根源は…分かった…だがその力を得て何をする…」


痛みを押し殺して立ち上がる一つの影があった


「カノン!」

「さすが勇者、立ち上がるか」

「王よ、あなたはすでに力を持っていた…それ以上の力をなぜ欲する」

「簡単なことよ、魔王を打ち滅ぼそうとこの世は戦乱

力を持たない国は淘汰され吸収される。この国は強者として君臨し世界を統べなければいけない」

「そんなことのために」

「いくらでもさえずっておれ、無駄な正義感は時に悪となる。貴様らは必ずここで始末する」


~第十階層 天使の輪唱~ 


魔王とのやり取りの中、ミュラが魔法を高速展開していた

ミュラの魔法で、カノンの傷が癒えていく


「ありがとう、ミュラ」

「無駄なあがきを、圧倒的な力を前に無駄なことくらいは理解できるであろう!」


終始静かなミュラだったが、彼女の眼には覚悟の光が灯っていた

一つの指輪を持って


「まさか…やめろ!ミュラ!!!」

「悪を滅ぼすには悪の力しかないのよ」


ミュラが持っていた指輪は魔王がしていた指輪

力を得れるもう一つの物

王さえ知らないもう一つの真実

カノンの静止を振り切りミュラは指輪をはめる


「何をしておる」


ヌニムは、もう一度力を溜め始めた

だがその時にはミュラは…


「今度こそ消え去れぇぇ!」


~第階層 堕天の挟殺~


ヌニムの黒い一閃はミュラの放つ全てを黒い影に飲み込まれる

先ほどまで手も足も出なかった力を飲み込む


「…力は、なんだその力はぁぁぁ!!!!」

「この力は堕天の力、あなたを倒す力よ」

「くそがぁぁぁぁ!」


ヌニムは再度同じ魔法を繰り出す

だが、焦りから精度も練度も悪い粗悪魔法


~第階層 堕天の叡智~


今までミュラの使っていた第十階層魔法が世界最高峰の魔法であった

だが、ミュラはそれを凌駕する魔法を軽々と放つ

そんな魔法を前にヌニムが勝てるはずもなく…


ミュラの放った魔法は全てを飲み込む黒き閃光

ヌニムは成す術もなく儚く消え去る


「ミュラ…」


ヌニムを倒したが一抹の不安が残る

堕天の力に支配されたミュラはどうなるのか


「カノン…」

「よかった…ちゃんと自我は持っているんだね」


安堵した次の瞬間、カノンは地獄に突き落とされる


「カノン…私を殺して…」


その言葉に心臓がキュッと握られる

胸が苦しい

なぜって、目の前にいるのはミュラの姿をした別のものだったからだ

目からは光が消えかつての面影も消えていた


「ミュラ!!!!」


もう言葉はミュラに届いていないようだった

ミュラだったものから再び魔法が放たれようとする


~第階層 終焉の奇跡~


全てが終わったその瞬間、魔法が止められた

いや、自らの意思で止めたというのが正しいだろうか


彼女からは言葉は発せられていないが、確かに聞こえたのだ

『私はカノンを愛しています。最後はカノンの手で』


「俺も愛してた」


葛藤する時間などない

ミュラがくれた最後の時間、最後のチャンス


「顕現せよ、最強の矛 村正」


現れた矛を握り、力を溜める


静かなる一閃


その矛はミュラの胸を貫く


「カノン最後の聞いてくれたんだね…ありがとう、あなたと会えてよかった

本当はずっと好きだった」

「俺も君とここで初めて会った時からずっと好きだった」

「ふふ、やっぱりわかってなかった、私はもっと前…か…らす…」


最後の言葉を言い切る前にミュラは霧散した


「馬鹿…最後のはずるいだろ…


屋根でも壊れたか?雨下降ってきたな…」


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この事件はすぐに報じられることになった

元凶は賢者ミュラ

魔王の力を身に纏い反逆を起こし、王を暗殺

勇者は新たなる魔王を倒した真の勇者としてさらに讃えられた


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数か月後

カノンは人里離れた丘にあるミュラの墓の前にいた

墓といってもそこには何もない

ミュラの亡骸は残らず、全てが消え去ったからだ


「ミュラ…もう何もなくなってしまったよ」


誰も何も答えない静かな時間が過ぎる

カノンはポケットから指輪を取り出す

この指輪は魔王の宝物庫からもらってきたものだ

ミュラに渡すために掠め取ってきたものだった


「本当は君に渡そうと思ってたんだけどなぁ」


何気なくその指輪をはめてみる

すると大きな光に包まれた


「そなたは誰だ」


そよ風の中にかすかに聞こえる声


「誰だ!」

「妾は始祖の魔王 リリスよくぞ妾を世界に戻してくれた」

「始祖の魔王だと!?」


目の前に黒に飾られた女性が現れる

カノンは即時戦闘態勢に入る


「まて、早まるな、妾は貴殿と対峙するつもりはない

妾は現魔王に騙され指輪に封印された。その封印を解くために妾に力を貸してほしい」

「魔王は倒したよ」

「…?何を言っている?魔王はこの世界にはおらんぞ?」

「どういうことだ…」

「魔王バエルはまだこの世に現れていない、貴殿は私の力を使いバエルを倒すのだ」

「俺に何かメリットはあるのかよ」

「貴殿が望む力を与えようと」

「人を蘇らせる…とかでもか?」

「いや、それは無理だ」

「やっぱりな…」

「過去に戻って貴殿自身が救い直すのは可能だがな」


カノンは耳を疑った

過去に戻る…だと?

そんなことが可能なのか…


「可能だ、むしろ過去に戻らなければいけない、貴殿には地獄を味わってもらう」

「望むところだ」

「ふむ、では契約成立だな」


カノンはリリスに手を差し出し握手を交わす


「貴殿の名前を聞こうか」

「カノンだ」

「さぁ、カノン、私と貴殿の望みを変えに行こう」


最悪の終わりを変えるための俺とリリスの旅が今始まる

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